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ちいさな歴史集『うつろい、うつろわず』

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うつろひ、とは 転居だったり 枯れて散っていくもの 色づいていくもの のこと。 変わっていくことに美しさを見出だして 変わったり 変われなかったりするおはなしを ここに。
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「鬼芥子姫」

「鬼芥子姫」

阿瀬みち編
人魚アンソロジー『海界』より

「鬼芥子姫」

 

 差し出された盃を受け取りひとおもいに飲み干した。膳からみっつの骸骨が、こちらをみている。
 居並ぶ男たちのだれもが困惑するなか、兄ひとり満足そうに髭を撫でた。
「さすがわが妹よ。剛腹である」 
 市はほほえんだ。
 しゃれこうべの頂きはよく塗られ、肌がまろやかであった。ゆるやかな曲線にくちづけて傾ければ、艶やかな紅を損なうことな

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掌編小説「ガラシャ殺し」

掌編小説「ガラシャ殺し」

ーー侍女清原糸曰く

ガラシャ殺しーー清原糸曰く
              こい瀬伊音

 その茶碗を、「夫」は時々取り出して眺めた。正座した膝のまえに置き、ぬかづくようにしながら眺める。曲線、粒だった肌。釉の加減でくるまれたところと地肌を剥き出しにしたところ。ゆっくりと愛でたあと手に取った。つるりと丸みを帯びた側面から指のはらを這わせ、ざらりとの境目を撫でる。そのときには目を閉じていて、いえ、

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小説「流れ星」

小説「流れ星」

川端康成「眠れる美女」オマージュ作品として
幕末の退廃を描きました。
これは
土方の恋、最高峰。

 あとがき

「知れば迷い知らねば迷わぬ恋の道」
なんて句を残している土方。

 鬼の副長なのに…なんてかわいいひとだろう。
と、思ってしまったのでした。

 

「人魚姫の耳」

「人魚姫の耳」



ブンゲイファイトクラブ2(BFC2)にて
予選突破し、
一回戦出場を果たした作品です。

横書きはこちら。。。

人魚姫の耳

              こい瀬 伊音

 この人は、その気になればいつでもわたしをくびり殺せるんだ。
 はだかになるとき、いつもそんなことを思っていた。だって男のひとってたとえ細くても、骨と、腱とががっしりしていて、力を込めると筋肉がせりあがる。ぞくぞくする。荒れ

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