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『詩』やさしい視界

ありふれた いつもの光景が
やさしい視界に入ってくる
机の上の
昨日しまい忘れた詩集だの
ゆうべ冷やしておいたミルクだの
牛乳瓶の野の花だの
そういったものたちが
自由気ままに
やさしい視界に入ってくる


朝から夜まで
やさしい視界のシャッターを
僕は一日開け放しておく
そうすると
向かいの足の悪い老人だの
今日花開いた野萱草のかんぞうだの
電線工事のクレーンだの
そういったものもときどきは
やさしい視界の中をぎる


あまりに強い日差しのせいで
昼間は視界がいっぱいになり
僕はそっと背を向ける けれど
まだら模様の蝶々や
青空を限る飛行機雲や
郵便配達のバイクなどが
僕にだまって
こっそりと視界に入ってくる


夕暮れ
茜色のジュースを飲みながら
一日の出来事を語り合うとき
やさしい視界に食卓と
いつもの美しい時間が映り込む
そんなとき 色褪せた
懐かしい手紙の束を開くように
今日一日の感謝の山を
ひとつひとつ
僕は丁寧にほどいてゆく


やさしい視界のシャッターを
夜には静かに僕は下ろす
そうして寝入りばなのなか
僕は心に灯りをともす おそらくは
今日一日
視界に入ってきたものたちのために




散文詩のあとは普通の詩。
野萱草はユリ科の夏の自然草。




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