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『詩』風鈴

風鈴が鳴る
紅殻格子べんがらごうし葦戸よしどを抜けて 風が
畳の数を数えて通る
和綴わとじの古い和歌集が
座卓の上に開かれていて 寂しげに
時間がゆっくり劣化してゆく


裏庭で
鹿ししおどしがこだまして
一瞬 辺りが膨張し
それから徐々にしぼんでゆく
風鈴が鳴る 気まぐれに


飛び石を
下駄の音が渡ってゆき
からからと引き戸が開けられる
今しがた
畳を数えていた風が
急いで土間へ下りてゆく
微かに香の匂いがして
和歌集の頁が一枚
はらりと繰られる


ゆらゆらと
繰られた頁の本文ほんもん
こうの煙のように立ち上がる
美しい、草書の流れそのままに


風鈴が鳴る


葦戸を透かして
薄暗い畳の上に日差しが落ちる
紅殻格子と葦戸を抜けて
風がどこからか帰ってくる
和歌集の 黄ばんだ和紙の上に
草書の文字がするすると落ちる
微かに香の匂いがする


風鈴が鳴る
気まぐれに




自分の家には風鈴は下がっていないけれど、ご近所から時折聞こえてきます。その音色を聞きながら風鈴をどう歌おうか、考えていたら、こんな詩になりました。全くの空想ですが、和綴の本は好きです。

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