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アメリカ大統領選挙の開票報道のひどさ(5)


選挙後の大混乱の予測のいいかげんな解説については、この(5)は後編なので、(4)から読んでほしい。



選挙後の大混乱の予測:訴訟

 選挙後に大混乱が起きるという解説には、トランプが訴訟を起こして大混乱というものもあった。

 トランプが開票作業の差し止めを訴えたり、郵便投票の不正を訴えたり、再集計の要求をして正当な開票をさせずにトランプ勝利の結果に持っていく、または票の確定をさせずに各州での選挙人の確定を妨げる、などというものである。

 確かに、訴訟を起こす可能性はもちろん十分にあった。トランプは、自身の自尊心を傷つけるようなことに対しては、どんな手段にでも訴えて抵抗するタイプの人間だからである。

 しかし、そうした場合に、いくら共和党に近い裁判所もあるとは言え、曲りなりにも裁判所なのだから、一定の法的根拠に基づいて判断を下すのは当たり前である。その際に、このような明らかに不当で民主主義を根幹から否定するような訴えを裁判所が認めるのだろうか、と自分は疑問に思っていた。そんな可能性はほとんどないのではないか、と思っていた。

 そして、現に、そのような訴訟でトランプ側は次々に敗訴している。

 しかし、選挙前には、テレビなどの解説者たちは、大混乱になる可能性があると言うばかりであった。実際に提訴されてもトランプ側の裁判はほとんど門前払いにあってバイデン当選の場合にそれを妨げることは無理でしょう、混乱は表面的で、結果を揺るがすような混乱は起きないでしょう、とは言っていなかった。

 こんな訴訟は敗訴しそう、と考えるのが常識的だと思うのだが、解説者たちは、そういうことは、予想できなかったのだろうか?


 最高裁の判事を選挙前に急いで承認したのも、トランプが選挙に負けて提訴した場合に有利にするためだという解説も盛んにされていた。しかし、選挙後に聞くようになったのは、そもそも最高裁までは行く可能性が少ないし、仮に最高裁まで行ったとしても、保守派の判事でも法解釈をゆがめてまでもトランプに有利な判断をする可能性は低いのではないか、という説明である。この後者の説明はもっともだと思うし、選挙前から自分はそうだろうと思っていた。これについても多くの人も素直に考えればそう思うと思う。同性婚や中絶の問題など、価値観に基づく問題とはそもそも違うのである。でも、選挙前には、最高裁の判事は保守派が多数派なので、選挙結果をトランプに有利に覆す可能性があるかのような説明をよく耳にした。

 その可能性はゼロではないにしても、実際にはほとんど可能性のないことを、可能性がある程度あるかのように解説するのは視聴者を欺いていると自分は思う。何となく、アメリカの政治などに関するちょっとした知識からの安易な推測や、アメリカメディアであくまでも可能性の一つ(可能性は低いがそういうこともありうる)として報じられていたことを、なるべく視聴者の気を惹くように報じたような印象を自分は受ける。

選挙後の大混乱の予測:居座り

 さらに、トランプの任期が過ぎても大統領の座を明け渡さないでホワイトハウスにとどまり続けるという可能性にも解説者たちは言及していた。

 だが、いくら何でもそんなことが可能とは思われない。大統領でなくなった人間がホワイトハウスに不法に滞在していれば、それは法に違反している状態なのであって、治安機関によって速やかに排除されるだろう。

 解説者たちはそれが実際に起こりそうなのかそんなことはないのかに言及せず、そうした可能性に言及して、大混乱が起こるかのように報道していた。

 大混乱は現状、起きておらず、トランプが勝手に一方的に主張しているのみで、実際にはバイデン政権への移行が着々と進んでいる。


選挙後の大混乱の予測:まとめ

 一体、解説者たちは、どういう根拠に基づいて大混乱が起こる可能性がある、などと言っていたのか?

 予測することが難しいことであれば、自分は文句を言うつもりはない。例えば、安倍首相の突然の辞任を予見できたとは思えないし、コロナ感染者がいつどのくらい増加するかなど予想しがたいだろうし、大統領選を挟んで株価がかなり上昇することなども予測は難しかったと思う。

 しかし、選挙後の混乱の可能性は予測が難しいことでは全くなかったと思う。上で述べてきたように、トランプの異議申し立てなどが受け入れられる可能性は極めて低く、大混乱は起こらなそうだと考えるのが常識的な判断だったと思うのだが…。

 もしくは、大混乱などが起こらないだろうことは予想していたが、大混乱が起こる可能性が高そうだということにした方が、視聴率を取るために有利そうだから、大混乱が起こるかのように報道していたのだろうか?

 もし、そうだとしたら、そんな解説者たちを自分はジャーナリストや専門家だとは認めたくはない。


 いずれにしても、大混乱が起こるかのように報じていた解説者たちは、いずれにしても誤っていたのであり、心から反省してもらいたい。


まだ、続きがあるので、後日公開する。お楽しみに。

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