見出し画像

セッション定番曲その28:Smoke On the Water by Deep Purple

ロック系の曲はブルース進行のものでないといきなり合わせるのが難しいですが、これは有名なリフを中心にした数少ないセッション定番曲ですね。楽器屋さんで試奏する際の「禁止リフ」としても有名。聴き慣れ過ぎて、いまさら何についての歌なのか気にせずに歌っている人もいるかもしれませんが・・・
(歌詞は最下段に掲載)

和訳したものはあちこちのWebサイトに掲載されているので、ここではポイントだけ説明します。


ポイント1:「Smoke On the Water」は何について歌っているのか

神話などを題材にしたZep、黒魔術を題材にしたBlack Sabbathなどと比較すると、Deep Purpleの曲の歌詞は中2っぽいというか、思い付きっぽいものも多いです。この曲は彼らがアルバム「Machine Head」のレコーディングでスイスに滞在していた際に実体験した事件について歌ったもの。

Frank Zappa and the Mothers, Were at the best place around
But some stupid with a flare gun, Burned the place to the ground

レマン湖の畔のカジノハウス(DPがレコーディングしていた場所)で開かれたマザーズのコンサートで興奮した観客(バカ)が信号弾を撃って、それで火事が発生して大騒ぎに。湖面の煙と炎の様子を歌っています。当事者の彼らにとってはエキサイティングな出来事だったのでしょうね。


ポイント2:レコーディング

We all came out to Montreux, On the Lake Geneva shoreline
To make records with a mobile, We didn't have much time

「In Rock」でハードロック路線に舵を切り、大成功を手にした彼ら。この時代のバンドはライブ活動の合間を縫っての曲作り~レコーディングという忙しいスケジュールを強要されるのが普通でした。次の「Fireball」はまさにそういう状況だったようで、ロクに曲の準備も出来ていないのにレコーディングスタジオに入ってジャムりながら曲を仕上げていく感じ。結果的になんか完成度の低い、テンション低めのアルバムに終わってしまいました。起死回生を期して次のアルバム制作に入ったのがこの時期。ある程度まとまった時間が取れたものの、「We didn't have much time」締め切りを切られていた、と。気分を変える為にも都市部のレコーディングスタジオに籠るのではなく、リゾート地に場所を確保してのレコーディングに臨みます。

ポイント3:Rolling Stones Mobile Studio

To make records with a mobile
With the Rolling-truck-Stones-thing just outside, Making our music there

ローリングストーンズが所有してレンタルしていた有名な移動レコーディング機材です。大型トラックの荷台内にレコーディングに必要な機材を搭載したもの。音を出すスタジオ自体は山小屋でもホテルでも利用して、マイクをケーブルで接続して、録音~仮編集していくという感じです。

この機材を利用して制作されたアルバムは当事者のローリングストーンズをはじめとして沢山あります。

やはり短期間とはいえ、都会を離れて、メンバーとスタッフが一箇所に集まって寝泊りして、外に出れば気分転換も出来て、という環境は好影響があったのだと思います。音響的にもレコーディングスタジオとは異なり、響きの豊かなホテルの廊下で録音したり、山小屋の庭で録音したり、色々な試みがなされていた時期でした。

今では録音機材も小型化が進んで、パソコン1台あればそこそこのことが出来てしまうので隔世の感がありますね。

モービル・ユニット - Wikipedia

ポイント4:I know, I know we'll never forget

ということで慌ただしさも含めて忘れがたい体験だったと。
それを何のヒネリもなく歌詞にしてしまい、歌うのがこの時期の彼ららしい愚直さですね。で、この曲は大ヒットしてしまい、何千回も繰り返しステージ歌う羽目に。なんかちょっと辛いなぁ、そういう人生。

イアン・ギランに替わって加入したデビッド・カバーデイルは「We all came out」ではなくて「They all came out」と歌っていましたね。よい距離感かな。

ポイント5:単語や発音のポイント

知らない単語は固有名詞」という法則?がありますが、冒頭からいきなり出てきますね。
Montreux, Lake Geneva どちらも地名です。ジャズフェスティバルで有名なモントルー、フランス語系の地名を英語読みで発音。Lake Genevaは何故か日本語では「レマン湖」と呼ばれますが原名は「Lac Léman」なので実はそれに忠実。英語名の方が無理矢理感がありますね。どちらも固有名詞なので、聞こえてくる発音を素直になぞるしかないですね。

Frank Zappa and the Mothers(The Mothers of Invention)も固有名詞で、アーティスト名/バンド名です。一般的に大ヒットした作品はあまりありませんが、クセの強いテクニカルなメンバーを集めて、分類の難しいクセの強い作品を作り続けて、ミュージシャンの間では尊敬を集めていたバンドでした。このバンドの出身者は、エインズレー・ダンバー(多分この事件のライブにも参加)、ジョージ・デューク、ジャン=リュック・ポンティ、チェスター・トンプソン、テリー・ボジオ、など夢のような名前が並びます。

Funky Claude(Claude Nobs)も人名で、モントルー・ジャズフェスティバルの創設者。この火事の現場に居合わせていて、ライブ会場にいた若者達が逃げるのを助けた様子が讃えられています。

ハードロック曲なので、大半の言葉が明瞭にアクセントを付けて発音されており、特に実話に基づく物語なので、上記のような固有名詞も聞き取れるように丁寧に歌われています。そんなにテンポも速くないので、丁寧な発音と歌唱を心掛けましょう。

water」は実は発音が難しい単語のひとつ。まず「w」音をちゃんと出しましょう。唇を尖らせてから出すのがコツ、最初は大袈裟なくらいが丁度いい加減です。米国人なら「t」音を落として発音するところですが、イアン・ギランは英国人なのでちゃんと「t」音を発音しています。英国人だと「a」のところが喉奥で「o」に近い発音になりますね。歌っている時には差はそんなに気にならないですが。
日常的に使う単語なのにこれがネイティブに通じないと悲しい気持ちになりますね。

ポイント6:エンディング(Live in Japanバージョン)

スタジオ版ではフェードアウトで終わりますが、「Live in Japan(Made in Japan)」に収録されているバージョンでは有名なエンディングが付いています。これは「困った時にどの曲でも使える」エンディングのパターンとして有名ですね。ドラマーの人は是非覚えておいて活用しましょうwww

ポイント7:日本人の手拍子事件(Live in Japanバージョン)

イントロの際の日本人の観客の手拍子がバラバラだったので、リッチーが空ピックを入れて導いてイントロをやり直した様子が録音されています。これを例に出して、当時(1970年代前半)の「日本人のリズム感はぁ~」という通説もありますね。確かに民謡や演歌だと手拍子が「1拍、3拍、手の平擦り付き」になりますが。この時は「1, 2, 3, 4」の全拍で手拍子していて、その中での裏拍が出ていなくてキモチ悪かったのかもしれませんね。

ゆったりしたテンポの横ノリのギターリフ(リッチーは全部アップピッキング?)に、ハイハットは16で刻んで、ヘビーなベースが乗っかっていく、という工夫のあるイントロで実は難しいリズムの曲です。

↓こんな説も
日本人のリズム感にリッチーがキレた?・Smoke On The Water 手拍子事件

ポイント8:Glenn Hughes

この曲は歴代のDPのボーカリストの他、色々な人が歌っていますが、個人的に一番好きなのは、Glenn Hughesのバージョン。有名な「カリフォルニアジャム」のステージでは2番を歌っていますが、籠った声のソウルフルな歌唱にハイトーンのシャウトを混ぜて、彼独特な歌にしています。淡々と歌うよりも、事件の情景を浮かべながら感情をこめて歌いたいですね。
デビッド・カバーデイルはコーラスを付けるというよりも前面に出て歌いたがるグレンを鬱陶しがっていた時期もあるようですが・・・。

2:23 あたりから

カバーで有名なのは1989年のアルメニア地震救済の為のオールスター・チャリティー録音版。


■歌詞


We all came out to Montreux
On the Lake Geneva shoreline
To make records with a mobile
We didn't have much time
But Frank Zappa and the Mothers
Were at the best place around
But some stupid with a flare gun
Burned the place to the ground

Smoke on the water, And fire in the sky, Smoke on the water

They burned down the gambling house
It died with an awful sound
Funky Claude was running in and out
Pulling kids out the ground
When it all was over
We had to find another place
But Swiss time was running out
It seemed that we would lose the race

Smoke on the water, And fire in the sky, Smoke on the water

We ended up at the Grand Hotel
It was empty, cold and bare
But with the Rolling-truck-Stones-thing just outside
Making our music there
With a few red lights, a few old beds
We made a place to sweat
No matter what, we get out of this
I know, I know we'll never forget

Smoke on the water, And fire in the sky, Smoke on the water



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?