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セッション定番曲その29:Lullaby Of Birdland

ジャズの歌ものセッション定番曲、特に女性シンガーのレパートリーとして人気ですね。親しみやすいメロディでインストでも楽しめます。
(歌詞は最下段に掲載)

和訳したものはあちこちのWebサイトに掲載されているので、ここではポイントだけ説明します。


ポイント1:子守唄

以前取り上げたSummertimeなどもですが、子守唄って子供をあやす時に歌うものですよね。ただ、この曲は後述の「バードランド」というジャズクラブを舞台にしているもので、そこに集まる「いい歳をしたオトナ/紳士淑女」に向けて「ここを揺り籠だと思って寛いで過ごしてね、そこにはトキメキも安らぎも恋愛もあるよ」と歌っている訳です。
「あなたが音楽に酔いお酒に酔って吐息をつく時、それは私にはバードランドの子守唄に聴こえるわ」と。

「Lullaby」「Birdland」
歌い出しがいきなり発音の難しい言葉です。「L」音をしっかりと出しましょう。最初の関門。「bird」は日本語の「バード」よりも籠った暗い音です。

これから説明するように、実はカッコよく歌うのがとても難しい曲でもあり、ジャズボーカルを始めたばかりの人に人気がある曲ではありますが、落とし穴が色々あることを理解しておきましょう。チャレンジ!

ポイント2:バードランド

NYにあるジャズクラブ、1949年にチャーリー・パーカーのニックネーム「バード」にちなんで名付けられ開店しました。オーナーはモーリス・レヴィという人。チャーリー・パーカー自身は色々問題があって、この(自分の名前を冠した)クラブに出演出来ない時期もあったようです。

で、そのモーリスが、お店がスポンサーになるラジオ番組で流す曲を作って欲しいとジョージ・シアリング先生に依頼して出来たのがこの曲。今でいうCMソングみたいなもんですかね。「ドンドンドン、ド〇キー、ド〇・キホーテ」「にしたんたんたん、にしたんたんたん」みたいな。

ポイント3:Never in my wordland

Never in my wordland could there be ways to reveal
In a phrase, how I feel

いきなり発音も節回しも難しいパートが出てきます。
「Never」は「v」音をちゃんと出しましょう。少し擦れたような音です。
「wordland」は頭の「w」を、唇を尖らせて準備して出しましょう。
「could there be ways to reveal」はひとかたりとして発音出来るように練習しましょう。
「phrase」は「ph=f」音をちゃんと。
ふう・・・

「自分の語彙の範疇では、この気持ちをうまく言い表すことが出来ない」と言っています。だからこそメロディを付けて歌で伝えるのだ、と。
birdland:音/音楽の世界、感覚」「wordland:言葉の世界、理性」という対比になっていますね。

いわゆる「2拍3連(4/4を6拍で刻む的な)」になっている箇所があって、多分、歌詞が先にあったらこんな複雑なメロディにはなっていなかったかもしれないです。曲が先にあって後から歌詞を付けたものは、かなり無理矢理な節回しの場合があり、それがまたすんなりいかないのが面白いところではありますが。

ポイント4:turtledoves

「Birdland」だから具体的な鳥の名前を例えに出した、というところでしょうか。「キジバト/コキジバト」は日本でも見られますね。こんな感じのリズミカルな鳴き方をするようです。

BPM: 72くらい

カップルの絆が深い鳥の代表として使われるようです。

dove」の発音ですが、綴りに引っ張られて「オ」音で歌っているのを見かけますが、発音記号としては「dʌ'v」でいわゆる「小さいア」です。

いずれそれぞれの曲のところにも書きますが、この「綴りに引っ張られた発音間違い」って意外に多そうです。

・「among」を「アモング」と「o」音で発音してしまう
・「devil」を「デヴィル」と「i」音で発音してしまう
とか。

耳から入って覚えていけば間違えようがないのですが、歌詞を読んで覚えようとすると間違いが起きてしまいがちですね。

ポイント5:That's the kind of magic music we make with our lips, When we kiss

「キスを交わす時に2人の唇が奏でる音/音楽」
それはカップルによって様々でしょうね。軽めのものもあれば、ねっとり濃厚な音楽の場合も・・・
まだ性的な表現についての制約が多かった時代、この歌詞でも充分に官能的に聞こえたのかもしれません。そんな思いを込めて歌い、演奏しましょう。

「magic」は日本語にもなっている言葉ですが、これを何故か「mazic」みたいな感じで歌っているのを時々聴きます。直後の「music」に引っ張られてしまうのでしょうか。気を付けましょう。

ポイント6:サビ

And there's a weepy 'ol willow
He really knows how to cry
That's how I'd cry on my pillow
If you should tell me farewell and goodbye

「willow」と「pillow」で韻を踏んでいます。古典的なパターンですが。
どちらも発音の難しい単語なので、明確に発音しましょう。

「to cry」と「goodbye」もさりげなく最後の音を「ai」で揃えていて、これも韻を踏んだかたちに。

こういう工夫が気持ちの良いメロディを際立たせることに繋がっていますね。

ポイント7:ジャズ的進行と美メロディ

黒本を参考にすると、「Fm」キーと平行調「Ab(メジャー)」を所謂「2-5」で繋げて、一見スムースな進行ですが、マイナーな雰囲気とメジャーな雰囲気が交互に出てきて、そこに美しいメロディが乗っかっている作りです。作曲者は「ちゃっちゃっと作った」と言っているので、それ以前のスタンダード曲を応用したか、なかば手癖みたいな感じで書いたんでしょうね。これがヒットしてしまうのがジャズ全盛期ですね。

歌う場合には目まぐるしく変わる伴奏の雰囲気に引っ張られ過ぎずにスムースにメロディを歌うことを心掛けましょう。マイナーな雰囲気を強調するとブルージーな、ちょっとけだるい歌になりますが。

ボーカルフェイクを試みる時には上記のような進行になっていることに注意が必要ですね。「1-6-2-5」をただ機械的に追い掛けていくと、楽器と変わらず、「声」である意味合いが薄れてしまうので、工夫したいところ。

ポイント8:エンディング

ちゃんと打合わせしておかないと、エンディングがぐちゃぐちゃになりやすい曲です。最後のメロディ/コードに終始感が薄くて、特にテンポよく走っている時には追われなくなっている場面をよく見かけます。
エンディングはフロント(ボーカル)の責任」とよく言われるように、どう終わらせるかの明確なイメージを持ってジャムセッションに臨みましょう。そうすれば多少強引ではあってもなんとか終われるものです。

歌う人はサラ・ヴォーンのバージョンのイメージが強いと思うので、あのイントロ/エンディングの「シャバダバ」を使うと決めて、演奏者に伝えておけば良いと思います。


エンディングの正解はひとつじゃないので、31小節目の「AbM7」を伸ばして、32小節目に「Eb7」を持ってきて、「AbM7」で終わるパターンもあり。こっちの方が歌い切った感があるかも。
また、もう一回「パートA」に戻って「1カッコ」でリットして終わる手もあります。

いずれにしても、ちゃんと決めておいて、意思疎通しておくのが大事ですね。演奏する方もうまく意図を汲み取ってあげてください。エンディングががすんなりいかないと、いくらそこまでが素晴らしくして、拍手のタイミングがなんかグズグズになってしまうので。

ポイント9:どうアレンジするか?

まともに「ジャズらしく」スイングでやるのが勿論一般的ですが・・・

Tito Puente先生の手にかかえればご機嫌なラテンに。情緒もへったくれも無いですが。1985年録音


となれば当然ボサノバにも。
歌がちょっと慌ただしい。


これはレゲエというよりスカ寄りか?
能天気ですね〜


私は機会があればファンクにアレンジしてやっています。どこが子守唄やねん・・・

念の為、原曲も聴いておきましょう。このピアノとビブラフォンを重ねるアレンジはジョージ・シアリングの十八番で大流行したそうです。


Ella Fitzgerald、なんだか重厚。


Chris Connor、このバージョンのファンも多いですね。


Mariah Careyのクセの強い歌唱。2014年のライブ録音のようです。


Dianne Reeves、力強い歌唱。


Lizz Wright、低音部が気持ちいい。


Mel Tormé、ライブ録音。自由自在。


小林桂の歌唱、好みの分かれるところ。私には冒頭の「Birdland」の発音がダメでした。何だか頻繁に鼻に抜けてしまう音があって・・・


阿川泰子、今聴くとなんだか子供が歌っているみたいに聴こえますね。発音の難しい曲だなとあらためて感じます。


Stan Getz、1952年の録音


■歌詞


Lullaby of Birdland that's what I
Always hear, when you sigh
Never in my wordland could there be ways to reveal
In a phrase, how I feel

Have you ever heard two turtledoves
Bill and coo when they love?
That's the kind of magic music we make with our lips
When we kiss

And there's a weepy 'ol willow
He really knows how to cry
That's how I'd cry on my pillow
If you should tell me farewell and goodbye

Lullaby of Birdland, whisper low
Kiss me sweet, and we'll go
Flying high in Birdland high in the sky up above
All because we're in love


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