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7万円の思い出

昨日、大切な物とお別れをした。
お付き合いは3年だけど思い出はそれ以上ある。

ご好意で車屋さんから7万円で譲っていただいたダイハツムーヴ。13年落ちで17,000キロしか走ってないから、街乗りなら問題ないでしょう、とお墨付きをいただいた。

全然問題ないもんだから、その年の夏休みには日帰りで和歌山のアドベンチャーワールドにフェリーも使わずに行った。

ずっと放置されていて突然オーナーが変わったムーヴちゃんは環境に慣れるのに時間がかかっただろう。
そこにまさか狂ったオーナーに往復800キロ走らされるとは思わなかっただろう。
とんでもないオーナーのところに売り飛ばされたもんだ。

それからも突然大阪に連れて行かれたり、岡山や高知は数えきれず。問題ない、というお墨付きは怖いものだ。

気がつけば助手席に毎回犬が乗ってくるじゃないか、と驚いただろう。
買い物も仕事も息子の学校も、2分くらいで行けるところも、スマホ、財布、よく肥えた犬の3点セットだった。

おいおい、シートも床も毛だらけじゃないか!

シートにコロコロしてもらっても全然きれいになってないぞ! 

窓ガラスに鼻スタンプつけるのやめろよ!

ムーヴちゃんは言いたいことはまだまだあっただろう。

後部座席はなぜかゴミだらけだ。
お菓子のゴミくらいそこのゴミ袋に入れろよ、お前もう中学生だろ?

後部座席から足で助手席の背中を押すのをやめろよ、痛いだろ!
そんなことばかりするからシートの背中が破れてきたぞ。

私は自分で補修できないんだぞ!

ムーヴちゃんの声はオーナーの息子には届かなかったと思われる。


なぜかオーナーは九州に2回も行った。

2回目は定員オーバーだったぞ。
死んだじいちゃんとぱぱさんと、死んだこっちゃんとコロンと北海道で買ったぬいぐるみのほーちゃんを乗せて走ったけど、こんなに乗せてて大丈夫かとヒヤヒヤしたよ。

ある日は深夜2時にパンクした。

こんな時間にどうしたらいいのかわからないから、誰にも電話しないで家まで帰ったよなあ。 

家までそう遠くはないけれど、「ガッコン、バッコン」と大きな音が丑三つ時に響く。静かな山間にこだまが響くよ、「ガッコン、バッコン。」

やっぱり家が遠く感じた。

タイヤもホイルも心配だからスペアタイヤと交換したら?と思ったけど、まあ女性一人でやるのは無理があったに違いない。

ある時はスピード違反、ある時は信号無視、おまわりさんと対決して最後は涙流して訴えたよなあ。
「黄色で侵入しました、赤じゃない!」

おもしろかったよな、いろんなことがあったよな。
まさか最後は和歌山からの帰りに突然の爆音。

どこからヤンキーがくるのか、いや外車が来るのか。
キョロキョロ見渡しても後ろから追いかけてくる車はいない。

この音何?
まさか私?ムーヴ?

そう、ぼぼぼぼぼぼぼぼ、バーン、ぼぼぼ、んぼぼぼ、アクセルワークに合わせて、ぼぼぼぼぼぼぼぼと爆音で鳴っていることに気付く。

「ままあー、この車爆発するん?怖いー、降りようー!」
息子よ、高速上ではどうにもならぬ。

サービスエリアで停めると少しうるさいくらいだが、アクセル踏むとやっぱりダメだ、爆音が恥ずかしすぎる。
マフラーにとうとう穴が空いたのだろう。

終わった、全て終わった。 

ぼぼぼぼ言わせながらの帰り道、キミが長距離にむいていなくて、とうとう怒り出したのだと思った。

先月はバッテリーが上がって新品に交換、先週はドアノブが取れそうになっていて交換。

あと5年乗るつもりでいたのに。
マフラーはオーナーのその気持ちを無視して完全に壊れていた。

たった3年を濃密に過ごした。

息子と犬と3人で楽しく乗った。
車内が狭いので息子も話しかければよく答えてくれたし、後ろからマクドのポテトを食べさせてくれたりもした。

次の車で今まで以上の思い出は作れるのかな。ちょうど3年、今までありがとう。

思ったより早い別れ。自業自得なのか、こんなものなのか。

もうお空に行ってしまった犬との思い出もそのまま持っていかないで。
スクラップになるのはカタチがある物だけにして。

キミを迎えた時にサヨナラした車のことも大好きだったけど、ムーヴちゃんは7万円でもとても愛おしく、全てを無くした私にはピッタリだった。

家族のように思っていたよ。遠出ばっかりしてごめんね。楽しかった日々をありがとう。

思い出はスクラップにはならない。

思い出は新しい車にもう乗っている。


半ば強制的に新しい道を走り始めることになってしまった私達。

季節は梅雨の走り。


***


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