生まれ育った地元でお店を営む「うま味」と「つらみ」
お店を開業するときに、まず悩むのが立地です。憧れの土地で開くのか、地元を選ぶか。それとも大体のエリアや沿線を決めておいて、その中から良さげな物件に当たっていくのか。考えは人それぞれでしょう。
うちの店の場合、夫が後継ぎということもあって自動的に地元で商売することが決まっていました。彼は生まれも育ちも今の土地。周囲には夫のことを子どもの頃から知っている人もたくさんいます。
私自身は子どもの頃から引っ越しが多く、また過去に自分でお店を開いたときも生まれ育った場所から遠く離れた土地だったので、地元で商売するということが何を意味するのかよくわかっていませんでした。
9年女将業をやってみて気づいたのは、地元での商売はたしかにうま味もある。が、同時に地元ならではのつらみもついてまわるんだなってことでした。
たしかに店にはよく来てくれる
地元で商売をするというと、おそらく多くの人は、知り合いが多いから集客に困らないと考えると思います。これは半分当たってて、半分は外れてるかなと。
たしかに地元で商売をしていると知り合いが多いのでお店にはよく来てくださいます。平日しか休めない夫のために、休日しか集まれない同級生がうちで同窓会を開いてくれたこともありました。夫と同じように地元育ちでそのまま地元で働いている人もままいるので、そうした人たちとは店を通して長い付き合いをしているようです。
それから冒頭にも書いたとおり、夫のことを子どもの頃から知っているというおじさんおばさん方もたくさんいるので、よその店に行くならうちの店に、と言って来てくださる方が少なくないのも事実です。このへんはうちが老舗というのも関係していて、夫より先に先代の母が関係を築いてきたことが大きいと思います(ちなみに先代の地元もすぐ近所です)。
ただ、知り合いだけで商売が成り立つかと言ったらこれはまた別の話です。
たしかに夫が二十歳を過ぎるぐらいまでは地元にもたくさん友人がいました。でも多くは仕事や結婚で県外に引っ越していて、会うのは数年に一度ということも珍しくありません。また学生のときにはすごく仲が良くても、年齢を重ねるにつれて疎遠になった人も多いです。
新規開業した人の話を聞くと、初めはご祝儀代わりにたくさんの友人が来てくれるけど、それもときと共に次第に減っていくものみたいです。
昔から知っているご近所さんも、確かに長い間うちに通ってくれています。ただ、昔は密に通ってくれていた人も不景気でだいぶその数が減ってしまったのと、高齢になりあまり出歩かなくなったり、亡くなってしまったり、引っ越してしまった人も多いです。うちは決して高級店ではないですが安くもないので、いくら知り合いだからと言ってもなかなかお財布との兼ね合いで来られない人もいるのかなと想像しています。
知り合いを当てにして商売をするのはなかなか厳しいのです。
SNSいらずの強力な拡散力が武器になる
じゃあ地元でお店を始めるのは大してメリットがないのかと言われたら、そんなこともありません。
私が思うに、地元で開業するメリットって、知り合いが直接来店してくれることよりも、むしろ知り合い伝いに店の存在が広まっていくことの方が大きいんじゃないかなって思うんですよね。
たとえばA君という夫の友人がいたとして、彼が直接うちに来てくれなくても、別の友人に、「知ってる?あそこの店って中学のとき同じクラスだった小保下がやってるんだよ」とか言ってくれたり「あの店俺の同級生がやってるんだよね。今度行ってあげてよ」とかって誰かに伝えてくれたりするわけです。もちろんお店に直接知り合いをつれて来て紹介してくれることもあります。
そうやって広めてもらうことで、うちの店を知っている人たちがどんどん増えていきます。そしてたまたまある日突然そばが食べたくなったときに「そういえばA君の同級生がやってるって言っていたな」って思い出してもらえて、来店してもらえるっていうのが、地元で商売をする大きなメリットだと思うんですよね。
実はうちの夫以外にも、地元で飲食店をやっている夫の同級生や後輩がいるんです。彼らをみていてもやはり、へんぴな場所にあるわりに地域での認知度が高いなと感じます。
SNSなんてやってないか、やっていても大して力を入れてなかったりするんですけど、それでも多くの人がお店のことを知ってるんですよね。それってやはり、地元の友人やご近所さんが(そんなに仲良くなくても)「あそこ〇〇さんとこの〇〇くんのお店らしいよ」と広めてくれるからなんです。
知り合いだけで食べていくのは流石に難しいですが、認知度を高めて集客に有利にするという意味ではやっぱり地元が強いなと思います。
男同士の序列はどこまでも
今度は逆に、地元ならではのつらみな点をみてみます。
私が夫を見ていてこれはつらいなぁと思うのは、地元での厳しい上下関係です。学生のときの序列が、そのまま大人になっても続いているのには驚きました。男性が序列を無視するということは、すなわち小さなコミュニティ内での死を意味しますから、守らないわけにはいかないのだといいます。
この序列が店の営業にどんな影響を与えているかというと、たとえば先輩が店にやってくると、なかなか帰ってくれない問題が勃発します。
私の記憶では、22時閉店だった当時、日付が変わった夜中1時まで飲んでた先輩がいました。それに対して夫は何も言わないし、普段ならそれとなく退店を促す私も、男の縦社会に割って入ることはできませんから何も言えませんでした。ときどきこういうことがあるので、私は頃合いを見てお先に失礼してます。
店に飲みにきて、そのあと飲みに誘われることも多いですね。夫的には、仕事がある日は早く帰って休みたいそうなんですが、先輩に誘われたら絶対なので断ることはできません。
帰るのが遅いだけじゃなくて来るのが早いパターンもあります。オープンから1時間も早くやってきて「適当に飲んでるから仕込みやっててよ」と。こういうの困るんですよね〜まじで。
夫曰く1歳でも年上なら従わないといけないそうなので、年齢を重ねたからといって完全に解放されるわけでもないのが辛いところです。そうしょっちゅうあるわけじゃないのが幸いですが、巻き込まれる私もたまりません。
(私からするととても不思議なんですが、夫はこんな迷惑な人たちでも「大事な先輩だ」って本気で言ってるので男性っていう生き物はよくわからないなと思います)
まぁそれでも地元を離れずに商売を続けてきたのは、やはりそうしたつらみを許容してでもメリットのほうが大きいと感じるからなんですよね。なんといってもウン10年かけて築いてきた地盤はなんやかんやいって強固ですよ。
良い面があれば必ず悪い面もあるのが世の常。メリットだけ享受することができないのは私も夫もよく理解しているつもりです。
なのでつらみは甘んじて受け入れつつ、再び地元でお店が再開できるよう、これからテナント探しをスタートさせるところです。
夫はもちろんのこと、私もそこそこいい年齢になってきたので、下の世代を困らせるようなオジサンオバサンにならないよう気をつけたいと思います。
それではまた次回☆
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