「疲弊せずに続けられる小さな飲食店」をめざして
旦那が3代目を務める小さな飲食店の女将になって、丸6年が経った。
はじめた当時の経営状況といったらもう最悪で。忙しいはずのディナータイムなのにやることといえば掃除ばかり。家賃は遅れ、時給制だった私の給料は2ヶ月待ったこともある。
ただ、この状況がかえって私にやる気を出させてくれたのも事実。「変えてやろう。必ず忙しい店にしてやろうじゃないか」と決意を固めることができた。
そうと決めたら一直線。メニュー構成の変更や禁煙席の設置、SNSの活用などをはじめ、テレビの音量や食器をしまう位置などの細かい部分まで、ありとあらゆることを変えた。
中でも私が一番力を入れたのは、来てくださったお客さまを離さないためにはどうしたら良いか、つまりリピート率を上げることだった。
過去にお水のシゴトを噛んだ経験もここへきて活きてきたと思う。
その後、みごと5年連続で売上をあげ続け、ここ20年でいちばんの好景気となった。
昨年度こそ、災害や消費増税の影響で売上高を更新することはできなかったけど、悩むほど数字は悪くない。
一方この6年で見えてきたのは、今後の店の経営、ひいては日本の小さな個人飲食店の未来に関わる大きな課題だった。
それはまさしく労働時間の問題。
このままの働き方では旦那が疲弊してしまう。売上があがってもそのうち店を続けられなくなるんじゃないかという危機感を、私は持たざるを得なかった。
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私たち自営業者は、仕事の時間も量も、すべて自分たちの裁量でどこまでも伸ばすことができる。
たとえば、旦那の労働時間は現状で、1日あたり12〜13時間。3年ほど前に閉店時間を1時間短くしてもこの時間なのだ。もちろん繁忙期はそれ以上になることもある。
私が「ちょっと働きすぎだと思うよ?」と言っても「個人の飲食店なんてこんなもんだよ」と意に介さない。
確かに飲食業というのはやることが膨大にあり、そのわりに利益も少ない。だから利益を増やすために営業時間を長くする、というオーナーさんは多い。
すると付随する雑務も増えて、結局は労働時間がどんどん長くなってしまう。
うちの店もかつては20時に閉めていたそうだけど、私が働き始めた当時は23時まで営業していた。定休日のない時期もあったらしい。
若いときならいいのだけど、年齢を重ねるごとに心身は悲鳴を上げる。
うちの旦那もまた、寝不足に腰痛、ふくらはぎに血管が浮き出る「下肢静脈瘤(かしじょうみゃくりゅう)」にはたびたび悩まされてきた。
すべて働きすぎが災いしておこったもの。数字に表せないような積み重なる疲労も相当なものだと思う。
もうすぐ51歳になる旦那は「死ぬまで働いていたい。やることがない人生はつまらない」というけれど、このままじゃあと10年持つかも怪しい。
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そんなことを考えていた矢先の昨秋、大家さんから店舗立ち退きの要請があった。2020年の秋までに移転してほしいという。
老朽化による建て替えとのことなので致し方ない。よそで一から店の作り直しだ。近所でいい空き物件が出るかもわからない。50を過ぎた旦那に銀行はいくらお金を貸してくれるだろうか。不安は募る。
ただそれと同時に、私はひとつの希望を見出してもいる。
せっかく新たにお店を作ることができるのだから、これを機に小さな飲食店のあり方を変えられないだろうか。
定年のない自営業。人生100年時代。細くなってもいいから少しでも長く、そして元気で幸せに事業を続けていくことは、これからの個人飲食店の課題だと思うのだ。私はそこに挑戦したい。
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具体的にいうと、個人経営の飲食店を疲弊せずに続けていくための大きな柱となるのはやはり「健康」。もちろん体も心も、ともに健やかであることが大事になってくる。
そのためにはまず、小さな飲食業の特徴として「長時間労働になりやすい」という点を過去のものにしないといけない。
ただ、働き方を変えるべきなのは基本的に旦那で、私じゃない。長い年月をかけて積み重ねてきた彼の「仕事への価値観」を他人が変えるには相当に根気がいるはず。
というか、人の考えを無理やり変えることなんてきっとできないだろうから、小さな「プレゼン」を重ねて納得してもらうだとか、私や家族のためにこうしてほしいといった率直な「お願い」をする形になっていくとは思う。
感情に訴えかけることがまかり通るのは家族経営ならでは。かならず良い方向に歩めるとは限らないけれど「違うな」と思ったらまたすぐに方向転換できるのも小規模経営の良さなのだ。
そんなわけで、秋にリニューアルする新店舗では「疲弊せずに続けられる小さな飲食店」をひとつのテーマとして運営していきたいと思う。
そして、そんな店作りをするために何を考えて、どう行動しているのか、その経緯をnoteのマガジンにまとめていく。
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学歴も何のキャリアもない私が、小さいけれど3代続いてきた店の運命を握っている。こんな機会に恵まれたことに感謝しつつ、自分がどこまでやれるのかを試してみたい。
もちろん私はプロのコンサルタントでもベテランの経営者でもないから、迷うこともあればおかしなことを書くこともあるかもしれない。
100のことをやってみたけど、10しかうまくいきませんでした、なんて可能性もある。温かく見守っていただければ嬉しい。
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