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人へと渡すお金の価値【前田さんのWSレポ②】

効率的なのもいいけど、非効率の中から生まれるめんどくささも良い。

2回目のワークショップでは「ペルソナ」の設定について話し合われた。

「ペルソナ」とは?
ペルソナとは、ユーザー中心設計やマーケティングにおいて、サイト、ブランド、製品を使用する典型的なユーザーを表すために作成された仮想的な人物像のことである。種類に応じて、ユーザーペルソナ、カスタマーペルソナ、バイヤーペルソナとも呼ばれる。(ウィキペディア)

誰か1人を具体的にイメージしてサービスや行動などを考えた方が、結果的に多くの人に届くようになると言われている。

この街を気に入ってくれる人はどんな人だろうか?
どういう仕事をして、どんな趣味があって、普段どんな暮らし方をしているだろうか?
そしてその人はどんな目標を持ち、悩み、価値観を持っているのだろうか?

実際に長田区のまちで暮らす人へのインタビューを参考に、約1時間以上をかけてイメージを作っていった。

そんな「ペルソナ」のワークショップを眺めながら、ふと日常の出来事を思い出した。そんなお話。

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近所にある弁当屋の話

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一人暮らしをしていたある日。近所にお昼ご飯を買いに出かけた時のこと。商店街の中をうろついていると、390円という破格の安さで販売してるお弁当屋さんに目がいった。「やすー」「ほんでめっちゃボリュームあるやん」。

30歳を越えたけどまだまだ質より量だ。時間は13時半。ランチタイムは終わり軒先に並べられた机の上には弁当がほとんどなかったけどここで買おう。奥にはおおらかそうな大将とオープンな空気を醸し出すママがいた。

「唐揚げとピーマンの肉詰め入ってるコレください。あ、あと100円+するので大盛りで」。
「はーい!この近くに住んでるの?」
「そうなんですー」
「足も長くてスラっとしててええなぁ、オシャレさんやねー」
「いや〜、ありがとうございます」

なんて言葉を交わした。うん、うれしい。

それから週に2〜3回のペースで足を運んだ。

「ひゃー、また来てくれたん!ありがと〜!」
いつも温かく声をかけてくれる。
「ほんまいつもオシャレやわ」「今時の子やね〜」
褒めちぎれられる。嘘みたいに。

お弁当を買いに来たのに「ただいま」と言い間違いそうな雰囲気。いや、多分間違ったとしても「おかえり〜」と受け入れてくれそうだ。時間にすると20〜30秒くらいだけど、1人暮らしの自分にとってはとても有意義というか、ホッコリとする時間。そういえばお名前なんていうんやろ?あのお店の名前も知らんわ。まぁいっか。でも純粋に嬉しくホカホカのお米と同じくらい心が温かくなるお弁当だった。


近所のある喫茶店の話

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職場の近くにある喫茶店。朝4時からオープンしていてモーニングにビールも出ている。その名もモーニングビール。近くに漁港があったり、深夜まで働いている人のためらしい。流石に朝からビールを頼んだことはないけど、アイスラテとトーストのセットを頼んで大きなテレビを観ながら1日の予定を立てたりする。

「何しましょー?」
ある日のランチ。小腹が空いた程度なのでサラっと食べてコーヒーでも飲もうと思った。

「じゃあ、単品のうどんで!」
「はーい、うどんひとつ〜」

10分後。

「お待たせしました〜うどんです」
「ありがとうございまーす」

「あとこれ、お漬物とご飯ね」
「ありがとうございまーす」

「あとオカズもどうぞ」
「あ、ありがとうございまーす」

「わらび餅いる?孫に食べさそ思ってたやつがちょっと余ってるねん」
「あ、、ありがとうございまーす」

あっという間に定食になった。
なんなら本来の定食を超える豪華さとボリューム。

もしかして、食べ盛りの高校球児やと思われてる?
それともリトルリーグに勤しむ少年やと思われてる?
思わせてくれるくらい、いつもサービスしてくれる。

「儲けることだけを考えてたらアカンねん」
「私は若い子がモリモリ食べてくれたら嬉しいんよー」

そういえば子どもの頃、同じようなことを親戚のおばあちゃんに言われていたような気がした。いや、近所の人だっけなあ?学校の先生だっけなあ?
いずれにしても、子どもの頃って名前も把握していない見知らぬ人も気にかけてくれた記憶がある。

ここに来ると子どもの頃に戻れる…っていうと変だけど、仕事や友人関係の中にある自分でもない何者でもない自分でいれる。そんな時間が時に必要だったりするなあと。

溢れんばかりの白米とおかずのサービス。なんやかんやでいつも大盛りを頼むけど、量だけではない気持ちも受け取っていつも満腹になれる。


近所の市場の惣菜屋さん

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2021年、春。2度目の緊急事態宣言が出てピリピリした空気が流れ続けていた頃。
ずっとコンビニ飯ばかりを食べていたけど、体調を崩していたのでまずは食事を改めたいと思うようになった。そこで家の近所にある市場へと通うようになった。

震災の日、たまたま営業をしてなかったこともあり大きな被害を免れた。おかげで当時の面影が残っているそんな場所。

とはいえお店の数は少なくなった。年に一度行われるイベントでは多くの人が賑わっている。コロナ禍の今では考えられないけど。

その中にある惣菜屋さん。

最初は同じ職場の子が「あそこの惣菜屋さん美味しいですよ」と教えてくれたことがキッカケだった。揚げ物、粉物、野菜の一品料理からカレーライスまである。守備範囲がめっちゃ広くて値段が安い。その分迷ってしまうけど、困ったら見繕ってくれる。

「さぁ、どれしましょう?」
「ガッツリ食べたいけど、なんか身体に沁みるような感じがいいですね」
「じゃあ肉じゃがとちらし寿司がええんちゃうかな?」

「家で料理はするんか?」
「全然しないんですよー」
「まあそんなもんやろなー」

「箸何本いる?」
「あ、1つください」
「1人暮らしやったらもっといるやろ?おまけにつけとくわ」
そう言ってから毎回2本以上、多い時は5〜6本袋の中に入れてくれるようになった。

最近自炊を始めたから買いに行く機会が減ってきたけど、ちょっと小腹が空いた時や一手間かけたご飯が作れないときは使わせてもらいたいなと思う。

お金+αもある街

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そんなことを思い出した理由は、ワークショップで出てきたペルソナのキーワードが自分に似ていたから。

・30代のフリーランス
・SNSは大体使っている
・テレビよりもネットで情報を拾っている
・Apple製品を使っている
などなど。

これだけを見るとイマドキな働き方。だけど、利便性や効率性だけを重視する人よりも、暮らしの中にある豊かさや、ちょっとしためんどくささの中にある価値を大切にするような人が落ち着くのかもしれません。

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ネット環境や仕事がしやすい環境は都心にたくさんあるし、広大な自然の中で働きたければWi-Fiを持っていけばいい。

100円だって、1,000円だって、10,000円だって、数字としてのお金は変わらない。だけど、顔の見える関係性を大事にするこの街で支払うお金には、数字には乗らない豊かな価値があるような気がします。


写真提供:阪下滉成

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この記事は、長田区に住む前田彰さんに、神戸・長田生き残り戦略ワークショップ第2回のレポートとして執筆していただきました。
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