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創作

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執筆した小説を公開しています。ぜひ読んでみてください。
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#短編小説

(創作)J・アーノルドの手紙と小説

 いまぼくが書こうとしている文章は、本当はもっとずっと長く、大きなものになるはずだった。そう決心したのは何年も前で、ぼくはまだ野心と希望ににあふれた人間だったから、そうすることを当たり前だと思っていた。けれど、時間はおそろしいものだ。「あの経験」以外を除いてすべては何も変わらず、ぴくりとも動こうとしなかったのに、驚くほどの早さで月日は流れて、結局ぼくはタイプひとつ触ろうとせず、机に向き合おうともし

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(創作)大きな犬

    -犬にまつわるひとつの断片-

 タロウの寝床が冷たくなって、二十四回目の朝がやってきた。いつもなら散歩のために早く起きなければならないマサルは、三十分も遅く寝坊してしまい、危うく学校に遅刻しそうになる。五年も一緒に住んだ飼い犬だ。愛犬を失った悲しみもあるが、もう面倒を見なくてもいいという浅はかな安心感が彼の眠気を増大させた。布団から飛び起きると急いで服を着替え、朝食も食べずに歯を磨き、ラ

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(創作)The Girl

 私が喋らなければいけないことに気づいたのは、観客の視線が一挙に私へ向いたときだった。白熱したスポットライトが体に当たった。火照った顔の内側で必死に次のセリフを思い出そうと努力するが、それは徒労にすぎず、もはや直前まで自分自身が何者だったのかも思い出すことが難しかった。私は誰だろう。これから何をするつもりなのだろう。そう何度も反芻するが、心臓の鼓動は早すぎる時計のように私の気持ちを急がせている。

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(創作)舟のうえ

 ジュニアは、父のフランクに誘われて釣りへ行くことにした。日曜日のよく晴れた日だった。空に雲はない。フォードのマスタングに乗ると、湖まで一時間ほどのドライブが始まる。
 父は最近母と折り合いが悪く、そのために自分が利用されていることは、まだ幼いジュニアにも想像ができた。母には教会に行くと伝えている。父は絶対に秘密にしろと言い、ジュニアは口をつむぐと約束した。
 もとから二人はよく釣りに出掛けていた

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(創作)女のいる帝国

 一つの帝国が生まれ、栄え、衰え、滅びる。後から想い返せば、それは男たちの些末な夢だったのかもしれない。廃墟に流れる風が伝えるものは、もはやそこで誰が暮らしていたのかも分からない、全てが混然一体となった過去だった。あの男たちは一体、歴史のどこへ消えていったのだろうか。そして現代の建国者たちもまた、失われていく権力の中で、何を目撃しているのだろうか。
 上は一面の青。そこにひび割れのように黒い線が幾

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(創作)遊園地の大人たち

(創作)遊園地の大人たち

 降水確率は九十パーセントと今朝の天気予報は言っていた。ぼくが仕事を終えるころには、窓を這うしずくの群れが、ちらちらとふるえながら音を立てはじめていた。ちょうど夜の十時だ。腕時計と壁にかかっている時計の針を見比べると、会社の時計は三分早いことがわかった。今日の業績をぜんぶパソコンに入力したら帰れる。あと少しだ。そう自分に言い聞かせながら指の関節を曲げ伸ばししてキーボードを押しつづけるが、頭はぼんや

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(創作)琥珀の家

 家と家のあいだを走る道路のうえで、一頭の犬が、肉をくわえていた。人はみな寝静まったころだ。街灯だけが青白い光で道を照らし、家々の窓は暗い影で覆われていた。湿った眼球を光らせながら、犬は怒りと満足感にひたっている。血で濡れた顎を上向きにし、犬はこれから向かう場所を探しているが、街ぜんたいが他人の侵入を拒むように、あたりのドアや窓は、すべて閉まりきっていた。ここに犬がいることを、誰も知らない。荒い息

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(創作)眠れないまま思うこと

 どこからか、水の流れる音がしてした。雨が降っているのかな。明日の朝のことについて考えると、たまらないくらいに心臓の鼓動が大きくなった。とん、とん、とん、と首筋を通って私の耳にふるえが伝わってくる。明日まで雨が降っていたら、登校するとき傘を差さなくちゃならない。水気で重たくなった前髪を想像した。先月に雨が降ったとき、雑巾みたいに髪の毛の束を絞ったら、雫がぼろぼろ落ちてたな。あのときは傘を差してたっ

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Summer of '06

Summer of '06

「閉めるね」
 声が聴こえて、ベッドでぼくはひとりになった。頭からつま先まで、全身を毛布で包んだ。ぼくはまだ起きていたかったけど、まわりは瞼を閉じたみたいで、暗くて何も見えない。部屋の灯りも消えているから、ほんわりとした光が毛布を透かして内側へ漏れてくることもなかった。もう夜の九時だ。
 低い音が聴こえる。パパの声だ。高い音が聴こえる。ママの声だ。二人が何を話しているのかはよく分からないけど、きっ

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(創作)選ばれた子ども 第一話

          ー海ー

 海は嫌いだ。真っ直ぐな水平線を眺めるたび、背筋を伸ばしながらいつもそう思うが、夏休みがはじまって、毎日ここに来ていることを考えると、実は好きであることを隠すため、嫌っているふりをしているのではないかと、疑ってしまう。
 二十メートルほど先の岩場に、一羽のカモメが留まっていた。細く尖った嘴で、岩と岩の隙間にある何かをほじくっている。たまに神経質そうな眼差しで周囲を見渡

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(創作)自動走行

 毎夕かかさずに行っているランニングを終えたあと、思わず倒れた。少し暗い室内のフローリングが頬に当たり、冷たかった。理由は分からないが、心臓がひどく痛い。再び立ち上がることができない。左胸の奥とその周辺が、まるで勢いよく外側に裏返ろうとするかのようだった。不思議と、頭だけは冴えている。
 倒れたまま仰向けになり、肩甲骨を床に擦り合わせる。右手は初めだけ胸をさすっていたが、しだいに厚い扉を開こうとす

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(創作)教祖

(創作)教祖

『私を救ってください。私は生きていて辛くて辛くてたまりません。私が本当に善い人間なのか、正しい生を送っているのか、ときおり分からなくなるのです。俗世での成功はもはや諦めました。今はただ、私の死後、極楽浄土で安らぐことだけを希望に、華々しさとは無縁な、居心地の悪い世間を生きているのです』

 信者の呟きを遠くから聴きながら、私は祭壇の上で鎮座していた。マイクを通して流れてくる彼の声は、年老いた、死に

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(創作)dialogue

「それで?」
 彼女は言った。ぼくは口を少し強くとがらせて、息を吸った。
「それだけ」
小さな声で呟いたが、彼女には聞こえているだろうか。
「なにを言いたいの?」
なにかを言いたくはなかった。ただ、彼女と言葉を交わしたかっただけだ。
 昼のファミレスは混んでいる。周りからは色々な人たちの話し声が聞こえた。それに対抗してぼくたちも大きな声で喋らないと、互いが言っていることを聞き取れないだろう。ぼくは

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(創作)行灯

(創作)行灯

 目が覚めた。時計の針の音が、相変わらず単調に鳴っている。外は明るいから、まだ昼のようだ。読書をしたまま眠ってしまったらしい。表紙と裏表紙を私の方に向けて、本は開かれたまま床に落ちていた。ベッドから立ち上がり拾おうとしたが、上半身に力はまったく入らない。いつものことだ。今度こそはと思い筋骨に鞭打っても、昔のような身のこなしの再演はやはり難しかった。
 昼食はとったはずだ。最近は食事したことを覚えて

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