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三島由紀夫論2.0

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2023年8月の記事一覧

三島由紀夫・林房雄の「対話・日本人論」をどう読むか② 太宰の強さについて

三島由紀夫・林房雄の「対話・日本人論」をどう読むか② 太宰の強さについて

 これはなかなか鋭いところを突いた、現代にも通じる正論のようで、私の感覚とは大いに異なる。確かに読者の「共感」を求めて駄目な人間を描く作家はいる。読者は自分が肯定される条件を求めている。なにものでもなく、さして努力もせず、すべてを運の所為にして逃げている人たちを肯定すればそれなりに「共感」を得ることができるだろう。

 ところで三島の言っている事そのものは、むしろこれは『金閣寺』の主人公の言い分の

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三島由紀夫・林房雄の「対話・日本人論」をどう読むか① 鴎外と漱石

三島由紀夫・林房雄の「対話・日本人論」をどう読むか① 鴎外と漱石

 これまで私は乃木大将夫妻のいわゆる「殉死」について、夏目漱石と森鴎外という明治を代表する文学者二人だけが正しく理解してきたという趣旨のことを書き続けてきた。

 しかしこれほどシンプルな話が絶対に誰にも通じないことに呆れていた。

・『こころ』は軍旗が奪われていたことにフォーカスしているが、みなが読まされているのは「遺書」であり、乃木の遺書は妻静子は生かされる前提で書かれている。

・鴎外の殉死

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三島由紀夫から見た夏目漱石の読者

三島由紀夫から見た夏目漱石の読者

 三島由紀夫、安部公房だけではない。これまで見てきたように谷崎潤一郎も漱石の評価は低いし、太宰治に関しては「俗中の俗」と漱石を切り捨てている。三島由紀夫のこの発言も、夏目漱石というすでにこの世にない作家の死してなお消えない過剰な人気に対する反発の表れだ。

 しかも芥川龍之介までスタイルは鴎外に近接し、漱石文学から何を継承したのかということさえ曖昧なので困る。

 この三島由紀夫と安倍公房の対談は

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三島由紀夫の『金閣寺』は天皇なのか?② そんなわけない

三島由紀夫の『金閣寺』は天皇なのか?② そんなわけない

 テネシー・ウィリアムズの見立ては、『仮面の告白』や『金閣寺』といったややこしい作品の基本構造をものの見事に言い当てている。少なくとも金閣寺そのものに何か決定的な咎があったわけではない。『金閣寺』では主人公の内的問題、吃音と有為子へのねじれた思いが八つ当たり的に金閣寺にぶつけられたに過ぎない。つまり八つ当たりの対象が金閣寺である必要性はなく、交換可能なものではあったとまでは言えるかもしれない。

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三島由紀夫は「感覚」が嫌い

三島由紀夫は「感覚」が嫌い

読者が今よりばかだったんでしょうかね

 ここは別にふざけているわけでもなく、(笑)もなく、ストレートに疑問が投げかけられている。

 三島由紀夫は川端康成に師事した割には「新感覚派」なり、「感覚」に厳しい。確かに横光利一にはオーソリティ―らしさというものがなく、「神さま」はどうかと私も思う。しかし「ばかだったんでしょうかね」はいささかお口が悪い。

うどんの如く

 実際にここで新感覚派を批判し

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三島由紀夫の『金閣寺』は天皇なのか?

三島由紀夫の『金閣寺』は天皇なのか?

これが天皇のアレゴリーだったならとても読む気がしないな

 三島由紀夫の『金閣寺』の「金閣寺」は「天皇」と交換可能だという話は古くからある。

 この考え方に関して私はこれまでそう大きく反対してこなかったし、そもそも論法の違いによってどうともとれるくらいに考えていた。つまりテクスト論的に作者の意図を無視して作品そのものでどう読むかと言えばシンプルに「そんなことは書いていない」とも言えるし、作者の意

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三島由紀夫「舟橋聖一との対話」を読む

三島由紀夫「舟橋聖一との対話」を読む

戦争が間に入っているということもたいした問題ではない

 戦後文学について語る中で三島は「戦争が間に入っているということもたいした問題ではない」と言い張る。これは『豊饒の海』を読み終わった時点では如何にも尤もな話だが、『鏡子の家』はのっぺりとした戦後を描いたわけだし、なによりも『金閣寺』には「戦争で焼けなかった金閣寺を焼く」というストーリーが必要であり、『仮面の告白』には戦争をアリバイにして童貞で

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芥川龍之介の『舞踏会』をどう読むか④ 僕の性欲のゆくえ

芥川龍之介の『舞踏会』をどう読むか④ 僕の性欲のゆくえ

 芥川の『舞踏会』に関しては既にこのようなことを述べている。

・明子は仏蘭西人将校にも美しいと思われていたのだろうか
・「美しく青きダニウブ」なのに独逸管絃楽? 
・明子の子も頭が禿げるのではなかろうか
・フランス人将校は花火は我々の生のようであると言っていて、それが長いとも短いとも言っていない
・『舞踏会』の明子はアイスクリームを食べるので知覚過敏ではない
・『舞踏会』は『たね子の憂鬱』『糸女

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芥川龍之介の『手巾』をどう読むか② 三島由紀夫はどこに感心したのか

芥川龍之介の『手巾』をどう読むか② 三島由紀夫はどこに感心したのか

 深沢七郎には深沢七郎の良さがあり、三島由紀夫には三島由紀夫の良さがある。そう書くと何を当たり前のことをと怒られそうだが、芥川の良さというものは案外曖昧なのではなかろうか。夏目漱石はユーモアの達人であり、太宰治は罵倒名人だが、それだけではない。芥川の魅力の一つは知的なひねりだが勿論それだけではない。

 田山花袋が「何処が面白いのか」と評した『手巾』を三島由紀夫は短篇小説の極意とまで持ち上げる。

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