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芥川龍之介論2.0

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2024年2月の記事一覧

長芋は酷いじゃないか 芥川龍之介の『芋粥』をどう読むか①

長芋は酷いじゃないか 芥川龍之介の『芋粥』をどう読むか①

 芥川龍之介の『芋粥』をどう読むかも何も、これまでこの作品には何度も触れてきた。

 それはこの作品が芥川の面白さが凝縮されたような、様々な芥川らしさが詰め込まれた傑作であり、なお汲むべき多くのことが見つかる作品だからだ。
 しかし多くの人の語る芥川に関する記録を読んでいるうちに、当然理解されているものと思われていたことが全然届いていないことが解った。例えば『戯作三昧』『蜜柑』などのように教科書に

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たった一人の為に書く 芥川龍之介の『戯作三昧』をどう読むか⑳

たった一人の為に書く 芥川龍之介の『戯作三昧』をどう読むか⑳

 こんな人が少なくない。💗が308。csvの意味がまるで分かっていない。それで国家に文句を言っている。さらにこの時期「申告納税制度」に文句を言っている人がいる。納税については個々人が判断することなのは間違いない。それを感情に任せて「脱税してもいいのか」と罵るのは間違いだ。確定申告の時期が終わって国税庁が何もしなければ批判すればいい。

 つまり?

 皆何かに苛立っているだけじゃないの?

 

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何も隠されてはいない 芥川龍之介の『戯作三昧』をどう読むか⑲

何も隠されてはいない 芥川龍之介の『戯作三昧』をどう読むか⑲

 今の若い人が羨ましい。

 昔はこんな本はなかった。こんな本をたった六百四十円で読むことができる。

 誰が言い出したのか、昔からドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』を読むという体験を経ると、世界の見え方が変わってくると言われている。なぜドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』なのかという問題はここでは論じない。ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』を「世界観を変容させる傑作のひとつ」に貶

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御勉強なさい 芥川龍之介の『戯作三昧』をどう読むか⑱

御勉強なさい 芥川龍之介の『戯作三昧』をどう読むか⑱

 こんな話に思わず泣いてしまう人もいるのではなかろうか。どんなに努力を重ねても「失敗した」と言われてしまう芥川龍之介という天才の人生を思い浮かべ、そして何もにもなれなかった自分の哀れさを思い、当事者ではないところから出てくる無責任な、そしてあまりにも適切な言葉の鋭さに虚を突かれて、つい心の鎧がほどけるようにして泣いてしまう人がいるのではなかろうか。
 辛抱してゐるよ、とつい真面目な声を出す馬琴の辛

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親父でも息子でもない 芥川龍之介の『戯作三昧』をどう読むか⑰

親父でも息子でもない 芥川龍之介の『戯作三昧』をどう読むか⑰

 青空文庫の「豕」には「し」とルビがふられている。

 ここには『漢書』とあるが「朱浮伝」は『後漢書』にある。

 解っていなさそうな人もいる。

 なんだこれは? 

 こんな言葉の一つ一つを根無し草ではないところから持ってくる芥川は、この『戯作三昧』を書くために一体何冊の本を読んだのだろうか。そう思うためにはaudibleで聞き流してはいけない。しかしそういう人たちと自分が同じだと「どうして安

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今更言われてもどうしようもない 芥川龍之介の『戯作三昧』をどう読むか⑯

今更言われてもどうしようもない 芥川龍之介の『戯作三昧』をどう読むか⑯

 人間とはかくも愚かなものか。

 ここには反知性的ななにものかがある。サルド人的な何か。反文学的な何かだ。

 一昨日私は山村暮鳥の詩をまとめて読んでみた。その読んだ中ではわずかに四つほどしか見るものがなかった。

 名前だけは知っているのに読んだ記憶がない理由も解った。「自然のあらゆるものに神を見いだす」というウィキペディアの説明も腑に落ちた。たしかにやすやすとあれこれに感心しすぎだった。それ

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こんな南画はない 芥川龍之介の『戯作三昧』をどう読むか⑮

こんな南画はない 芥川龍之介の『戯作三昧』をどう読むか⑮

 渡辺崋山の中にある政治的なもの、そこがつかめないと先に行けないような気がしてきた。

 

 言葉を話す社会的な存在としてのヒトとしての渡辺崋山などという存在について、私はこれまで一度も考えたことはなかった。というよりも渡辺崋山に関しては漠然と「なんか絵の人」くらいの知識しかなかった。

 確かに天保九年、渡辺崋山は『慎機論』を書き幕府を批判している。しかしそれはまだ七年も先のことだ。渡辺崋山に

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猿はパンツをはいていない 芥川龍之介の『戯作三昧』をどう読むか⑭

猿はパンツをはいていない 芥川龍之介の『戯作三昧』をどう読むか⑭

 このあたりの話も現代ではわかりにくくなっているかもしれない。夏目漱石の『趣味の遺伝』などあからさまな戦争批判であり、明治天皇批判である。そうしたものが野放しになっていたかのようだが実際にはそうではない。

 頻りに吉原に通い、遊女菊園を妻とした山東京伝を師とする馬琴を宮武骸骨は「山東京伝の模倣者」と呼んだ。模倣したのは吉原通いではない。

 小説が「何を書くのか」という肝の部分になるのだが、骸骨

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これが今なのだ 芥川龍之介の『戯作三昧』をどう読むか⑬

これが今なのだ 芥川龍之介の『戯作三昧』をどう読むか⑬

 2024年2月21日、そんな日付で始まる小説があったとしたら、それは必ず空想科学小説だった。今そんな馬鹿馬鹿しい日付が小さくタスクバーに表示されている。しかしこれは未来記ではない。とても信じられないことながら、これが本当に今なのだ。

 佐藤春夫の『のんしやらん記録』は掲載誌『改造』のテイストに沿ったものか、三十九世紀の未来を描くディストピア小説のようなものになっている。そこには確かに時代がつい

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ワタナベノボルの起源 芥川龍之介の『戯作三昧』をどう読むか⑫

ワタナベノボルの起源 芥川龍之介の『戯作三昧』をどう読むか⑫

 しかし芥川は谷崎潤一郎ほどハードルを上げているわけではない。『水滸伝』を読みましたかと牽制するのは、今でいえば浅田次郎や村上春樹を読みましたかという程度のことだ。

 村上春樹や浅田次郎が読めませんという人はそう多くはなかろう。しかし書かれている全てのことが理解できているわけでも無かろう。ただし芥川はそんなに細かいことを云っているわけではない。大筋が掴めていれば誰でもが気が付くおかしなことを書い

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そんな場面はない 芥川龍之介の『戯作三昧』をどう読むか⑪

そんな場面はない 芥川龍之介の『戯作三昧』をどう読むか⑪

 昼飯はご飯とみそ汁、そして青菜の漬物程度のものであろうか。この時代白菜の漬物はない。

 ここもまたよくわからない。

 この時、林冲は陸虞らのはかりごとによって秣草場の看守を命じられていた。「陸虞候富安等三人を殺死し、火を放つて大軍草料を沿燒する」という文言はあるが「林冲山神廟で草秣場の焼けるを望見す」という場面は見つからない。望見するどころか林冲は秣草場にいて、秣に放火されたそのさなかで、陸

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芥川の思い人が漱石の思い人へ捧げる和歌を詠んでいる件

芥川の思い人が漱石の思い人へ捧げる和歌を詠んでいる件

美くしき物のすべてをあつめたる其うつそみは隱ろひしはや

 片山広子が大塚楠緒子の和歌を詠んでいたなんて意外、というだけの話。

後に漱石に親炙してって……。

昼飯のおかずは何か 芥川龍之介の『戯作三昧』をどう読むか⑩

昼飯のおかずは何か 芥川龍之介の『戯作三昧』をどう読むか⑩

 昨日は爲永春水に関して余計なことを書いた。決して身体的な障害を揶揄う意図はない。ただ芥川にはあからさまな眇に対する差別意識があり、眇であることで取るに足りないものとみなす傾向があり、学識云々ではないところで馬琴は爲永春水を見下していたことは、まあ否定しがたいところであろう。これもやはり時代の鋳型である。「差別はいけない」と言われ始めたのはつい最近の事。それ以前は当然ハンデキャップとは差別されるも

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独眼竜春水 芥川龍之介の『戯作三昧』をどう読むか⑨

独眼竜春水 芥川龍之介の『戯作三昧』をどう読むか⑨

 漱石は早い。芥川は速読で遅筆、と一般に言われる。しかしそれは正しくない。芥川は俳句か漢詩かという密度で文章を書いている。漱石は長篇小説の文体で書いていた。芥川は典型的な短編小説の文体の持ち主だった。もっとも少し緩めて書いても結局話は短く終わるので、芥川は典型的な短編小説家、圧搾の美を追求した作家ということなのであろう。
 そんな芥川が馬琴に問題を共有させている。

 馬琴が仮に為永春水よりも筆が

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