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夏目漱石論2.0

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#明暗

夏目漱石『明暗』の技巧②会話の妙

夏目漱石『明暗』の技巧②会話の妙

 谷崎潤一郎という作家は基本的に信用できない人だと思うんですが、それは単に嘘を言うということではないんですね。虚々実々の小説や戯曲を書きまくって、何が現実なのか分らなくさせた人だから信用できないわけです。

 最初に谷崎について書いたのが、

 この記事ですか。谷崎は『誕生』を書くにあたり『栄花物語』を読んだはず、『栄花物語』の語彙検索で調べてみると「國民」などと云う言葉が使われていようはずもなく

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外国人の『明暗』の感想①

外国人の『明暗』の感想①

 1917年に出版された「光と闇」は、夏目漱石のこれまでの作品とは異なり、当時の日本のフィクションではユニークです。小説を「現代的」と区別するのは、その驚くべき内面性の表現です。主人公の津田義雄さん(30歳)と妻の大信さん(23歳)は、日本のフィクションにおける立体的なキャラクターの最も初期の例のいくつかとして彼らを修飾する満足のいく複雑さを示しています。
 O-Nobuは機知に富み、狡猾で、夫と

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読み誤る漱石論者たち 阿刀田高⑦ 「小説の技法において巧みな人ではなかった」だと?

読み誤る漱石論者たち 阿刀田高⑦ 「小説の技法において巧みな人ではなかった」だと?

 これは評価ではなく個人の感想なので云々しない。しかし無理にそう読まなくてもいいんじゃないかという与太話を一つ。

 極めてざっくりまとめると『道草』は健三があちこちから金の無心をされる話だ。この一つ前の『こころ』との関係で言うと、働かなくても暮らしていけて、話者の帰省費用でもすっと出してくれる先生を見て、漱石に金の無心にくる弟子たちが沢山いた筈だ。時期は色々あるが、実際何人もの弟子が漱石から借金

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夏目漱石の『琴の空音』を読む①→『明暗』を読む 津田と先生とKと幽霊

夏目漱石の『琴の空音』を読む①→『明暗』を読む 津田と先生とKと幽霊

  夏目漱石の遺作『明暗』の主人公の苗字が「津田」であることには、少しは遊びの要素があったのではないか、と私は考えている。その津田には津田由雄と名前まで拵えてある。小川三四郎の名が石川三四郎由来であれば、津田は津田亀治郎、津田青楓となんらかの関係があるのではないかと疑われてしかるべきであろうか。しかし夏目漱石が津田青楓に絵を習い、装丁を任せていたのは晩年に近い頃のことであり、その交際はわずかに五年

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江藤淳の漱石論について⑦ 現実逃避と隠れ家、『明暗』のその先

江藤淳の漱石論について⑦ 現実逃避と隠れ家、『明暗』のその先

 夏目漱石の『道草』が『吾輩は猫である』に比べて寂しげなのは、そこに描かれてもいいはずの木曜会が描かれず、一人の青年とのさして陽気ではない会話が現れるだけだからではなかろうか。

 吾輩は「笹原」に捨てられる。K.Shioharaと署名された夏目金之助の作文を読み、漱石の養家「塩原」の読みが濁らないことに気が付いてみれば、「笹原」は普通地名や人名であり、竹藪と呼ばれているものであることにも気が付く

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