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資本主義の課題をまとめてみる ~アドカレ振り返り~

2023年12月に行った「資本主義のアップデートを考えるアドベントカレンダー

は、以下のような主旨のもと立ち上がりました。


現在の資本主義に課題があることについては、政府の発信した「新しい資本主義」をはじめ、様々な観点で議論がなされるようになってきています。
書籍やメディア記事でもたくさん議論され、インパクトを志としたスタートアップなどもたくさんでてきていますが、各自が「独自の目線」で理想の資本主義を語っても、社会を変える大きな潮流は生まれません。
色んな考えの人がいますが、「資本主義を変えると社会はよりよく変われるんじゃないか」という、思いは同じなはず。
一度、「資本主義のアップデートを考える」というテーマで、色々な方の情報発信を集約することで、何か大きなムーブメントを起こせないかな、ということで「アドカレ」という形でやってみます!

https://adventar.org/calendars/9132

カレンダー外の特別寄稿枠3本と前夜祭投稿+総括も含めると、12月の間に全部で30本にもおよぶ「資本主義の課題」と向き合った記事が投稿されたことになります!

投稿くださった方は、投資家、ファンド、IR、コンサル、経営者、NPO、メディア、アカデミックなど、様々な立場で資本主義にかかわってこられた皆さま。
各自が自由に様々な観点から資本主義の課題を論じていただいた企画ですが、それぞれの記事を通してみてみると、皆さんの視点と思いにいくつかの共通点があるように感じました。

1つの軸は、「人を中心とした社会へ」ということ。

もう1つの軸は、「資本主義の構造における課題点」と向き合った視点です。

振り返りとして、今回の寄稿がどのような観点で資本主義の課題に向き合っているのか、分類してまとめみました。

資本主義のアップデートアドカレ まとめシート

「人」を中心にした社会へ。

社会制度は「人が幸せに生きるため」のツールであるべきですが、そこに対する掛け違いが発生してしまっている、というのは資本主義の課題の1つと言えそうです。
この観点で皆さんの意見を整理していくと、大きく3つの論点がありそうでした。

1つ目は、「人の本質的な欲求」と向き合っていくべきということ。

資本主義が社会にもたらしている「財務最適化」が、人の本質的にやりたい「欲望/欲求」とは少しずれており、その「人の本質的な欲求」に向き合うことで今の資本主義の拡張としてよりよい社会が実現できるのでは、という観点です。

12/17 のPwCパートナー磯貝さんの寄稿「欲望をハックする」では、サステナブルビジネスと長期にわたって向き合っていく中で、

「①より多くの個人の利益を満たし」、「②人々が属するコミュニティや国、集団の利益にも貢献し」、そして何よりも「③私たちの存在に何か崇高な意味を与えてくれるようなものに資する」ようなものを実現することができる仕組み

https://note.com/yuu240/n/n31ac6ba0007a

とすることを論じていらっしゃいます。
まず自分が幸せであり、周囲が幸せであり、社会が幸せである、という順番で各個人が努力をする構造でなければならず、その「個人の利益が何か(≒金銭の最大化ではないはず)」という観点と資本主義が最適化している「財務価値の最適化」、にずれがあるのでは、というのは1つの論点です。

また、その個人の利益を表すフレーズの1つとして、「ワクワク」という共通の単語を使っている方が複数いらっしゃることも印象的でした。
12/19 朝山あつこさん 「NPOのど真ん中で新資本主義を考える」
12/24 佐藤明さん「ワクワクと資本主義」

「人の幸せ」と向き合っていく意味では、宗教(仏教や禅)といった観点とも重なってきそうです。
12/2 小森谷浩志 さん 「禅から見た資本主義」


2つ目は、「自分事化」というキーワード。

資本主義が「社会的無関心」を引き起こしていることが大きな課題の1つであり、それを「自分事化して向き合っていく」ことが、課題解決につながるのでは、ということをおっしゃっている方も複数いらっしゃいました。

12/1 廣畑達也さん 「一人称の経済へーー社会起業家を10年追いかけて見えてきたこと」では、社会起業家の取材を通して見えてきたことが「一人称の経済」へ各自が向き合っていくことと同期していく観点が描かれています。

12/20 鈴木直之さん「君たちはどう「配る」か ー資本主義をめぐる冒険」
では、

それに対し、僕が考える「社会課題」とは、前述したように「自分たちには関係ない」という「社会的無関心」や、関心はあるけれど具体的にどうしたらいいか分からないから、何も行動できないという「社会的無知」の問題です。

https://note.com/zen_tech/n/na4ec790a93e2

というように、社会的無関心が多くの社会課題の根っこに存在する、ということを論じ、社会課題の解決にはこの「社会的無関心」の解決と向き合うことが必要だ、ということを述べていらっしゃいます。

また個人投資家目線からの投稿
12/12 renny さん「投資家のOSをアップデート!というBig Hairy Audacious Goal - BHAG」でも、

「投資でお金を活かしたいOS」にアップデートすることで、価値創造や実現のプロセスへの関心が高まります。どんな人がどんな想いで取り組んでいるのかに関心を持つことが、会社の業績や数値への関心と同じくらい高まってくるのではないかと思います。

https://note.com/renny/n/n78d6439dd336

と、「お金を増やす」ではなく「お金を活かす」という、「財務数値」ではなく「社会にもたらしたものへの関心」が重要だと、投資家としての企業とのかかわりを自分事としてとらえることを論じてらっしゃいます。

3つ目は、企業に関わるステークホルダーの最適化 という観点。

「誰のための最適化か」というところのミスマッチをただすためのアラインメントについても重要な観点です。

12/5 入山章栄さん「未来はStakeholder Alignmentにある」では、ステークホルダーと株主が不一致であること自体が多くの問題の原因でありそこをアラインすることを目指すべきだ、という観点。

12/9 夫馬 賢治さん「ステークホルダー資本主義」では、現在日本の多くのシチュエーションでステークホルダー資本主義が"誤用"されており、 本質的に人と地球のウェルビーイングを目指すことが、株主利益にもつながり、それを実現するのがステークホルダー資本主義だ、ということを述べてらっしゃいます。


『ステークホルダー資本主義』より
https://note.com/kntn123/n/ndac4f64cb9d0

「資本主義の構造」における課題点

「資本主義の構造」に着目した観点も重要です。
この視点だと大きく4つの切り口があるように感じました。

1つ目は「長期投資」を軸にした考え方

投資や企業経営における時間軸についてが問題で、短期株主利益に振り回されない取り組みが必要だ、という論点です。

12/10 伊井 哲朗さん「よりよい経済循環、社会を創りたいと想って、リスペクトするメンバーで始めたコモンズ投信の取り組み」はまさにそのような思いで投資会社を経営されてきています。

つまり、意思をもったアセットオナーから明確なボールが出され、それを受け止めたアセットマネジャーがFiduciaryな精神と規律を持って投資先を探し運用する、さらにそのボールを長期的な企業価値創造に真摯に取り組む企業に渡していく、そんなインベストメントチェーンを創りたいと思って15年間やってきました。

https://www.facebook.com/tetsuro.ii/posts/pfbid037xgwNyGk2ujQtGZDouxn7VMTM7VVL83adcENuJxSrZxg69yPkTkb2J5UULxErwyNl

12/16 市川 祐子さん「外国人投資家に言われて刺さったことば3選~オーナーとの対話で資本主義の原点に還ろう~」では、

「投資家 (investor) にはオーナー (owner)とトレーダー (trader)の2種類がいる」
~(中略)~
本題の「言われて刺さったことば」は、これこそ「真のオーナー」であろうと感じられる外国人投資家との対話から選びたいと思います。

https://note.com/marketriver/n/n0097a9f8a6b3

と、海外投資家が長いスパンで物事をみる「真のオーナー」という視点で企業と接する中でかけられた言葉を紹介いただいています。

今回の参加の中で最年少の
12/6 堀 克紀さん「未来に希望が持てる社会へ 〜若者が描く資本主義の未来〜」
も、若者目線で見たときに社会がどう見え、どうあるべきかという視点も「長期」で社会を見るとどうあるべきか、という観点だと近しいテーマかもしれません。

2つ目は、「社会に意義のある活動」の実践とそこへの支援(ファイナンス)

NPOやインパクトスタートアップ、社会起業家という立場から今回のテーマに参加いただいた方も多くいらっしゃいました。

12/19 朝山あつこさん「NPOのど真ん中で新資本主義を考える」では、社会問題を解決する志とともに立ち上がったNPOの多くが、その志半ばで断念されてしまっているという事実と資金支援の仕組みづくりの重要性を述べていらっしゃいます。

二つ目は、志を消失させない、社会問題を解決する”事業モデル”を、ビジネスモデルの創出で成功されている皆様と構築したいというお話です。多くの社会課題を解決しようとするNPOで社会起業を志した方々の思いやアクションが消えてしまっているという問題です。

https://note.com/wakuwaku_engine/n/nb9b00932dbf8

「資本主義」という仕組みを活用しながら社会解決を行う、"インパクトスタートアップ"的な取り組みの実践をお話しされているのが以下の2つの記事。
12/15 忍岡 真理恵さん「『かっこいい』をアップデートする
アンコール① 田辺 理さん「資本主義を通じて、社会課題を解決する」

まさに、こういった社会課題の解決に対して、「資本主義の仕組み」を活用するエコシステムができるようになれば、と感じる内容です。

また、そういった社会的意義の高い事業に対してどう資金を回すのか、という観点では、2つの取り組みを寄稿いただいています。
12/8 岩崎 明彦さん「今こそ資本主義をアップデートするファイナンスが必要だ!」では、寄付と投資を混ぜた「ブレンドファイナンス」という考え方について。
アンコール② 金光 碧さん 「資本主義からこぼれるものにお金をまわす~ツールとしてのDAOとGenArt~ では、DAO(ブロックチェーンでの契約管理的なもの)を活用して「ネオ山古志村民」という過疎地域の電子住民票と資金管理がなされた事例。
どちらもまだ試験的な取り組みですが、「金銭リターンを約束しにくいプロジェクトにどうお金を回すのか」という機能が既存資本主義では担保されていない中、そこを改善する取り組みとして興味深いです。

3つ目は、資本主義の改善取り組みである "SDGs/ESG"の取り組みに関する論点

最近は「脱ESG」を主張する陣営も出てくるなど、よりよい社会を目指すはずのESGも、誰もが賛同できる取り組みにはなっていないという課題もあります。
12/25 小平 龍四郎さん 「"ESG"から"esg" へ~バズワードを脱して前に進め」ではESGを固有名詞としての特定の取り組みではなく、environment、society、governance に対する企業活動として、一時的なバズワードではなく、一般名詞的な取り組み化していくことが大事、と述べています。
12/21 中久保 菜穂さん「資本主義のアップデートとESG評価」
では、現在のESGが "投資家のためのESG" になっているが、"全ステークホルダーのためのESG" となることが理想だ、と述べ、ESGがバズワード化せずにどう進んでいくべきかを論じてらっしゃいます。

また、ESGなどという外来の思想などに頼らなくても、日本の伝統的な経営思想「三方良し」など「サステナブルであるためには、外部ステークホルダーへの価値提供が重要だ」という考え方は、日本はむしろ西洋よりもベースとなる考え方は根付いており、そちらを出発点にできる可能性もありそうです。

12/18 加藤 俊さん「日本版ステークホルダー資本主義の社会実装」では、長寿企業大国であるニッポンが、「サステナブル」については世界をリードできるのでは、という観点で論じていただいておりとても興味深いです。
12/22 篠田 真貴子さん「25年前に見えていた資本主義の未来|『文化資本の経営』」でも、資生堂創業家の福原義春氏の25年前の書籍で「文化資本経営」が論じられており、これは今の「パーパス、ESG、人的資本経営」そのものだ、ということが紹介いただいています。

渋沢栄一氏の「論語と算盤」、松下幸之助氏の「生き方」などもそうですが、このあたりの経営哲学は現在の資本主義課題と向き合っても色あせることはなく、現在の資本主義課題と向き合っていく上でのガイドとなってくれそうです。

4つ目は、資本主義全体のエコシステムに関する論点

12/4 武井 浩三さん「資本主義のアップデートについて考える」では、「貨幣そのもの」に課題があり、新しい貨幣の在り方が必要だという議論。
12/3 諸藤 周平さん「社会と共創する資本主義」では、資本主義の課題解決を、「社会と共創する熟達」を企業活動として行う取り組みから論じてらっしゃいます。

また、12/13 浜辺 真紀子さん「『資本主義のアップデート』のベースとなる『金融リテラシー』を高めるために」で述べられている「金融リテラシーの低さ」が資本主義の課題の根っこの1つとしてあるという観点もありそうです。

全ての投稿をご紹介しきれておりませんが、皆さん、問題へのアプローチは違えど、取り組むべき課題の領域については共通するものが多いと感じたことが印象的でした。


今回のアドカレを通じて感じたこと

今回のアドカレを通じて、個人的には改めて以下の2つを感じました。

1つは、資本主義にはまだ解決できていない課題があり、そこに対する問題意識を持っている方が多くいらっしゃるということ。
もちろん資本主義の課題自体は資本主義ができてからこれまでも議論されてきていることではありますが、今回の企画に対してこれだけ多くの識者の方々に賛同し参画していただけた、ということはこの課題が現在着目されるべき、社会課題であるということを示しています。

もう1つは、この資本主義の課題は、社会に関わる皆で解決すべきものだ、ということ。
資本主義にかかわる立場としては「消費者」「投資家」「企業」など様々ありますが、社会に関わる一人一人が同時に「消費者」であり「投資家」であり、「企業に属する組織人」でもあります。
一人一人が、「自分ごと」として、どういう消費を行うべきか、どういう投資を行うべきか、どういう事業活動を行うべきか、ということを、「外部から押し付けられた数値」ではなく「自分の心」としっかり向き合いながら意思決定をしていく、ということが、よりよい資本主義に代わるために必要な文化土壌としてあるのではないでしょうか。


おわりに

アドカレ自体は2023年12月の1ヶ月で終わる企画ですが、「資本主義のアップデート」という取り組み自体はもちろん今後も向き合うテーマです!
今回の企画を通じ、多くの方と「資本主義」に関して意見交換をする機会をいただきましたので、ぜひ何らかの次の取り組みへとつなげていきたいと思います!

企画に賛同してくださった皆さま、読んでいただいた皆さま、本当にありがとうございます!

共同発起人として、密度の濃い2ヶ月をご一緒させていただいた清水さん、本当にありがとうございます!!

Figurout 代表 中村


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