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君たちはどう「配る」か ー資本主義をめぐる冒険

株式会社ZENTECHの鈴木直之と申します。

Figurout中村さんに声をかけていただいて、「資本主義をアップデートするアドベントカレンダー」の20日目を担当させていただくことになりました。

今回初めて「アドベントカレンダー」というものを知ったのですが、これ、めちゃくちゃ面白いですね!

同じ山をいろんな人が別々のルートから登っているのが見える感じというか。
その登山者の一員としてこの企画に参加できることを嬉しく思っています。

さて、僕は現在、愛媛県西条市というところで、地域課題の解決に取り組んでいる人たちを支援する「ZEN messenger」というアプリを開発・運営しています。

もともとは大阪に住んでいましたが、2019年に移住してきました。

僕自身、西条市にはなんの縁もゆかりもなく、地域の活動に対してとりわけ興味関心があったわけでもありません。

そんな僕が西条市という地方都市でいわゆる「ソーシャルビジネス」を興すことになるのだから、人生とは不思議なものです。

今回いただいた貴重なこの機会に、なぜ今自分がここにいるのか、少し振り返ってみたいと思います。

冒険の始まり

まず、僕のベースにあるのは、いわば「テクノロジー楽観主義」とでもいうべきものです。元来、新しいもの好きという性格もありますが、きっかけは小学校5年か6年ぐらいの時(1981年か1982年)に父親が飽きて放りだしたプログラムが可能な少し(だいぶ?)大きめの電卓のようなコンピュータでした。

SHARPから発売されたPC-1500。懐かしい!

BASICという文字通り基本的なプログラミング言語を走らせることができるこの小さな画面のコンピュータに僕はすぐに夢中になりました。
数字を入力すれば、円の面積を計算するプログラムから始まり、お決まりのゲームを作り、BASICでは飽き足らず、アセンブリ言語という16進数で書かれたプログラムを独学で書くまでになっていました。

プログラミングをすることで、自分が考えている世界を実際に形にして動かすことができる。そこに、無限の可能性を感じ、世の中を変える力を生み出せると信じていました。

その信念は、その後パソコンへと向かい、やがてインターネット、SNS、ビットコイン(ブロックチェーン)へと繋がっていきます。

しかし、ある時ふと気づきます。
情報技術(IT)は数十年で飛躍的に進歩したが、それで世の中は良くなったのだろうか?人々は幸せになったのだろうか?
インターネットは世界中に広がり、SNSは人々を繋げることを容易にしたが、その内実は人々のアテンションを金儲けに変える単なる巨大な広告媒体にすぎないのではないか?
中央集権的な仕組みを必要としない自立分散的なアルゴリズムの実現によって、自由な価値交換を目指したブロックチェーンの技術は、いまや人々がその市場価格に一喜一憂する投機的な金融商品(暗号資産)となってしまった。

確かにG◯◯gleやMet◯のお陰で飛躍的に便利な世の中になりましたよ。でも、なんか違う。

テクノロジー、特に情報技術の発展によって人はもっと自由になり、ハッピーになっていくという子どもの頃に楽観的に夢見た未来は、未だに実現されていないと強く感じるようになりました。

そして、テクノロジーのイノベーションをも市場経済の論理の中に貪欲に次々と取り込んで、人々の欲望(自己利益)をブーストする道具としてお金を生み出していく資本主義の底知れないダイナミズムを前に、テクノロジー楽観主義者の僕もなすすべなく、もはや諦めの境地、WEBサイト上に表示される広告を淡々とスキップする日々。

そんな時に「ポスト資本主義の社会を具現化する」という大層なスローガン(すいません)を掲げ、地方を変えていくというプロジェクトに出会います。一般社団法人Next Commons Labが全国に展開するローカルベンチャー事業が愛媛県西条市でも立ち上がり、「ITを活用した地域活性化・まちづくり」というようなテーマのプロジェクトを担当する人間を全国から募集するというのです。

僕は「これだ!」と思いました。

資本主義の経済合理性の論理の外に取り残されてしまった地域の課題をITの力を活用して解決する。

それが実現できれば、実際に地域が良くなり、そして全国に広がっていくことで資本主義をアップデートするヒントも得られるのではないか。

まだ当時は漠然とした希望的観測でしたが、テクノロジー楽観主義の僕の心に再び火が灯りました。そして、大阪キタの繁華街で12年半続けたバーを閉め、西条市に移住することにしたのです。
(なぜバーを経営していたのかという話は長くなるので割愛しますw)

2019年初春のころでした。

気づき、からの

そこから、僕の西条市でのチャレンジが始まります。
最初は、西条市で地域の課題に取り組んでいる市民団体やボランティアの方々に話を聞き、その人たちが困っていることを解決することでその活動を支援しようと考えました。

活動していく上で「お金」と「人」が常に不足しているという問題があり、まずは「お金」の問題を解決するために、ZENというプロジェクトを立ち上げ、まちの一般の人たちから寄付を集めるWEBサイトのようなものを立ち上げました。

でも、全然上手くいきませんでした。誰も使ってくれません。何度もサービスを作り直し、立ち上げてはやめ、立ち上げてはやめ、を繰り返しました。

その中で気づいたことがあります。
僕は地域の課題に取り組む人たちを支援することによって、地域を良くしていこうと考えていました。その考えは基本的に今も変わりませんが、その前にもっと大きな課題があったのです。

それは人々の「自分たちには関係ない」という「社会的無関心」です。

多くの地域課題は、それに関わっている人には大きな問題ですが、そうでない人たちとっては「どうでもいい」問題なのです。そんなことよりも自分のことの方が大事だし、それで手一杯という人が大半なのです。

一般的に「地域課題」と「社会課題」という言葉はほとんど同じような意味で使われることが多いでしょう。ですが、僕はこの2つを区別して考えた方がいいと思うようになりました。
「地域課題」とは、たとえば「空き家問題」であったり、「過疎化」、「耕作放棄地問題」、「家庭の貧困化」など地域に根差した具体的に解決すべき問題です。
それに対し、僕が考える「社会課題」とは、前述したように「自分たちには関係ない」という「社会的無関心」や、関心はあるけれど具体的にどうしたらいいか分からないから、何も行動できないという「社会的無知」の問題です。

地域の課題に関わる活動に関して

たとえば、内閣府『令和4年度 市民の社会貢献に関する実態調査』によると、以下のようになっています。

  • ボランティア活動をしたことがない人・・・・・・・・82.6%

  • 寄付をしたことがない人・・・・・・・・・・・・・・64.7%

  • NPO法人にあまり関心がない/まったく関心がない・・・63%

こうした社会課題が壁となり、人々を分断しているうちは、根本的な地域課題の解決は実現できないのではないかと思うようになりました。

そして、このような視点から見てみると、また新しい気づきがあります。

一般的に非営利団体やボランティア団体が活動資金を調達する方法として、会費・寄付・助成金などがありますが、助成金に関してはだいたい以下の図のような流れになっていると思います。

従来の資金分配モデル

このような仕組みは助成先である団体などに対しては、組織内部の選定委員会などで客観的な審査を受け、信頼性・公平性が担保されているという点で素晴らしいと思います。一方で、助成先の選定基準などは基本的にブラックボックスで、自分が出したお金もどこに行ったのかは分からない。

たとえば、日本の寄付の約3割以上を集めている「赤い羽根共同募金」。
皆さんも名前はご存知だと思いますし、実際に寄付された方もいると思います。でも、この「赤い羽根共同募金」が年間いくらの寄付を集めているかご存知でしょうか?

僕の周りの人にも10人ほど聞きましたが、知っている人はだれもいませんでした。ちなみに、「赤い羽根共同募金」の去年の寄付総額は約170億円です。そして、もちろんそのお金がどこのどんな団体に助成されているか知っている人もいませんでした。でも、ホームページを開けば、きちんと報告書が掲載されています。ただ、それをわざわざ見に行くような人はほとんどいないのです。多くの人は、寄付をした時点でなんとなくいいことをした気になって、それで満足してしまっているのです。

77年間続いている「赤い羽根共同募金」がだめだと言いたいわけではありません。
しかし、このような仕組みのままだと、個別の「地域課題」の解決には貢献できても、「社会課題」の解決には結びつきにくいのではないでしょうか?

テクノロジー楽観主義者の僕としては、こうした社会課題を認識したうえで、今こそテクノロジーを活用した新しい資金分配の仕組みが必要なのではないかと考えているわけです。
そして、今現在ようやく形になってきたのが、スマホのアプリを使った自律分散型の資金分配サービス「ZEN messenger」です。

ZEN messengerの仕組み

ZEN messengerは「まちのためのお金」を「まちの人たち」が自分たちで「まちの活動」に分配する仕組みです。
「スポンサー」と呼ばれる方が名前のついたお金をアプリに登録し、「メッセンジャー」と呼ばれるまちの人たちがアプリを使って、「プレイヤー」と呼ばれる地域の団体などにそのお金を少しずつ分配していきます。
詳しい仕組みなどは、5分ほどのプロモーション動画を見ていただければと思いますが、自分たちが「まちのお金」を配るプロセスに参加することで、地域の活動を知ったり、主体的に関わっていくきっかけを作ります。

まだまだ動き出したばかりのサービスで、今のところインパクトも小さいですが、愛媛県のとある西の方の町では、このZEN messengerの仕組みを使って、ふるさと納税などの町のためのお金を町役場の職員が自ら町の活動に分配しようという話も動きはじめています。また、とある企業でも、これまで単純にどこかに寄付していたお金を、このZEN messengerを通して社員に配分し、社員自らが地域の活動に分配するようにすれば社員の意識向上にも繋がってよっぽど意義がありそうだという言葉もいただいています。

君たちはどう「配る」か。

その君たちの意思がまちの未来を変えていくんだよ、ということが実感できるようなプラットフォームにしていきたいと考えています。
そして、一人ひとりの意識が自分のことだけではなくて、もっと地域のことや他の人たちの方にも向くことによって、利己的・短期的な欲望に振り回されている資本主義というシステムも少しはアップデートできるのではないか、そんな希望を持っています。

終わりなき旅

僕はセレンディピティという言葉が好きです。
「偶然の幸運に出会う方法」と説明されたりしていますが、意図せずにいろんなことに出会い、それが繋がっていくという感覚は、何かに導かれているような気さえしてきます。
ここ最近は本当に偶然にもいろんな人と繋がったりして、話がまるで以前から示しあわせていたかのように進むという経験をすることが何度もありました。
でも、もし我々が同じ山を登っているのだとしたら、頂上に行けば行くほど山の周囲は狭くなり、登山者同士が出会う確率は必然的に高くなっていくはずです。
そう考えると、その山の頂に立ち、みんなで登る朝日を見る日は意外と近いのかもしれません。
このアドベントカレンダーもそんな道程の一つになっていきそうな予感がしています。

そして、その先の未来はどんなふうになっていくのか。希望を抱きつつ、今回の記事を終えたいと思います。

ありがとうございました!

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