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資本主義からこぼれるものにお金をまわす~ツールとしてのDAOとGenArt~


株式会社とは何か

株式会社とは何か。
Wikipediaには以下のように説明されている。

株式会社(かぶしきがいしゃ)は、法人格を有する会社形態の一つであり、社会貢献と営利を目的とする社団法人[1]である。株式会社では、細分化された社員権株式)を有する株主から有限責任の下に資金を調達して株主から委任を受けた経営者事業を行い、利益を株主に配当する。

wikipedia

株式会社の「株式」には価格=株価がつき、株価×発行済み株式数が当該会社の時価総額であり、株式会社の価値を示す一つの有力な指標と考えられる。

上場会社であれば四半期の適時開示があり、これが事業計画を達成できるペースかなどが評価され株価が変動する。非上場会社であっても、上場したらいくらの時価総額として評価されるか、M&A時の企業価値はどう評価されるか見られる。
清水大吾さんの「資本主義の中心で、資本主義を変える」の重要な主張の一つは、四半期開示で一喜一憂する株主が多く、社会的に意味のあることにしっかりしたガバナンス態勢でもっと長期の視点で取り組む会社を資本家側でも長い目線でサポートする必要があるのではないか、というものである。

ウォートン・スクールの人気教授、アレックス・エドマンズ氏の「GROW THE PIE」という本も「企業が追求すべき主要な目標は利益ではなく社会的な価値であり、従来の株主価値の枠組みでは承認されないような投資が、社会的な価値を追求することで長期的な成功に結びつくことがある。しかもこのアプローチは利益が最終目標である場合よりも通常は利益が上回る結果となる。」というのが要旨であり、大吾さんの主張と似ていると言えるだろう。

私と資本主義

個人的な話になるが、私は小さいときから今の美しい地球を将来の人類に残せるようにするための仕事がしたいと思っていた。故郷の備後の芦田川でシラサギの横で遊んでいるときに、その時住んでいた横浜の川ではこういう遊びがもうできないことに気付き、なんとかしないといけないと思ったことを覚えている。就職を考えるときにはそのような学生が思いつきそうな選択肢をいろいろ調べていたのだが、そういった仕事に取り組む機関や会社は軒並み給与が低く、法人としての歴史も長く、その中で偉くなるためにはかなり時間がかかりそうだった。また、なんとなく、そういった機関や会社には自分が仲良くなれそうな人がいないなと思った。
大学生の私は大学と住まいは国立だったが、オープンしたばかりの六本木ヒルズの外資系のアパレルと、八重洲のネット証券(外資系証券出身者多め)でアルバイトしており、アルバイト先の人たちはすごく好きだなと思っていた。
なので、六本木ヒルズにオフィスがある外資系証券会社に就職することになる。(そこで清水大吾さんと一緒に仕事をすることになる)

自分は今まで2社で勤務してきたのに加え、いろいろな会社とお付き合いしてきたが、冒頭の株式会社の定義は少し違っていて、「株式会社は営利を求め、得た利益を株主に分配する法人である。営利を求めるために人々が欲しがるものをあらゆる手を使って提供する。これが社会貢献につながることもある」という方がより実態に近いのではないかなと思っている。

資本主義はすごくよくできた仕組みだと思う。資本主義のおかげで人類の生活はよくなってきた※。自分としても資本主義の目線で価値が出せる仕事をしていきたい。そしてリワードとして欲しいものは欲しい。
※「よくなってきた」かはいろいろな見方があると思うが「ファクトフルネス」的にはよくなってきたと言ってよいのではないかと思う。

しかし、「儲からないもの」からは株式会社は手を引いてしまう。人類が初めて直面する人口減少時代において、今後多くの「儲からないもの」がその過程で消失し、世界は画一化してしまう。(これを「縮退」と「現在経済学の直観的方法」は書いている。)
このままでは芦田川でシラサギの隣で遊ぶ喜びをこれからのこどもたちは味わえないかもしれない。

Sakanaya’s Graphic Worksより「魚を狙うコサギ」@広島県府中市

資本主義からこぼれるものにお金をまわす仕組み

儲からなくて資本主義からこぼれてしまうものを残す仕組みとして、人によっては「日本のマチュピチュ」とも呼ぶ新潟県長岡市にある旧山古志村の取り組みを紹介する。

にいがた観光ナビ 山古志の棚田

旧山古志村は2005年の平成の大合併で長岡市に吸収合併された旧「村」で、2004年には中越大震災で地盤が崩れ全村民が一時避難して仮設住宅で暮らすことを余儀なくされた。中越地震前に2200人だった人口は現在800人を切っており、高齢化率は55%超である。豪雪地帯でもあり、冬は数メートルの雪に覆われる。
産業としては農業が盛んで第一次産業に従事する人口が多い。特に錦鯉は山古志発祥と言われており、村中で美しい錦鯉が泳いでいる養鯉場、養鯉池に遭遇する。また、雪に強く粗食に耐える牛も育てており、食用のみならず闘牛の文化もある。
地域にはコンビニやスーパーなどの普通の商店はなく、山間の奇跡的に美しい棚田・棚池の景色が広がっている。住んでいる方々も山古志の自然、独自の文化と産業に誇りを持っている。

この地域では山古志に住む住民と、山古志の暮らし・文化に共感する非住民による「ネオ山古志村」という動きが始まっている。
非住民のネオ山古志村民は電子住民票を持ち、リアル村民にも認識され、地域の行事にもリアルまたはメタバースなどデジタル上で参加できる。
過去には非住民のネオ山古志村民が拠出した資金の一部で、投票で選ばれた山古志村振興プランが実行されたりもした。また、非住民のネオ山古志村民は草刈りや雪かきを無償で手伝ったりしている。
今後、ネオ山古志村民が拠出した資金をプールし、この使途を住民、非住民の投票で決めていく、ということを実施していく予定である。

非住民のネオ山古志村民は、この活動によって利益を求めていない(正確には利益を得られないので利益が欲しい人は継続が難しい)。
では代わりに何が得られるかというと、非住民でも山古志の一員になれ、山古志にいくと「おかえり」と言ってもらえるステータスだ。
もう少し抽象的に言うと、職場でも家庭でもない所属先を持つことができ、自分が好きな客体に認識され、当客体の維持発展に明示的に貢献することができる。「やりがい搾取」とあなたは言うかもしれない。しかし上記の抽象レイヤーで人々が得られるものは多くの人がお金を払って得ようとしているものではないだろうか。

ツールとしてのDAOとGenerative Art

人間とお金があるところには必ず不正と搾取が生まれるのも人類が歴史上経験してきたことである。
上記のネオ山古志村に限らず今後同様の取り組みが生まれたときに、不正と搾取を避けるためのツールとして私が今働いている業界の技術(DAO)が使えるのではないかと考えている。また、Generative Artも重要な役割を果たすと考えている。

DAOとは

DAOとは、スマートコントラクト上に資金をプールし、資金を拠出した人の投票によって資金の使途を決める仕組みである。投票により可決された案の提案者に自動的にお金が送付される。
資金はコントラクト上にCryptoの形でプールされており、残高と預入、引き出しは世界中の誰でも見ることができる。
この技術を使えば、メンバーが拠出した資金を「透明なお財布」で管理でき、知らない間に謎の使われ方をしていたという事態は原則的には起こらない。いくつかこの形のDAOには実例があるが、投資DAOではない実例として「NounsDAO」が参考になりそうなのでちょっと前自分が書いた解説記事を置いておく。
NounsDAOでは様々な課題が現在進行形であぶりだされている状況ではあるが、
・匿名のメンバーがお金を出し合い
・透明なお財布で管理し
・民主的な投票で使い道を決める
が実現できているのはすごいことだと思っている。

ちなみにAragonというサービスを使えば上記のようなことができるDAOはすぐセットアップすることができる。
※と思いきや今セットアップしてみると一部Aragonでは使えないところがあり、今はMintRallyを使っている。このへんのツールはいろいろ出てきており、今後もユーザーとして期待している

Generative Artとは

山古志の「電子住民票」はNishikigoi NFTと呼ばれており、発祥の地と言われる美しい錦鯉をモチーフにしたアートNFTである。NFTなので、1NFT=1票としたブロックチェーン上の投票が可能となる。

Nishikigoi NFTの一例

Generative Artとはp5.jsというプログラミング言語などを使ったコードを使ったアートのこと。筆と絵の具があれば誰でも何かの絵が描けるように、OpenProcessingというサイトにいけば誰でも何かの作品は作れる。
p5.jsをはじめよう|文系大学生のためのp5.js入門 (zenn.dev)
(わたしも勉強中でちょっと作れるようになった。このnoteのヘッダーも takawoさんのGenArtのコードをフォークして作ったもの)

NishikigoiNFTはGenerativeArtistの方が丁寧に作った美しいアートで、電子住民票が美しいアートであることは、ネオ山古志村民の帰属意識の醸成に一役買っていると思う。これが「ネオ山古志01」という文字だけのものであったら今のように多くの人を惹きつけていないのではないだろうか。

現時点のDAO法の論点

ネオ山古志村では「メンバーがお金を出し合い、透明なお財布で管理し、民主的な投票で使い道を決める」形を目指している。目指しているものはシンプルに見えるが、現状日本においてこれができる法的、税務的な建付けはクリアではない。

  • メンバーは通常株式会社で働いているため、匿名で参加できる法人が必要

    • 匿名で参加するメンバーのKYCはどのように行うのか?

  • お金を集めてプールする=法的にはどうやってお金を集めるのか?寄付?会費?

  • 寄付する人の寄付金控除は受けれるのか?

  • 税金は誰がどうやって収めるのか?

この辺のことをネオ山古志村の有志で議論しており、先日有志の何人かのメンバーで自民党DAOルールメイクハッカソンにも出てきた。

2050年の世界」にもあるように日本は高齢化と人口減少の観点で人類が経験したことがないフロンティアを走っている。
これに伴って地方銀行や自治体もゆっくりと統廃合していっている。長岡市の一部である旧山古志村に長岡市の人口と山古志の人口の比率以上の予算を割くのは自治体として難しいことは想像にかたくない。

なので長岡市としてのプロラタなところを超えた部分は「ネオ山古志村」でやれるのではないか、というのが今のネオ山古志村民の考えである。

ネオ山古志村のチームはみんな資本主義社会で本業を持っており、ネオ山古志村にかかわることからは1円も儲けようと思っていない。
やり方としてはネオ山古志村のようなことをする主体を①株式会社の非営利部門が担う、②匿名で活動できる非営利の法人が担う、の二つがある。
株式会社の目的から短期目線か、長期目線化は違えど「利益を株主に分配する」が消えることはない。なので、②をできるようにすることが、人口減少時代の資本主義には必要なのではないだろうか。その方向で法律が作られることを期待している。

なお、「メンバーがお金を出し合い、透明なお財布で管理し、民主的な投票で使い道を決める」ではなく、「株式会社が商材のファンコミュニティをトークンやNFTを使ったインセンティブ設計で盛り上げている、もしくはdiscordで議論させている」集まりも日本では「DAO」と呼ばれている。自民党DAOルールメイクハッカソンの出場団体もほとんどがそういった取り組みだった。株式会社が運営する場合は必然的にこの形(世の中では「なんちゃってDAO」と呼ばれたりする)になると言える。
「なんちゃってDAO」と「メンバーがお金を出し合い、透明なお財布で管理し、民主的な投票で使い道を決める」は全くの別物なので、区別して考えることが必要だと思う。「なんちゃってDAO」という呼称は批判的な印象だが、実際に効果が出ていて盛り上がっているのは日本においては相対的にはこちらの方であり全く批判するようなものではない。なんらか適切な名前を付けて、これらの活動に必要な法整備の進めていければよいのではないだろうか。

ベースレイヤーとしての資本主義

ブロックチェーンには資本主義からこぼれてしまう、または資本主義的には評価されない行動を「トークン」だったり「NFT」にして評価する、扱う機能がある。有名な事例としてはGitcoinとかOptimism Collectiveがあり、ざっくり言うと「ネット上の公共財(情報サイトや教育コンテンツなど)を作った人に対してコミュニティ(DAO)メンバーで投票しトークンを付与する」ということをやっている。こういったDAOに対して運営の改善案を提案することで報酬を得ることもでき、これらの報酬のみで生活できている人たちもいる(らしい)。

こういった他者からの評価、感謝がトークンでブロックチェーン上で表されるようになったことで、今後の「貨幣」的な役割を代替する、という「評価経済社会」の到来を予想する人たちもいる。

個人的には、1600年の東インド会社から続いている「資本主義」は現代社会と不可分であり、資本主義社会から評価経済社会へのパラダイムシフトはそう簡単には起きないだろうと予想している。
ただ、あくまで資本主義のレイヤーの上に、これまで資本主義からこぼれていたものが新しい「経済」圏として成立していき、人々がその「経済」圏に多層的に所属していくことになる、というのが起こりうる未来なのではないだろうか。
と思っていたら家入さんや成田さんがもっとうまく文章にされていた。

暗号資産とブロックチェーンは長らく投機以外のユースケースがないと言われているが、こういった「経済」圏を資本主義レイヤーの上に作ることに大いに使えるのかもしれない。
今行われているいくつかの「DAO」的試みを通してある意味資本主義のアップデートであるこのユースケースが確立されることを期待している。もちろんうまくいくかはわからないので、私も今実践しているケースでがんばりたい。
それが芦田川のシラサギや山古志の牛の角突きを未来のこどもたちにも楽しんでもらえることにつながると思っている。

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