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5. ”中学英語で十分”についての考察(「東洋経済」2023年4月1日付特集)

 東洋経済の最新号は、「中学レベルから学び直す40~50代の英語術」という特集でした。

 中学生だった、数十年前、英語の先生が「中学英語で十分会話できるのよ」と教えてくれた言葉は記憶に残っていました。
 なぜ中学英語がそんなに万能なのか、兼ねてから私は興味を持っていたので、興味深く、特集記事を読み進めました。

 特集の冒頭では下記のように主張されています。

  オンライン会議でちょっとした会議を交したり、メールでのやりとりができるようになったり。とりあえずはそんな英語力があればいい。そのために身につけるべきなのは、中学レベルの英語で十分なのだ。

(p.53)

 その後のページでも、繰り返し同様の見解が示されています。

 中学英語には基本の文法が網羅されている。中学英語がマスターできればビジネスにも十分通用する。

(p.56)

 この56頁にある見解の根拠は、“専門家3氏の主張”とされています。ここでいう専門家3氏とは
 ・田地野彰氏 名古屋大外国語大学教授、京都大学名誉教授
 ・高橋基治氏 東洋英和女学院大学教授
 ・関正生氏  英語講師
の3名です。

 今回の特集を読んで、感じた疑問は1点のみ。

 中学英語で十分であるという根拠が曖昧であることです。

 十分であるという根拠は、個人的な感覚であるようです。
 今回の特集で意見を述べているのは、主に教育業界で活躍される方ばかりで第一線で働くビジネスマンの感想でないことに注意すべきです。
 この3氏の中で、高橋基治さんは「中学英語に出てくる単語を使いこなせれば、十分なコミュニケーションができる」と明確に述べていますが、他の2氏については、中学英語で十分にコミュニケーションができることを明確に述べたコメントは掲載されていません。
(コメントの掲載がない以上、他のお二人は、中学英語で十分という主張を積極的に提唱したというより、”中学英語で十分ですよね”という質問に「そうですね」と相槌を打った程度の回答ではないか、とも考えられます。)

 確認として、文部科学省のHPで公開されている中学校の学習指導要領(平成29年告示)を見てみると、中学英語で学習する文法事項は
 ・代名詞
 ・接続詞
 ・助動詞
 ・前置詞
 ・動詞の時制及び相など
 ・形容詞や副詞を用いた比較表現
 ・to不定詞
 ・動名詞
 ・現在分詞や過去分詞の形容詞としての用法
 ・受け身
 ・仮定法のうち基本的なもの
の11項目が示されています。

 さらに、高校の学習指導要領(平成30年告示)に掲載されている文法事項は仮定法を除くとほぼ同じです。

 中高の英語について大雑把にまとめると、高校では全体的には高いレベルでの反復練習が提唱されていますが、項目としては中学とほぼ同じです。

 確かに、文法項目としては中学段階で網羅しているようです。
 文法はよいとして、一方、学習指導要領には語彙レベルについて明記されていないので、中学英語の語彙レベルで十分であるとは信じがたいです。

 以上の経緯や私自身の経験を踏まえると、本当にビジネスのための学び直しとして英語に取り掛かる必要があり、”中学英語で十分”という主張を信じる方は

 ①文法のことなのか、語彙レベルのことなのか、あいまいである
 ②「書く」「話す」というアウトプットが中学英語で大丈夫だとしても、「聞く」「読む」は中学英語で大丈夫だと保証しにくい

という2点を理解しておく必要があると思います。

 こう考えると、”中学英語で十分"という主張は、中学英語のレベルすらできないとビジネスの場面ではコミュニケーションに困りますよ、ということだと言い変えた方が読み手は困らないと感じます。

 今回の特集は、中学英語について考える良い機会となりました。

 参考まで、2022年10月22日号の学び直し特集号では、予備校講師の安河内哲也さんが

「現在の中学英語は、仮定法を含め必要な文法が入っている」
「語彙や表現も昔より増えている」
「基本的な文法の枠組みは中学英語で事足りる」

(p.51)

と述べ、中学英語の文法を習得しながらオンライン英会話で話す練習をする、という具体的学習法を提案しています。
 こちらの特集も参考になります。

 私は、生活上の日常会話なら中学英語で十分だと思います。
 仕事としてビジネスとして業務として気遣いが必要な場面で英語を使おうとするなら十分とは言えないと思っています。

 長文失礼いたしました。

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