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クレベール・メンドンサ・フィリオ『Pictures of Ghosts』レシフェと私と映画館の歴史

2024年アカデミー国際長編映画賞ブラジル代表。クレーベル・メンドンサ・フィリオによる最新ドキュメンタリー。レシフェはブラジルの角の先端にある港湾都市であり、フィリオが40年来住んでいる故郷でもある。レシフェ南部のビーチにほど近いアパートに移り住んだ1970年代から、今に至るまでレシフェの街も自身のアパートも様々な表情を見せ、変わり続けてきた。本作品は三部構成で展開される。第一部ではフィリオの自宅があるボア・ビアジェン地区の変遷を辿る。フィリオの母親ジョゼリスは夫と別れて心機一転この地へやって来て、クレベールら兄弟を女手一つで育ててきた。映画監督への道を志したのも母親が背中を推してくれたからだ。クレベール青年はまず、自宅や近所をロケ地として短編映画を作り始める。初長編『Neighboring Sounds』(2012)も自宅で撮影した作品だ。そこには隣家の犬が吠えるとか、近隣で唯一柵のある家とか、様々身近なエピソードやロケーションが組み込まれている。しかし、"日常生活(ホームビデオ)と映画では異なる表情を見せていた"とフィリオが語るように、それらは全く異なる印象を与え、まるで現実が夢と重なって揺れるような、不思議な感覚に陥る。第二部では、クレベール青年が週に何度も通った映画館街のあるレシフェのダウンタンの繁栄と衰退を辿る。レシフェはブラジル北部と北西部を網羅する映画配給網の中継地であり、様々な映画会社がオフィスを構えていた。二次大戦初期は親ナチだったため、UFAがプロパガンダ用の映画館を建てに来て、それがフィリオの時代まで残っていた、なんて話もあった。他にも様々な映画館が立ち並んでいたが、デジタル化/配信の波や、金がビーチの方に流れたことで、繁栄していたダウンタウンは見る影もなく衰退していった。フィリオはホームビデオを担いで、その終焉の目撃者となったのだ。ただ、こちらはノスタルジーが強すぎるようで、第一部が内向きな湿っぽさがあったのに比べると、第二部は外向きな湿っぽさがあり、夢と現実が云々の感覚も薄れていく。ちなみに、長編二作目『アクエリアス』ではダウンタウンの元映画館に入った電気屋などを撮影に利用している。主演はブラジルを代表する大女優ソニア・ブラガであり、彼女の代表作の一つ『未亡人ドナ・フロールの理想的再婚生活』もここで上映された。第三部はこの地域で唯一(?)生き残っているサンルイス映画館について語られる。70年の歴史を誇る豪華な内装のドでかい映画館で、地元のシネフィルたちは神殿として扱っている。ここの盛況っぷりを見るに、映画の人気がなくなったわけではなさそうというのがせめてもの救い。ただ、第二部に続いて尻すぼみ感は拭えず。第一部みたいな魔的時間が続けばもっと良かったと思っている。

・作品データ

原題:Retratos Fantasmas
上映時間:93分
監督:Kleber Mendonça Filho
製作:2023年(ブラジル)

・評価:70点

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