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フレッド・ケレメン『Frost』自由を求めて彷徨い歩き、少年は目撃する

主に近年のタル・ベーラ作品における撮影監督として有名なフレッド・ケレメンの代表作。前作『Fate』から次作『Nightfall』へと連なる三部作の第二篇。陰鬱な音楽とともにフラフラと街を歩む親子。父親に肩車されながら爆睡する息子と、しこたま酔っ払って危険なほどフラフラ歩きながら器用に煙草を吸う父親は、みすぼらしいクリスマスツリーの脇を抜けて、雨漏りのするマンション地下にある部屋まで戻ってくる。酩酊状態の父親と疲れ果てた母親は部屋の中で大声で罵り合い、締め出された少年は罵詈雑言を一字一句聞き取りながら平和な世界を夢想する。タル・ベーラの熱心なフォロワーとして、地獄の一部始終を丁寧に暴き出すその長回しは、窒息寸前の閉所恐怖症的空間を作り出し、虐待的な父親から逃れる母子を3時間かけて追い回し、着実に追い詰めていく。例えば、母親は家を飛び出した初日から少年を連れたままバーに入り、下心満載の男から必死に口説かれるんだが、少年はそれも横で全て聞いている。或いは、彼について行った先で、泥酔した母親は男に犯されるのだが、これも少年は横で全て見ている(あまりに露悪的なのでここだけは流石に途中で切ってる、正しい判断だと思う)。更には、母親も少年と同じ経験をしたらしく、彼女の思い出の土地まで戻るんだが、そこが一面更地になっていて、凍った地面を踏みしめて人のいる土地まで戻るしかない。どれも一瞬先すら見えない深い深い絶望の底にありながら、更にそれが深まっていく様を、その場にいる当事者のようにリアルタイムで追っていくのだ。そして、我々も少年と同様、搾取され続ける母親の姿を目撃することしか出来ない。しかし、手を差し伸べられる距離にいたとして、手を差し伸べるだろうか?という、孤立と搾取の関係性も深掘りしていく。しかし、どの場面でもバカの一つ覚えのように一部始終を見せるのはどうなんだろうか。個々の状況を良い意味でも悪い意味でも平均化してしまって、テンポも悪くなっている。特に荒涼とした大地を踏みしめる心象風景のようなシーンは何度も登場するが、あまり機能していないと思う。

・作品データ

原題:Frost
上映時間:201分
監督:Fred Kelemen
製作:1997年(ドイツ)

・評価:70点

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