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タル・ベーラ『アウトサイダー』ハンガリー、あぶれ者放浪記

精神病院でバイオリンを弾く看護師のアンドラーシュ。その演奏は頗る上手く、患者の多くも聴き入っている。"ブダペスト・スクール"でデビュー作『Family Nest』を製作した後、演劇映画芸術学校で学び製作されたタル・ベーラの長編二作目。キャリア初のカラー作品であり、続く『The Prefab People』とも似たような作品である。そんな才能ある彼がなぜ精神病院で看護師をやっているかというと、その酒癖の悪さに起因している。彼は音楽学校も放り出されており、本当にそうかどうか怪しげな"子供"を自分の子供として認知し、別れた奥さんに仕送りをしているのだ。しかし、予防接種を拒もうと患者が喚き散らす精神病院と酒代が払えないと酔っ払いが喚き散らす現実世界はほとんど大差ないように描かれており、そこを行き来するアンドラーシュはある種の門番のような役割を果たしていたのかもしれない。

そして、やはり酒のせいで精神病院の解雇され、一般社会に馴染もうとする絶望的な努力も水泡に帰した。彼は原題の通り社会の溢れ者であり、芸術の世界にも労働の世界にも溶け込むことが出来なかったのだ。彼が音楽家としての活動を諦めた結果、流れ着いたのがDJというのも興味深いが、もっと興味深いのは別れのシーンだ。勤め先のパーティで、大音量で音楽が流れる中、互いの言葉がそれに流されるのを防ぐため、大声で言い争うその姿は、正にアンドラーシュが作り続けた社会そして他人との壁に他ならなかった。

会話に独特のリズムがあるものの、ドキュメンタリー的手法から逸脱したモキュメンタリー映画だった前作に比べると普通のドキュメンタリー映画に堕ちてしまった感じは否めない。そして、リズムがあるってだけで、会話もそこまで面白くはない。

・作品データ

原題:Szabadgyalog
上映時間:122分
監督:Béla Tarr
公開:1982年1月28日(ハンガリー)

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