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ベルトラン・ボネロ『ティレジア』 徐々に"変身"していく現代の神話

2003年カンヌ映画祭コンペ部門選出作品。ギリシャ神話におけるティレジア、基テイレシアース伝説を現代に翻案したボネロの長編三作目。テイレシアースについての話は形を変えて多くあれど、男としても女としても過ごした経験のある盲目の予言者という設定はほとんどの場合で共通している。その現代翻案としての本作品に、ティレジアはブラジル出身のトランスセクシュアルの人間として登場する。そして、ブローニュの森で娼婦をしていたティレジアを変質者の男が誘拐する前半、解放されたティレジアが予言者となって田舎街で暮らす後半に分けられている本作品で、ティレジアの性別は女→男に"変身"する。二つの連続した挿話で、全く異なる人物がティレジアを演じているのだ。そして、奇妙なことにティレジアの保護者となる前半の変質者、後半の神父は別の人物ながら、ローラン・リュカスが一人二役で演じている。地下と地上、夜と昼、ハリネズミと馬といった変貌を遂げる本作品において唯一変わらないティレジアの守護者的な存在であり、彼こそがゼウスのような役割をしているのかもしれない。

前半。ティレジアは変質者に囚われる。男は扉の鍵穴から彼女が部屋の中を歩き回る様を覗き見て、入れ替わるように鍵穴からこちらを覗き込むティレジアの目が大写しになる。双方に窃視的な切り返しが完成する一連のシーンは前半のハイライトの一つであり、見る/見られる関係から連想する男女のパワーゲームを最も強く連想させるシーンでもある。二コマ漫画的なジャンプカットも多く、非常にテンポの良い監禁劇は男がハサミでティレジアの目を潰す衝撃的なシーンで幕を下ろす。

盲目になったティレジアは遂に完全な男となって森に放置され、予言能力が覚醒することで聖性を勝ち得ていく。しかし、映像的な面白味が豊富だった前半に比べ、神父との押し問答に終止した後半はどちらかと言えば控えめだ。最新作『Zombi Child』しかり、結局説明しちゃうのかと少し残念には思うが、前半の凄まじい戦闘力を前にしてしまえば平伏すしかなさそうだ。

・作品データ

原題:Tiresia
上映時間:115分
監督:Bertrand Bonello
公開:2003年10月15日(フランス)

・評価:80点

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