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ファーブリ・ゾルタン『メリー・ゴー・ラウンド』社会主義的世代交代と伝説のダンスシーン

国営になったハンガリー映画で初めて世界的に成功したファーブリ・ゾルタン監督三作目。1956年の第9回カンヌ国際映画祭に出品され、観客や批評家からは激賞されたファーブリ初期の代表作。2017年の第70回カンヌ国際映画祭クラシック部門でニュープリント版が再上映されて話題になったらしい。今年もベルリン国際映画祭でメーサーロシュ・マルタの『Adoption』のレストア版が上映されたことを思い出してしまった。Sarkadi Imreの短編小説『Kútban』を原作としている本作品は、なんとトゥルーチク・マリお姉様のデビュー作なのだ!!若い!

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時は1953年、スターリンが亡くなり、ナジ・イムレ政権が誕生した文化的緩和時代。数多くの政治的・社会的変化を乗り越えたハンガリーのある村での出来事である。農民の娘マリはマテという好きな人がいるのに、双方貧しい生まれのため、父親イシュトヴァンは金持ちのおっさんシャンドールと結婚させようとしていた。

冒頭の遊園地のシーン、特に題名にもなっているメリーゴーラウンドのシーンは伝説と呼ばれているが、その称号も間違いではないってくらい美しかった。縦にグルグル回るやつを人の正面から捉えたショットの次に、横をグルグル回るメリーゴーラウンドのショットぶち込んできて最高だった。弾けるようなトゥルーチクお姉様の笑顔にキュンキュンしていた。と同時に、古いハンガリー映画から脱した"新しいハンガリー映画"の姿に打ち震えた。

イシュトヴァンは国に回収されてしまった自分の土地を取り戻して、コルホーズに抜けようとしており、そのためにもマリをシャンドールと結婚させねばならなかった。当然反国家的なイシュトヴァン(旧世代)とようやく耕す土地を得たマテ(新世代)は対立する。と同時に、ソ連の支配体制が流入してから5年ほどでコルホーズに不満を持つ農民が脱退することがあったと示している。

そして、結婚披露宴の伝説的なダンスシーン。マリとマテは父親や婚約者の前で回り続け、笑顔を失っていたマリが、その弾ける笑顔を取り戻し、楽しかったメリーゴーラウンドのシーンとオーバーラップするのだ!このシーンは本当に天才的だと思った。このシーンを堺にマリは"自分が駒である"ことに気が付き、回転の前後で目の色が変わっているのが分かる。新世代と旧世代の対立を視覚化した素晴らしいシーンだった。

ようやく反抗することを覚えたマリは父親と対立し、紆余曲折を経て父親は折れる。しかし、これまでのファーブリ映画と同じく、"起承転"が長い反面"結"は短くて薄い。彼が作るそのあっけない結末というのが、決していい方向に作用しているとは思えなかった。

というわけで、少し不完全燃焼だったものの、伝説と言われている2つのシーン、冒頭のメリーゴーラウンドと終盤のダンスシーンには感動した。

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・作品データ

原題:Körhinta / Merry-Go-Round
上映時間:90分
監督:Fábri Zoltán
公開:1956年2月2日
※日本ではゾルタン・ファーブリと紹介されている

・評価:78点

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