ファーブリ・ゾルタン『Professor Hannibal』政治利用されたお人好しな教授
Móra Ferencの『ハンニバルの復活』を原作にしたファーブリ・ゾルタン監督五作目。戦間期、ファシストの誕生した1920年代後半を舞台に政治闘争に巻き込まれたお人好しで学問馬鹿な高校教師を描く。ファーブリの特徴として2つの大戦とその間の時代(1910~1945年)を舞台にしていることが多く、本作品もその一つである。
学校でデモが起こり、記念館に火の手が上がる。生真面目な教授Nyúl Bélaはレポートの採点をしつつ、ハンニバルについての自分の論文が新聞に載らないと知って塞ぎ込んでいる。遅ればせながら煙に気が付き、慌てて一階に降りて行き、校長お気に入りの孔雀の剥製を火の手から救い出す。この一連のシーンは学問馬鹿で、お人好しで、自己犠牲も厭わない教授の人物描写を的確に行っている。
同時に、このNyúlという男が取るに足らない男であるということも分かる。Nyúlという名前が"ウサギ"を意味していることからも監督や原作者が主人公を馬鹿にしている感じがうっすら読み取れる。
発狂した同僚の代わりに論文を新聞に載せることになったNyúlは、自分のハンニバルについての論文を載せろと押し付けられてしまった。当初、この論文は熱狂的に受け入れられたが、地元紙が"反体制的"という記事を載せてから空気がガラリと入れ替わり、あれよあれよという間に停職処分にされてしまう。
映画の舞台は1920年代後半であるが、この映画が製作された1956年というのはハンガリーにとって非常に重要な年である。妥当共産主義政権の革命がソ連軍によって鎮圧された"ハンガリー動乱"が起こった年なのだ。ファーブリは台頭するファシストの独裁政権とカーダール・ヤーノシュ率いるハンガリー共産主義政権を重ね合わせ、暗に批判しているのである。
Nyúlは学友の議員に頼んでこれを撤回してもらおうとするが、彼のペースに巻き込まれて完全に失敗する。このパーティの露悪的なカット割りからのオーバーラップは中々面白い。利用されまくったNyúlは失意の中、"ハンニバルはクズだから殺されたんだ!"と言い放って民衆の歓待を受ける。手のひら返しとは正にこのこと。
結局は権威(議員や新聞)の言うことに靡いてしまう一般大衆を滑稽に描いている、と考えると作品の出来にも納得できる。それくらい登場人物の掘り下げが少し甘い。Nyúl教授を悲劇の人にはしたくなかったんだろうけど、それにしては個性を埋没しすぎていて、映画の印象が薄味になってしまった感じが否めない。
最終的に、良心の呵責によって自死を選んだNyúl教授の選択は正しかったのだろうか。20年代、56年、双方の空気感を知らない人間にとっては全く答えの見つからない問いの一つである。
・作品データ
原題:Hannibál tanár úr
上映時間:89分
監督:Fábri Zoltán
公開:1956年10月18日
※日本ではゾルタン・ファーブリと紹介されている
・評価:58点
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