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おデブ全盛期のマイク・スターンはチーズバーガーを23個注文する 読書感想「25人の偉大なジャズメンが語る名盤・名言・名演奏/神舘和典」

 当時、体重が「軽く100キロは超えていた」というマイク・スターン。マイルスバンドのツアー中、サックスのビル・エバンスとホテルでどんちゃん騒ぎをし、ルームサービスでチーズバーガーを23個注文する。マイルスは、マイク・スターンのふくよかさに敬意を表し、新曲の一つを「ファット・タイム」と命名。それにビル・エバンスは嫉妬する。

 本書には、こういった著名ジャズミュージシャンの面白エピソードが満載だ。25人のインタビューから構成されており、1人あたり数ページの文章量なのでテンポよく読める。会話中に登場する曲やアルバムをかけながら読み進めると一層面白い。

 ミュージシャンが話すのは、自分自身のことだけではない。彼らの証言からは、インタビュー当時、既に故人となったジャズジャイアンツの姿も見えてくる。マッコイ・タイナーによれば、ジョン・コルトレーンはいつも歌を口ずさんでいた。ツアーでニューヨークからカリフォルニアまで車で移動すると、車中でずっと歌い続けていたそうである。「練習魔」「ストイック」といったイメージのつきまとうコルトレーンだが、そんな陽気な一面もあったとは。

 プレイヤー視点でも参考になる内容は多い。最高峰のテクニックを持っていたマイケル・ブレッカーは、気に入ったフレーズに出会ったら、「まず声に出して歌う。それからサックスでなぞる」そうだ。気付いたことがあれば、一つ一つメモをとる。そのノートが自宅に山積みにされていたらしい。
 「良い演奏に必要な要素」にも多数のミュージシャンが言及している。オスカー・ピーターソンは「オネスティ」、ジミー・コブは「素直さ」、ヘレン・メリルは「誠実な心」をあげているのは、ほぼ共通見解といってよいだろうか。

 会話そのものだけでなく、異国の音楽ライターである著者への接し方からも色々な人間像が見えてくる。遅刻してくる人がいれば、著者が恐縮するほど親切な人がいる。「このミュージシャンの音楽は、どうしてこういう音になるのだろう」。本書の「あとがき」によれば、その疑問が著者の取材のスタートだったという。

 個人的な一番のお気に入りは、以下の一文だ。

 「ジョージ・ベンソンはインタビューに応じるにあたって、一つだけ条件を出した。それはメイクアップ・アーティストをつけることである」



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