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「このオプションをつけていただくとですね、なんと、毎月300円も安くなります」 こいつはさっきから何を言ってやがるんだ。俺は今話題のスマホを買いに来ただけだってのに。オプションって何だ? 「さらに今回はこの防水テレビを特別価格でお付けします」 なんだと? 防水テレビだと? どういうことだ? なんでスマホを買ったら防水テレビがついてくるんだ? 意味がわからない。しかし、これがあると風呂でテレビが見られるってわけか。畜生、欲しくなってきやがったぜ。 「こ、これ
羊A「…………」 羊B「…………」 羊C「…………」 羊D「…………」 羊E「…………」 〈完〉 #小説 #ショートショート
「今日もすっごく可愛いわ」 私は鏡で自分の顔を見ながらいった。キリッとした眉毛、すべて吸いこんでしまうかのような大きな瞳、黒々とした綺麗なロングヘアー。 ホント、可愛い。芸能界でも十分やっていけるのは間違いない。 私は5分くらい自分の顔をまじまじと見つめたあと、元気よくいった。「じゃあ、二度寝でもしますか!」 私は不登校である。ゆえに平日からの二度寝が許されるのだ。 ベッドに勢いよく飛び込み、枕についたトリートメントの匂いをクンクン嗅いでいると、インターホンが
クソ、部長め。いつ思い出してもイライラする。 あのオコゼみたいな顔、丸まった背中、地面をこすりつけるような歩き方、すべてが嫌いだ。 今日なんて「ちょっと斉藤くん。昨日の報告書、日本語がなってないよ」だって。 オコゼが偉そうに日本語語るんじゃねえよ。畜生。 ああ、不倫とかで左遷にならねえかな。まあ、あんなオコゼと不倫するようなモノ好きな女はいないか。 「うごおおおおおおおおお! ドーン! ドーン! ギイイイイイイン!」 なんだよ。うるさいな。誰だよ、こんな錆びれ
~前篇~ 「よーし、準備はいいか」ワタルは大声でいった。「飛び乗れ!」 「ちょっと待て、心の準備が……」タケシは眼下に広がる膨大なドミノに圧倒されていた。「失敗したらすべてがパーなんだぞ。なによりおれが大ケガする」 「そのときは巨乳ナースをあてがってやるから心配せずに飛べ」 「そうか、それなら……ってなるか、ボケ!」 「飛ぶまで帰れませんよー」ワタルが棒読みでいった。「早く飛んでくださいー」 「うるせえ。人ごとみたいに。全部あいつのせいなのに」タケシはぶつぶついっ
ワタルは体育館にところ狭しと並べられたドミノを見て、様々な思いが込み上げてきた。 風邪をひいた時も、友達とケンカした時も、好きな子にフラれた時も、一心不乱にドミノを三年間、休まず並べ続けてきた。 そのドミノがつい先日、完成した。多くの足場を使い、幾層にも重ねられたドミノはまるで巨大なジャングルジムのようだ。 マスコミも注目する「ドミノ倒し名門校による史上最大のドミノ倒し」は明日開催される。 「ついに明日だな……」ワタルの隣で鼻をすすりながら、タケシがいった。「おれ
「切腹を命ずる!」 私は新撰組に切腹を言い渡された。世間の流れで、なんとなく尊王攘夷運動に乗った結果がコレだ。 私は友達についてきて長州から京都に来た。皆は「夷狄をぶっ殺せ」とか言ってたけど、私はそんなことをするつもりは毛頭なかった。ちょっと他の人と一緒にカッコつけたかっただけだ。 なのに、京都に着くや否や新撰組に見つかり、友達は一番隊隊長の沖田総司とかいうやつに殺された。私は抵抗しなかったからか、殺されずには済んだが結局切腹しないといけない。 なにもしてい
私は熊本城の石垣を見ながら、つぶやいた。 「『NINJA』のそり立つ壁にそっくりだ……」 そのつぶやきも周りの声にかき消された。うしろから多くの兵士が叫びつつ、石垣に向かって走っている。石垣の上からは雨のように矢が降り注いでくる。 今は西南戦争の真っただ中だ。私は薩摩の兵として、熊本城に立てこもった新政府軍を相手に戦っている。 さきほど私がつぶやいた『NINJA』だが、これはテレビ番組のこと。運動神経に自信のある参加者が8つの障害物のあるコースを乗り越え、ゴール
魔王退治に出発した勇者一行。問題なく冒険は進んでいましたが、どうやら転職ができる『マーダ神殿』の前で4人は揉めているようです。 「お前ら、何回も言わせるな!」勇者は3人に怒鳴りました。「絶対2人は転職しないといけないんだよ!」 「ボクは絶対無理」戦士Aが言いました。 「私も無理です」戦士Bが言いました。 「オレも無理!」戦士Cが言いました。 勇者はブチ切れたようです。「わがまま言うな! 勇者1人、戦士3人ってどんなパーティなんだよ!」 事の発端は物理攻撃
「今日はいい風が吹いてる。記録が伸びそうだな」トオルは屈伸しながら、隣でアキレス腱を伸ばしているタクヤに言った。「まあ、記録なんてどうでもいいんだけどな」 「トオルは日本記録持ってるから、皆期待してんじゃないか。82mなんて記録、そうは出ねえよ。見ろ、お前のライバルがお出ましだ」タクヤが言い、スタート位置に目線を向けた。 そこにはハンググライダーを持ち、助走に入ろうとしている男がいた。180cmを優に超えた巨体だ。 「ハンググライダー幅跳びなんて、背が小さくて、
「人をやさしくする呪文…」 オレは説明書を読みながらつぶやいた。 昨日、飲み会帰りに怪しい呪文屋を見つけた。安かったのと、酔いのせいもあり、ひとつ買ってしまったのだった。 怪し過ぎるが、物は試しだ。とりあえず鬼のような部長に使ってみよう。 朝礼終わりにさっそく唱えてみた。今日は月に1回の面談がある。いつもは怒られてばかりだけど、これでマシになるハズだ。呪文がしっかり効いていれば。 部長に呼び出され、会議室へ。すると部長は開口一番、言った。「田中、お前ま
「恐かったね~ティラノサウルス。次はどこへ行く?」ユミはスキップしながら言った。 恐竜は想像以上に恐ろしかった。でも、生の恐竜を見ることができるのは、この『アトランティス大陸』だけだ。この大陸は2年前、急にオーストラリア大陸の隣に現れた。そこは何万年も変わらず、恐竜や原住民などが暮らしていた。どういう原理かはわからないけど、大陸全体が昔のまま現代にタイムスリップしたようだった。 開発はドンドン進み、大陸全体がテーマパークみたいになっている。生の恐竜が見られる『ジュラ
むかしむかし、ミタワという国がありました。その国の王は独裁者で、何ごとも自分の思い通りにならないと気が済まない性格でした。しかし、王はとても明るく、いつもポジティブでした。 食糧難になっても「なんとかなるさ!」、大規模な自然災害で沢山の国民が死んでも「前を向いて行こう!」と、常に明るい言葉で国民を励ましてきました。 しかし、明るい言葉とは裏腹に厳しい決めごともありました。王のポジティブな言葉が書かれた紙を一家に一枚、皆が見えるところに貼ることが義務付けられており、貼ら
私は足が速い。100mが11秒とか、そんなレベルではない。2秒ちょっとくらいだ。 この人間離れした能力は今から2年前、私が38歳の時に急に開花した。ある日、遅刻しそうだったから、走ってみたら、すごく速かったのだ。 無事遅刻せずに済んだが、途中で通勤途中のサラリーマンを突き飛ばしてしまい、全治3ヶ月の大けがを負わせてしまった。幸いにもそのサラリーマンは「なにかよくわからないが、すごい風がしたと思った瞬間、気を失っていた」と何もわかっていない様子で、この事件は迷宮入りし、