巨大ドミノと巨乳ナースにかけた青春 後編
「よーし、準備はいいか」ワタルは大声でいった。「飛び乗れ!」
「ちょっと待て、心の準備が……」タケシは眼下に広がる膨大なドミノに圧倒されていた。「失敗したらすべてがパーなんだぞ。なによりおれが大ケガする」
「そのときは巨乳ナースをあてがってやるから心配せずに飛べ」
「そうか、それなら……ってなるか、ボケ!」
「飛ぶまで帰れませんよー」ワタルが棒読みでいった。「早く飛んでくださいー」
「うるせえ。人ごとみたいに。全部あいつのせいなのに」タケシはぶつぶついった。
「なんですかーなにか言いましたかー」
「なにも言ってません!」
「じゃあ、早く飛んでくださいー」
「ああ、もう!」タケシは気合いを入れ、二階の手すりから飛び上がった。バスケットボールの骨組みになんとか手をかけ、しがみつくことができた。
「はあ、はあ」タケシは必死だ。「危ねえ。もう少しで手を滑らすところだった」
「つかみましたねー」ワタルは相変わらずの無感情でいった。「じゃあゴールを上げますねー」
「歓声とかねえのかよアイツは」タケシはバスケットゴールにしがみつきながら上がっていった。
『ドミノの塔』はちょうどバスケットゴールを折りたたんだゴールポストの下辺りにある。タケシはゴールポストの上から下を見た。
「おーすごい眺めだ」タケシは大声でいった。「お前の『やり過ぎ巨乳ナース』もはっきり見えらぁ」
「可愛いだろ。パッケージの子」
「おう。こんなのに看病されたらたまらんだろうな」
「しかも、すげえ巨乳だし」
「ワタルお前、いいセンスしてるじゃねえか」
「だろ? 『ドミノの塔』てっぺんに相応しいだろ」
「それはどうだろうな……ん?」タケシはミシミシ、という嫌な音を聞いた。「や、やばいぞ」
「どうした? 早く取って、代わりのドミノを置いてくれ」ワタルは不思議そうにいった。
「い、いや、なんか嫌な予感が」タケシがいった瞬間、ゴールポストが割れた。
「うわあああ」タケシは『やり過ぎナース』の上に背中から落ち、逆エビぞりになったままドミノをなぎ倒しながら下に転がっていった。街全体に届くかのようなすごい音が響いた。
三年間、皆が必死になって並べたドミノが無慈悲にドンドン倒れていく。
あまりの壮絶な光景にしばし呆然となっていたワタルが、やっと正気を取り戻し、ドミノを蹴飛ばしながらタケシに近づいていった。
「タケシ、タケシ! 大丈夫か?」
「うう、痛え……」
「どこが? どこが痛むんだ?」
「うう、背中に決まってんだろ。『やり過ぎ巨乳ナース』が背中に刺さったんだぞ」
「痛いのはわかるが、ここから逃げないと」ワタルはいった。「すぐに警備員が来る」
「ワタル、すまん。失敗しちまった……」
「謝罪は後で受けるから、さっさと立て」
「お前、ホント、最低なヤツだな」タケシは言いつつ、なんとか立ち上がった。
ワタルはタケシの肩を持ちながら、走って逃げていった。
事故から一週間後、彼らは病院の屋上で夕日を眺めていた。
「あの事故、どうなったんだ?」パジャマ姿のタケシがいった。
「まだ捜査中だってよ。おれたちの指紋が残ってるから、すぐにバレるだろう」ワタルが何事もないかのようにいった。
「『やり過ぎ巨乳ナース』も置いてきちゃったしな」
「もういいよ。全部、済んだことだ。どうしようもない」
「そうだな」
「…………」
夕日が彼らの顔をオレンジに染める。街の喧噪が聞こえてくる。
「そういやさ」ワタルがいった。「担当のナースどうだった? 巨乳だった?」
「巨乳どころか……」タケシはため息をついた。「60代のオバちゃんだったよ」
「初老じゃねえか……」
「初老だな……」
「最後に巨乳でHなナースが出てきたら、結果オーライだったんだけどな」
「人生うまくいかねえもんだな」
「だな」
こうして彼らのドミノにかけた青春は幕を閉じたのであった。
〈完〉
働きたくないんです。