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優しいクラスメイト達

 「今日もすっごく可愛いわ」
 私は鏡で自分の顔を見ながらいった。キリッとした眉毛、すべて吸いこんでしまうかのような大きな瞳、黒々とした綺麗なロングヘアー。
 ホント、可愛い。芸能界でも十分やっていけるのは間違いない。

 私は5分くらい自分の顔をまじまじと見つめたあと、元気よくいった。「じゃあ、二度寝でもしますか!」
 私は不登校である。ゆえに平日からの二度寝が許されるのだ。

 ベッドに勢いよく飛び込み、枕についたトリートメントの匂いをクンクン嗅いでいると、インターホンが鳴った。

 「チッ、また来やがったか」
 8時25分きっかりに毎日鳴るインターホン。鳴らすのはクラスメイトの涼香だ。

 「美奈子~涼香ちゃん来てくれたわよ~」母が玄関から大声で言う。
 私は寝たフリを決め込む。いつものことだ。

 なんで返事をしないのをわかっていて毎日涼香が来たことを報告するのだろうか? 申し訳なく思ってほしいのだろうか? 

 バカめ。そんな手には乗らんぞ。今日もしっかり二度寝するのだ。

 

 11時に再び目が覚め、ベッドに仰向けになりながらなんとなくスマホを手に取り、クラスのグループラインを見る。

 「今日も美奈子ちゃんの家に行ってきたけど出てくれなかったよ~(泣)」涼香が書き込んでいる。
 「美奈子、いつでもおいでね。皆、待ってるよ」学級委員長がライン上で私に呼びかける。
 「さみしいぞー」男子が書き込む。
 「うん。待ってるから」話したこともない女子が書き込む。

 バカめ。そんなので私が感動して、「皆、待ってくれているのね。明日学校に行くわ」と、なるとでも思っているのか。なんで話したこともない女子が私を待っているんだ。どうせ「こんなこと書き込む私、優しいでしょ。皆、見て見て。特にカッコいい男子」とでも思ってるんだろう。

 「涼香、毎朝美奈子の家に行ってるんだろ? 偉いな~」男子が涼香を褒める。
 「そんなことないよ。美奈子ちゃんには学校に来てほしいから当たり前のことだよ」涼香が可愛らしい顔文字をつけて書く。
 「すごいよ。涼香。毎朝行くなんて」
 「うん。すごいすごい」
 「尊敬しちゃう」
 「涼香、偉いよ」称賛の声が次々と書き込まれる。
 「だからそんなことないって~」涼香が謙遜する。

 ホラ、始まった。三日に一回くらいで開催される「涼香を称賛するくだり」。

 クソ、面白くねえ。涼香も毎日来るけど、称賛されるのが目的だろ。つーか、通学途中に私の家があるんだから、ちょっと寄るくらいワケねえっつーの。

 こういうのがイヤで私が不登校になったってのが、わからないのかコイツらは。


 テレビを見ているといつの間にか夕方だ。再びインターホンが鳴った。

 「美奈子~タカシ君が今日のプリント持ってきてくれたわよ~」
 聞こえてないフリ。いらねえんだよ、そんなもん。余計なお世話だ。プリントを持ってくるのは大概男子。私に気があるヤツが交代で持ってきている。下心が丸見えだ。

 夕方のワイドショーを観ながら、再びクラスのグループラインを見てみる。
 「美奈子の家にプリント持って行く任務、完了しました!」さっき来たタカシがさっそく書き込んでいる。
 「おつかれ~」
 「明日、頭をなでてやるよ」
 「よし、よくやった」皆が書き込む。
 最後にタカシが書き込んだ。「美奈子。丸で囲んであるところが、大事なところだからな。しっかり勉強しろよ」

 タカシだって私の気を惹きたいがために、ここまで丁寧にしてくれるんだろう。結局コイツも己の性欲のためだけ。

 皆もそう。自分のことしか考えていない。私を使って、「自分は良い事をしている」と自己満足に浸りたいだけだ。そして、その行動を称賛し合う。

 女は褒め合い、男は私の気を惹こうとする。結局、すべて「自分のため」だ。

 しかも私が学校へ行くのが、正解だと何故言えるのだろうか。思い込みを押し付け、いいことだと勘違いし、勝手に気持ちよくなる。好かれようとする。

 なんと低俗な連中なんだろう。こんな奴らと一緒にいるとどんどんアホになるばかりだ。コイツらに親切にされるたび、学校へ行く気をなくす。

 人間って全員がこうなんだろうな。イヤになってくるな。ホント。

 きっと不登校から始まる人生もある。ひとりだけで偉業をなしとげた人だってたくさんいるんだから。

 「あ~あ、今日もつまんない一日だった」私はため息をつきながらベッドに横になった。

 「人間は汚い生き物」それさえわかれば、数学も国語も英語も必要ない。私は己の身を持って、学校ではできない勉強を今、ベッドの上でしているのだ。

#小説 #短編 #ショートショート #不登校

働きたくないんです。