巨大ドミノと巨乳ナースにかけた青春 前篇
ワタルは体育館にところ狭しと並べられたドミノを見て、様々な思いが込み上げてきた。
風邪をひいた時も、友達とケンカした時も、好きな子にフラれた時も、一心不乱にドミノを三年間、休まず並べ続けてきた。
そのドミノがつい先日、完成した。多くの足場を使い、幾層にも重ねられたドミノはまるで巨大なジャングルジムのようだ。
マスコミも注目する「ドミノ倒し名門校による史上最大のドミノ倒し」は明日開催される。
「ついに明日だな……」ワタルの隣で鼻をすすりながら、タケシがいった。「おれたちの青春が明日で終わる」
「うん……」ワタルも溢れてくる涙をこらえることができなかった。
この学校の体育館は一般の生徒が立ち入ることはない「ドミノ部」専用の体育館である。地震の発生も事前に予知し体育館全体が持ち上がることで、絶対に揺れないように改造されている。もはや体育館ではなく、ドミノ館といってもいい。
「で、どの辺に置いたんだ?」タケシはニヤニヤしながらいった。「お前がふざけて置いた『やり過ぎ巨乳ナース』は」
「さあ、それがわかれば苦労しねえよ」ワタルがいった。
「よりにもよって『やり過ぎ巨乳ナース』って……」タケシは笑いをこらえている。
ワタルは好きな子にフラれた時、腹いせに自宅にあったAVをドミノのどこかに並べてしまったのだった。そのことをすっかり忘れてしまっていたワタルはついさっき思い出し、親友のタケシを夜中に呼び出して探し出すことにしたのだった。
「別に放ってりゃ気が付かねえんじゃねえの?」タケシがドミノを慎重にまたぎながらいった。「倒れたら問題ないだろ」
「いや、ダメなんだ。裏に接着剤をつけてある。絶対そこでドミノは止まる」
「なんで、そんなことしたんだよ……」
「おれもわかんねえ。どうかしてたんだ」
「ホントお前はバカで、どうしようもないスケベだな」
「うるさい。さっさと探せ」
二人はドミノを倒さないようにゆっくりと探し始めた。足の置き場がほとんどないため、スローモーション並みの動きだ。
「あっ、ここ苦労したなあ」タケシが片足を上げた変なポーズでいった。「この階段のところ」
「そう」
「リュウヘイがさあ、階段から落ちやがって入院したんだよ」
「そういうこともあったな」
「んで、ドミノ部で千羽鶴折って、お前だけ鶴じゃなくオッパイの折り紙折って紛れ込ませてたよな」
「リュウヘイはナースにムラムラして何をするかわかんねえから、性欲解消に、って思ってな」
「オッパイの折り紙で性欲解消にはならねえっつーの。っていうかお前だろ。ナースにムラムラしてるのは。『やり過ぎ巨乳ナース』さんよ」
「もういいから、さっさと探せよ」
二人は他愛もない話をしつつ、巨大ドミノの真ん中に進んでいった。
真ん中には少しだけスペースがある。二人はそこで合流した。
「下にはなさそうだな」タケシは呆れたようにいった。「とすれば、上だけだが」
「上は厳しいぞ。足場がドミノ分の幅しかないから、上がるのは無理だ」
ワタルが上を見あげたそのときだった。「あっ! あった!」
「えっどこどこ?」
「ほら、あそこ」ワタルは天井の近くを指さした。
「うわっ、『ドミノの塔』のてっぺんじゃねえか!」タケシは叫んだ。「なんでよりにもよって一番高いところに……」
「だから当時のおれはどうかしてたんだって」
「ホントやることがクレイジーだよ、お前は」タケシは爆笑しながらいった。「どうやって取るんだよ。あんなの」
「うーん」ワタルは腕を組み、しばし考えたあと「天井にバスケットゴールが折りたたんであるだろ。それをつたっていけばいい」
「なるほどね……」
「…………」
「なんだよ」
「タケシ、お前が行ってくれ」
「なんでおれが!」
「お前の方が身軽だ」
「『やり過ぎ巨乳ナース』を置いたのはワタルだろ! お前が行けよ」
「ここは責任うんぬん言う場面じゃない。ちょっとでも成功率を上げるための行動を取るべきだ」
「なにをここだけ論理的になってんだよ。普段ナースのことしか考えてねえくせに」
「タケシ頼む。一生のお願い」
「ウゼエ。お前の一生のお願い聞くの五回目くらいだぜ」タケシはいった。「仕方ねえなあ、もう」
「すまん」ワタルは感情のこもっていない謝罪をした。「じゃあおれが操作してバスケットゴールを下げるから、いいところで二階から勢いよく飛び乗ってくれ」
「お前、クールにかなりの無茶を要求してるぞ」タケシはいった。「ジャッキー・チェンか、おれは」
後編につづく
働きたくないんです。