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ミタワ王国とワホイト王国

むかしむかし、ミタワという国がありました。その国の王は独裁者で、何ごとも自分の思い通りにならないと気が済まない性格でした。しかし、王はとても明るく、いつもポジティブでした。

 食糧難になっても「なんとかなるさ!」、大規模な自然災害で沢山の国民が死んでも「前を向いて行こう!」と、常に明るい言葉で国民を励ましてきました。

しかし、明るい言葉とは裏腹に厳しい決めごともありました。王のポジティブな言葉が書かれた紙を一家に一枚、皆が見えるところに貼ることが義務付けられており、貼らない家は取り壊されるのです。その紙には「苦労をすると報われる」「理不尽は成長のもと」「労働=人生」「無理というのはウソつきの言葉」などという言葉が書かれてありました。

 また一か月に一回、王が本を出し、国民はそれを自腹で買い、感想を提出しなければなりません。読まないと処刑。感想提出が遅れた人は一か月の飲まず食わずの強制労働です。

 王の言うことは絶対であり、何人もそれに逆らってはいけません。逆らう人は処刑されます。愚痴をこぼすだけで死刑です。

 そんな王の賢明な取り組みによって、ネガティブな人や、逆らう人はすべて処刑されていき、王を慕う人だけが生き残っていきました。

 「一生懸命働こう!」「長時間働くことは自分の成長につながる!」「社会や国民みんなのために働こう!」ポジティブな標語に突き動かされ、国民は休むことも遊ぶこともせず、一生懸命働きました。

 ある日、隣にあるワホイト王国が戦争をしかけてきました。この国とは長年、対立していました。

 「よし!国民のみんな!今こそ日ごろから鍛えてきた人間力を試すチャンスだ!」ミタワ王はいつものポジティブな言葉で国民を叱咤激励し、次々と戦地に送っていきました。

 国民もポジティブな考えで頭が一杯ですから、なにがあっても「大丈夫さ」「成長するチャンス」と言って突撃していきます。そこがたとえ敵に囲まれていてもです。

 食料がロクにないところへも突撃しました。もちろん食料がないので、突撃しても戦うことなく、餓死していくだけです。飢餓で何万人の国民が死にました。

 戦争はワホイト王国が圧倒的有利のまま、進んでいきました。ミタワ王国が連戦連敗なのには大きな理由が3つあります。

 1つ目はミタワ王はポジティブ過ぎて、何の計画も立てぬまま「頑張ればなんとかなる」という根性論を掲げ、無意味な突撃を繰り返したことです。一方、ワホイト王は非常にネガティブで、何事も綿密な計画を立てて、戦争をしてきました。

2つ目は日ごろから休まず働いているミタワ国民は疲れが溜まっており、本来の力が発揮できなかったことです。対して、ワホイト王は心配性で常に国民の革命におびえていましたから、国民は自由な王のもと、比較的好きに暮らしていました。国民は当然、疲れなど溜まっておらず、自分の力を思う存分発揮することができました。

 3つ目は武器の違いです。ミタワ王は国民の反乱を恐れ、武器の製造を禁止していました。対して、ワホイト国は王の締め付けがなかったため、国民は自由に開発をすることができました。ワホイト王は他国からの侵略を常におびえていましたから、すごい武器もどんどん開発していきました。

 その3つの要因が重なり、ミタワ国は連戦連敗。ポジティブな言葉の書かれた紙はワホイト国により、すべて破られ、ミタワ王の本も引き裂かれ、すべて燃やされました。

 ミタワ王はポジティブなので、「諦めなければ道は開ける」と中々降伏せず、死者はドンドン増えていきます。それを重く見たワホイト国はミタワ王を捕まえ、少し脅しました。するとミタワ王はあっさり降伏しました。

 戦争に負けて、ワホイト国に占領されましたが、ミタワ国民は幸せそうです。しんどい時は「しんどい」と言うことができ、愚痴を言いたいときは愚痴を言えたからです。働く時間は約半分になり、自由な時間も増えました。

 ミタワ王はまだ地下に投獄されたままです。夜な夜な「金か? 金ならいくらでもあるぞ? 金で解決しよう」という声が聞こえてくるそうです。

おしまい

#小説 #ショートショート #ブラック企業 #戦争

働きたくないんです。