きたかた院長

地域医療に貢献する肩専門の整形外科開業医。 大学関連病院勤務医、大学院(医学博士)、米…

きたかた院長

地域医療に貢献する肩専門の整形外科開業医。 大学関連病院勤務医、大学院(医学博士)、米国研究留学、カナダ臨床留学、欧州短期留学、大学医局教官、フリーランス勤務医を経て開業医に。様々なキャリア経験から、莫大な高齢者医療費の背景にある問題を語り、現役世代に医療の現状を知って欲しい。

最近の記事

日本のトンデモ『過保護』医療④〜ヒアルロン酸〜その2

前回につづき、みんな大好きヒアルロン酸の関節注射について、イチ整形外科医がさらに突っ込んで語ります。 ヒアルロン酸を膝に注射するといくらかかる?薬価は先発品で700円台後半、関節腔内注射の手技料が800円の合計1,500円強。 両膝打ったらさらに倍、3,000円強。 患者さんからすると、 3割負担でも900円、後期高齢者で1割負担の方はなんと300円! コーヒー飲むより安いんです。※ 他の診療行為もあることが多いので、敢えて初診・再診料は除外して注射に関わる部分のみを示

    • 日本のトンデモ『過保護』医療④〜ヒアルロン酸〜その1

      みんな大好きヒアルロン酸の関節注射について、イチ整形外科医がバカ正直に語ります。 ヒアルロン酸関節注射は日本の文化膝の痛みで整形外科医院を受診し、医師から「しばらくヒアルロン酸注射を打ちましょう」と言われて、際限なく膝に注射を打ち続けている患者さん、 世の中にかなりたくさんいると思います。 場合によっては、五十肩に対して治るまでヒアルロン酸注射を肩に打ち続けている方も。 これらは、ほぼ日本独自の文化です。 以前にも書きましたが、米国で医学基礎研究をしたり自分や家族が手

      • 日本のトンデモ『過保護』医療③〜シップ〜

        シップについて、イチ整形外科医がバカ正直に語ります。 シップは年間どれくらい処方される? 整形外科医として20年以上働いていますが、処方したシップは数え切れません。勤め先によっては、毎月の診察で自動的に70枚(今は月に63枚が上限)の湿布が処方されている患者さんが何十人もいることもありました。 1日100枚処方したとして、月に2千枚、年間2.4万枚、20年強で50万枚。 これは控えに見積もってですが、かなりの枚数です。 で、製品により異なりますが、薬価を30円/枚とする

        • 日本のトンデモ『過保護』医療②〜整形外科受診と手術までの待機期間〜

          日本の医療とカナダの医療のギャップに驚く。もう10年近く前にはなりますが、カナダのトロントとカルガリーで合計3年間、肩と膝と股関節の手術修行をしていた頃の実体験を元にした話です。 前回の記事で「日本の医療における常識は、欧米諸国からすればこの上なく非常識。」という事実に気づかされる一例を挙げました。 それは、術後の入院期間。 いわゆる「社会的入院」とも言えるような、医学的には不要な状況でもただ単に家で暮らすのが大変だから術後に長期間入院し続けられてしまう、ということ。 こ

        日本のトンデモ『過保護』医療④〜ヒアルロン酸〜その2

          日本のトンデモ『過保護』医療①〜肩の手術後の入院期間〜

          日本の医療における常識は、欧米の非常識!日本で医師としてある程度経験を積んだのちに、海外の医療現場を経験すると驚くことがたくさんあります。 日本以外で私が医療に関わった国は、カナダ、米国、欧州諸国ですが、中でもカナダでは実際に医師として外来診療や手術を行ったり、自分自身が患者として受診して手術を受けたりしました。(憶測でなくて実体験からの一次情報です。) そんな中で、日本との違いに驚かされる場面が幾度となくあったわけですが、その驚きを現地の同僚や指導医や患者さんや友人に伝

          日本のトンデモ『過保護』医療①〜肩の手術後の入院期間〜

          開業表明した医師は格好のカモ。みんなが寄って来るんです。

          医師が開業をすると言うと、お祝いや賛辞のお言葉をあちこちで頂きますが、心からそんなことを思っている人はそんなにいないし、そういう次元では語れない問題が背景にある、というハナシです。 開業を匂わせると、人がいっぱい寄って来ます。開業する前は、みんなだいたい勤務医です。 開業を考え始めると、いきなり開業宣言などせずにコソコソと動き出すわけですが、まずはやはり仕事で繋がりのある身近なところから相談を始めます。同じ職場の勤務医に相談しても仕方ない(反対されるに決まってる)ので、すで

          開業表明した医師は格好のカモ。みんなが寄って来るんです。

          整形外科の診療を分解❸「お金の動き」

          以前の記事で、整形外科で一般的に行なわれている診療について、患者さんの認識と医師側の認識をそれぞれ紹介しました。 今回は、そんな整形外科診療の背景にある「お金の動き」をざっくり分解してみたいと思います。 そんなこと興味ない、と思われるかも知れませんが、昨今話題になりがちな超高齢化社会での医療費高騰問題を語る上で、このあたりの事情を知らない限りは議論にならない、というくらい重要なハナシだと思います。 院外処方の医院で患者さんに湿布が処方される場合のお金の動きについて(ここ

          整形外科の診療を分解❸「お金の動き」

          高額注射を提案する時にモヤる理由💉

          骨粗鬆症って知っていますよね。 最近は、以前と比べてかなり認知度が高まってきている印象を受けますが、実際に診療をしていると、定期的に骨密度検査をしている人はごく一部です。でも、検査を提案するとすんなり受け入れてくれる方が多いので、世の中に周知されてきている効果かと思っています。 ここで骨粗鬆症とその治療について語ってしまうと本題に辿り着く前に終わってしまうので、敢えて割愛させてもらいます。(もし詳しく知りたい方は、情報はいくらでも出てくるはずなので自分で検索して下さいね。

          高額注射を提案する時にモヤる理由💉

          診療報酬引下げが、なぜ愚策なのか②〜日本での医療に対する認識の異常さ〜

          「医療費がかかり過ぎているから診療報酬を引き下げよう!」 というのは何の解決にもならないどころか、ただでさえ正しく理解されていない医療の価値をさらに下げることになるんです。 というハナシの続きです。 日本以外の国での医療に関する常識を。 私は医師として、日本以外では欧米での局所的な経験しかないので、南米やアフリカやロシアや中国や、多くの発展途上国での医療事情は知りませんが、あくまでひとつのモデルとしてカナダについて。 カナダの医療システムは英国に倣っています。 他に、欧州

          診療報酬引下げが、なぜ愚策なのか②〜日本での医療に対する認識の異常さ〜

          診療報酬引下げが、なぜ愚策なのか①〜医療は有限で貴重なもの〜

          少子高齢化に伴って国民医療費が増え続けていることが大問題だっていう状況で、それを改善するために診療報酬を下げるっていうことが、いかにダメかというハナシです。 Limited Medical Resources 医療資源は、限られています。 医師をはじめ、いわゆるコメディカルと呼ばれる看護師、放射線技師、理学・作業療法士、薬剤師、保健師、医療事務ほか、すべての医療従事者(ヒト)、それから医療機器、薬剤、医療材料など(モノ)もそうですし、何よりその財源である保険料と税金(カネ

          診療報酬引下げが、なぜ愚策なのか①〜医療は有限で貴重なもの〜

          医院スタッフの賃上げが、なぜ困難か?

          世の中、明らかに物価は上がってきているのに、それに伴って賃金が上がらず景気低迷したままで、スタグフレーションの危機。 賃上げの機運があるのは、雇用主(クリニック院長)としてイヤでも耳に入ってきます。 雇用主の自分も、さまざまな機会で値上げを肌で感じている以上、雇用者(うちのスタッフ)たちも当然それを感じているだろうし、もちろん収入も知っているので、より苦しいことは容易に想像できます。 だからできるだけ世の流れに沿って賃金を上げてあげたい。 キレイゴトではなく、本当にそう思

          医院スタッフの賃上げが、なぜ困難か?

          医者の収入源は自分が払った税金と保険料?

          若干過激なタイトルを付けてしまいました。 日本の保険診療における「さまざまな立場の利権が複雑に絡みあったとってもイビツなバランス」を解き明かして問題提起をしていきたい、と意気込んでいる以上、ヒトのことを言う前にまず自らが置かれた立場をしっかり説明しないと、と思いました。 忖度せずにアレコレ言うなら、まず自戒も込めて自分のことから。 医者は高収入 医者は高収入と言われます。否定はしません。 (あくまでこれは日本国内の話であり、欧米諸国と比べれば最低レベルなんですが、ここで

          医者の収入源は自分が払った税金と保険料?

          患者さんの言葉に、高齢者医療を考えさせられる。

          整形外科の患者さんの多くは高齢者。ご存知かとは思いますが、整形外科の患者さんは高齢者が中心です。 こちら、当院の患者さん👇 おおよそですが、 40歳以下が1割。40〜60歳が4割。60歳以上が5割。(男:女=3:5) ちなみに、70歳以上は3割。 要するに、診察でお話をする患者さんの多くが、おじ(ぃ)さん、おば(ぁ)さん、なワケです。 高齢者の定義は様々ですが、ここでは後期高齢者医療制度が原則対象となる75歳以上(窓口負担1割か2割)の患者さんをイメージして話します。

          患者さんの言葉に、高齢者医療を考えさせられる。

          整形外科の診療を分解②「医師側の誤認識」

          前回の記事で、整形外科で一般的に行なわれている診療について、できるだけ分かりやすく分解してみました。その上で、患者さんの認識とのギャップを、あくまで総論的に(具体的な例を挙げずに)紹介しました。 今回は、医師側の認識について語ります。もちろん、この「整形外科で一般的に行われている診療」に対する認識は医師の間でも共通であるべきだし、多くの方は当然そうだと思っているのではないかと思います。でも現実的には、残念ながらそうでもありません。 あまり角が立たない範囲で、前回の分類に従

          整形外科の診療を分解②「医師側の誤認識」

          整形外科の診療を分解①「患者さんの認識とのギャップ」

          こんにちは。きたかた院長です🧑‍⚕️ このnoteでは、整形外科医として、整形外科領域の病態や治療に関する情報提供を最低限しつつも、その診療に見え隠れする裏事情をぶっちゃけつつ、(各方面からのお叱りを覚悟の上で)日本の保険医療制度にまつわる諸問題を提起していこうと思っています。 読んで欲しいのは、患者さんだけでも医療従事者だけでもなく、日本で医療サービスに関わることのあるすべての人たちです。 現状のままでは、比較的近い将来に保険医療制度自体が破綻してしまうことは明らかで

          整形外科の診療を分解①「患者さんの認識とのギャップ」

          はじめまして。肩の医者が「いびつな皆保険制度」を語ります。

          初めてのnote記事です👏 地域医療に貢献すべく地方都市で整形外科医院で院長を務める、きたかた院長と申します🧑‍⚕️ 整形外科医として20数年の経験をもとに、肩を中心に整形外科全般についての「医師から見た常識」と、日本の「複雑で過保護な皆保険制度ゆえの諸問題」を交えて、各方面(患者、医療者、医療系企業、行政、各種保険機関、etc.)にできるだけ忖度せず、バカ正直に語ろうと思います🤫 プロフィールにあるように、国内の様々な医療機関(大学病院、公立病院、民間病院・企業立病院

          はじめまして。肩の医者が「いびつな皆保険制度」を語ります。