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患者さんの言葉に、高齢者医療を考えさせられる。

整形外科の患者さんの多くは高齢者。

ご存知かとは思いますが、整形外科の患者さんは高齢者が中心です。

こちら、当院の患者さん👇

過去1年間の受診者の年齢と性別分布

おおよそですが、
40歳以下が1割。40〜60歳が4割。60歳以上5割。(男:女=3:5)
ちなみに、70歳以上3割

要するに、診察でお話をする患者さんの多くが、おじ(ぃ)さん、おば(ぁ)さん、なワケです。

高齢者の定義は様々ですが、ここでは後期高齢者医療制度が原則対象となる75歳以上(窓口負担1割か2割)の患者さんをイメージして話します。

これは完全に医師の立場で感じる主観なのですが、
高齢患者さんのうち、ご自身が享受されている医療が提供されるために、「どれだけの人や医療資源やお金が、どんな仕組みの元に動いているのか」など、知る由もない(というより関心がない)人がほとんどです。
悪口ではありません。(もちろん褒めてなどいませんが。)
ほとんどの人は、そもそも悪意も何もなく「ただそこにあるもの」として、利用しているだけなんです。敷居も低いし、なにより、安いですし。

そんな患者さんを、できるだけ親身になって(ワタシ自身はそのつもりで)診療している中で、グサグサと心に刺さった、2人の患者さん(80代)の言葉を紹介します。(具体的な台詞は覚えていないですし、個人が特定されるといけないので、意訳しています。)

患者さん①

(令和4年10月の後期高齢者医療制度の変更で窓口負担割合が増えて)
患者「なんで私が2割も負担しないといけないの!」
院長『そうですか。でも残り8割は誰かが払っているんですよ…。』
患者「何言ってんの!あんたは儲けてるんだから10割払えばいいのよ!」

⇨ 思わず「絶句」しました。

患者さん②

患者「リハビリで教わったことをちゃんとやったら良くなったから、あとは自分で様子みるね。私みたいな高齢者が無駄に医療費使ったらいけないから、とっとと帰るわ。だいたいね、高齢者のために若者たちの負担増やすなんて間違ってるのよ。」

⇨ 思わず「ハグ」しました。 

コレ、ホントのハナシ。

解説は不要だと思いますし、私的な意見は敢えて控えますが、現実です。
どの世代でも同じことではありますが、いろんな人がいます。

「医療の給付」と「保険料負担」のバランス問題。

厚労省の報告では、令和3年度の国民医療費は約45兆円
うち、70歳以上5割を占めます。65歳以上だと6割

少子高齢化。
令和3年時点で、
高齢者(65歳以上)1人を支える生産年齢人口(15-64歳)たった2.1人

これって要するに、
医療費の6割を使う高齢者人口に対して、
医療費の4割を使う現役世代人口約2倍であり
個人単位で言えば、
現役世代自分の3倍の医療費を使う高齢者を支えているわけです。
さらに保険料負担の差も上乗せされます。

保険診療において、
「医療の給付」は上述のように高齢者に対して多いのですが、
「保険料負担」は高齢者の代わりに現役世代が主に担います。
令和2年度の厚労省のデータでは、
「医療の給付」ー「保険料負担」👇👇👇
だいたい1人当たり、
30〜50歳では、20万円マイナス
80歳以降では、80〜100万円プラス
年間データなので、1年で差し引き100-120万円の差がありますし、そもそも現役世代は大幅赤字です。負担した金額に見合ったサービスは受けられません。(でも、保険料負担額は所得に応じるので、実際に大幅赤字なのは現役世代の中でも高額所得者なわけですが。)

この構図、現役世代が高齢者を支えているということに誰も異論は唱えられないと思います。私もまだ現役世代なので、この理不尽さを正直言って到底受け入れられません。
ただ、そんな想いを抱いたまま30年経過した未来にこの状況が続いていたら、自分も高齢者としてその利権をひたすら享受することで取り戻そうとしてしまうかも知れません…。
「ワシは若い頃に保険料をいっぱい払わされたんじゃ!必要な医療を受けて何が悪い!若いやつは10割払えばいいんだ!」と…。
「若い世代に迷惑かけたくないから、ワシは無駄に医療を受けないで、とっとと逝くんじゃ。」などと言えるんだろうか…。自信ないです。

ま、でも、実際のところそんな心配は杞憂かと。
なぜなら少子高齢化はさらに進んで、現役世代が高齢者を支えること自体が不可能になるから。
30年後には高齢者1人を支える現役世代は1.4人くらいまで減っています。「もう無理だから、自己責任で同世代間で支え合いましょうね!」ということになっているかも知れません。

医療を崩壊させないために。

患者さんの言葉から、こんなことに想いを巡らせながら診療をする日々です。

患者さんは弱者です。
弱者に手を差し伸べるのが医療者の務めなんです。
それを忘れたら医療も終わりです。
でも、
「医療の価値に対する軽視」「少子高齢化に伴う保険診療制度の破綻」によって、医療の構図が狂い、医療者が疲弊していきます。

「診療報酬引き下げ」「現役世代の保険料負担増加」が、解決どころかむしろ状況を悪化させる愚策であることは、火を見るよりも明らかです。

医療を崩壊させないため、子供らの世代に辛い未来が待っていないようにするため、声を上げていかないと、と思う今日この頃なのです。

医療現場にいるからこそ分かる「医療界のいびつな構造」や「場当たり的な政策」に対して、誰にも忖度することなく物を申しつつ、保険診療の改善の糸口を探っていきたいと思っています。

ではまた。


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