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整形外科の診療を分解❸「お金の動き」

以前の記事で、整形外科で一般的に行なわれている診療について、患者さんの認識医師側の認識をそれぞれ紹介しました。

今回は、そんな整形外科診療の背景にある「お金の動き」をざっくり分解してみたいと思います。

そんなこと興味ない、と思われるかも知れませんが、昨今話題になりがちな超高齢化社会での医療費高騰問題を語る上で、このあたりの事情を知らない限りは議論にならない、というくらい重要なハナシだと思います。

院外処方の医院で患者さんに湿布が処方される場合のお金の動きについて(ここでは問題提起まではせず)できるだけ客観的に説明します。
世の中がなぜ「医療費が増え続けること自体」にメスを入れず、それを賄う「保険料や税金負担を増やして対応しようとする」という不自然な構図になってしまっているか?その背景を少し知って頂けたら嬉しいです。

1.まず湿布について

ご存知かとは思いますが、消炎鎮痛剤(いわゆる痛み止め)を皮膚から吸収させるための貼付剤(貼り薬)です。

=>以前の記事でも書いたことを反復しますが、湿布を貼ることで一時的に痛みを和らげる効果はあるかも知れませんが、長期的効果や病態進行予防効果のエビデンスはありません。冷湿布も温湿布も同じです。
以下に忖度のない客観的な事実を羅列します。

  • 患者さんの多くは湿布が大好きです(特に高齢者)

  • 患者さんの多くは「湿布を貼るのが適切な治療」と思っています

  • 患者さんの多くは「治療上で不必要」と伝えても処方を希望されます

  • 整形外科治療において湿布は無くても全く困りませんが、処方しないと押し問答で診療が終わらないので処方します

  • 2023年12月現在、湿布の処方枚数は1処方63枚までに制限されています※ 医学的根拠ではありません(そもそも処方自体に医学的根拠無し)

  • 湿布は薬局にも売っています

  • 欧米諸国(🇺🇸🇨🇦🇬🇧🇳🇱🇨🇭🇪🇸🇮🇹🇫🇷🇩🇪🇬🇷)の医療現場で湿布を見たことはありません(薬局でも見たことはありません)

  • 湿布に医療保険が適応されるのはかなり特殊です(カナダでは内服の消炎鎮痛剤や解熱鎮痛剤ですら保険適応外の市販薬でした)

キリがないのでここまでにして次に移ります。

2.湿布を処方する医院

処方箋料680円が医院の売上になります。
※ 処方箋料は湿布の枚数に拘らず同じですが63枚を超えて処方すると0円にされます。
※ 他の薬剤も同時に処方している方が多く、その場合も処方箋料680円で、湿布の存在は売上に影響しません。
医院の売上のうち湿布処方による割合はごくわずかで、平たく言えば、湿布を処方しても別に儲かりません。
でも、湿布信者の患者さんに対して湿布の処方を断ると大変です。

3.湿布を処方された患者さん

医院の会計で(診察料他に加えて)処方箋料のうち窓口負担割合(1〜3割)分を支払います。その後、薬局に処方箋を提出して湿布を受け取りますが、その際に薬剤料(薬代)、調剤技術料、薬剤管理料のうち窓口負担割合(1〜3割)分を支払います。

4.調剤薬局の湿布は誰が納入する?

卸売販売業者が湿布を薬局へ納入します。
(薬局が納入価格分を卸売販売業者へ支払います。)

5.卸売販売業者はどこから湿布を仕入れる?

製造販売業者(製薬会社)から湿布を仕入れます。
(卸売販売業者が仕入れ価格分を製造販売業者へ支払います。)

6.患者さんの窓口負担分以外はどこから払われる?

保険の種類や患者さんの立場による
・国民健康保険
・社会保険
・後期高齢者医療保険
・自賠責、労災保険ほか
・公費(税金)
※ 国民医療費のおおよその財源割合:保険料5割、公費4割、患者負担1割

以上、
具体的な金額は、医療機関・患者さんの状況や湿布の種類・処方枚数によっても変わるので提示できませんが、
湿布を貼るという(医学的根拠のない)医療行為(?)にまつわるお金の動きを、ざっくりと示してみました。

要するに、

湿布を処方すると、
・患者さんには、市販薬より安く湿布が手に入り
・医療機関には、処方箋料が入り
・調剤薬局には、薬剤料や管理料などが入り
・卸売販売業者には、中間マージンが入り
・製薬会社には、湿布の売上が入る 
というワケです。

ここでの登場人物は誰も損をしません。
損をしない状況でメスを入れたがるヒトなどいません。

でも、誰も損しない(全員が得する)なんて、おかしくないですか?

繰り返しますが、患者負担分以外の医療費(国民医療費全体の約9割)は、
保険料と税金から来ています。

それを主に納めているのは現役世代です。

そんな中でもいわゆる高所得層がかなりの割合を支払っています。

そして、高所得層と言えば、その多くは経営者、事業主、雇用主や士業の人であり、上記の登場人物だったりします。

だから何とまでは言いませんが、なんだかあまり健全に見えません。
医療なのに。


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