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整形外科の診療を分解①「患者さんの認識とのギャップ」

こんにちは。きたかた院長です🧑‍⚕️

このnoteでは、整形外科医として、整形外科領域の病態や治療に関する情報提供を最低限しつつも、その診療に見え隠れする裏事情をぶっちゃけつつ、(各方面からのお叱りを覚悟の上で)日本の保険医療制度にまつわる諸問題を提起していこうと思っています。

読んで欲しいのは、患者さんだけでも医療従事者だけでもなく、日本で医療サービスに関わることのあるすべての人たちです。

現状のままでは、比較的近い将来に保険医療制度自体が破綻してしまうことは明らかです。少子化・高齢化が止まらない中で、高齢者の自己負担は増やさざるを得ないですし、それを支える若者の保険料負担も当然増える一方で、しかも、その高騰する医療費を削減するために診療報酬を下げようとする小手先の愚策により医療者の労働環境は悪化して疲弊していきます。

いったい医療現場でどんなことが起こっているのか、どうやって医療が浪費・利用されているのか、そして誰が割を食っているのか、そもそも改善する気がある人がいるのか、などを許されそうな範囲で正直に語ります。

というわけで、

手始めに、やっぱり『整形外科』が何かを語らないと先に進めないと思うので、簡単に解説させて頂きます。

『整形外科』が何をする診療科かというと、
難しく言えば、運動器の疾患や外傷を治療する科です。
簡単に言えば、膝とか腰とか首とか肩とかの骨や関節やスジや筋肉から来る痛みやしびれや動かしにくさの治療をする科です。

より分かりやすくするために、敢えて教科書的な手順は完全に無視して自分なりの切り口で分解します。(やや一般的ではない解釈が含まれているかも知れませんが、あくまで「ひとつの捉え方」とご理解下さい。)

1.対症治療

  • 飲み薬(痛み止め、ビタミン剤、筋緊張改善剤?など)

  • 湿布、ぬり薬

  • 物理療法(電気、温熱、マッサージとか)

  • トリガーポイント注射(痛いところに局所麻酔を打つだけ)

  • ヒアルロン酸関節注射(怒られそうですが、敢えてここに入れます)

    =>要は「今の痛みを少し和らげる」という治療で、効果の程度も持続時間も限定的です。「治す」のではなく「一時しのぎ」「気休め」という表現が適切かも知れません。(異論あるとは思いますが、私自身の理解はそうであり、患者さんにもそう説明しています。というか、私は診療の場でそもそもこれらの対症療法を勧めていません。)


2.抗炎症治療

  • ステロイド注射(関節注射、神経ブロック、腱・腱鞘注射など)・内服

    =>対症療法とみなされがちですが、ステロイドの抗炎症作用は強いため「一時しのぎ」や「気休め」でなく、適切な部位に注射したり適切なタイミングで経口投与することで、ある程度は効果が持続しますし病態によっては治癒も期待できます。ただ、機能的問題(コンディション不良)や器質的問題(高度の神経圧迫や関節変形)や過剰な負荷が背景にあれば当然効果は限定的になりますし、関節リウマチ等の原疾患がある場合には投与中止すれば症状がぶり返します。また、注射反復は正常組織も脆弱化させる可能性があり好ましくないとされ、やみくもな長期内服も様々な副作用リスクを上げます。(1の対症治療も「抗炎症」と呼ばれたりしますが、ステロイドと比べれば抗炎症作用など無いに等しいレベルです。)


3.機能的治療(運動療法)

  • 理学療法・作業療法(いわゆる「リハビリ」)

    =>整形外科的な疾患の症状の主因として最も多いのが、ずばり「コンディション不良」です。要は、関節可動域や筋肉の柔軟性が低下したり、筋力が弱くなったり共同運動が上手くできなくなることで、「無意識にできていたはずの本来の動きができなくなっている状態」が、結果として患部へ過剰な負荷をもたらしてしまい、痛みや神経症状(しびれや動かしづらさ)が出てしまいます。療法士が適切なストレッチや筋力訓練を組み合わせて、本来の関節の自然な動きを取り戻すように誘導し、それにより患部への過剰な負荷が減ると症状が軽減します。そして何より、適切な自主訓練を患者さんに習慣化してもらうことが、症状改善だけでなく症状再発予防につながりますし、万が一症状がぶり返した時にも自分で対応できるようになります。リハビリは、手術をしない保存療法の中心であるべきですし、手術を行う場合でもその前後でのリハビリが結果を左右します。整形外科治療の中で、最も肝(キモ)になる治療法と考えています。


4.器質的治療(保存的処置、手術療法)

  • 保存的処置(脱臼や骨折の整復・外固定、靭帯損傷の装具療法ほか)
    =>そのままにしておくと痛みや機能障害を残してしまいそうなマズい外傷の時に、より良い状態で治るように処置をするものです。

  • 手術療法(脱臼や骨折の観血的整復・内固定、腱や靭帯断裂の修復・再建術、骨切り術、人工関節置換術、脊柱除圧・固定術、腫瘍摘出術ほか)
    =>「4の保存的処置で治療できる範疇を超えた外傷」や「1−3の保存療法で十分な効果が得られない病態」に対して手術を行います。
    前者は「保存療法では予後不良な状況でのやむを得ない手術(絶対適応)」なのに対し、
    後者は「生活の質を改善するために患者さんが希望したらする手術(相対適応)」
    という点が、とても重要です。


5.予防的治療

  • 骨粗鬆症治療(内服、注射)

    =>脆弱性骨折予防のために行う治療です。骨粗鬆症自体による自覚症状は何もないものの、いざ骨折してしまうと本人・家族が大変な思いをするだけでなく、医療や介護にかかる費用もかさみ社会的損失が非常に大きい、という事実を知っていることがこの上なく重要です。


整形外科では、これらの方法の組み合わせで治療を進めます。
(※ 感染や腫瘍など特殊なケースは敢えて除外しています)
(※※ 再生医療や動脈注射などの自費診療や筋膜リリースなど、十分なエビデンスのない治療方法も敢えて触れていません)

手術の多い大規模な病院では3・4がメインになりますし、規模の小さいクリニックでは1〜5の全般を行います。

整形外科医としてクリニックで診療に携わっている中で、非常に苦労するのが、これらを患者さんになかなか理解してもらえないことです。上記の一つの治療方法に過度な期待を持ったり、過度な抵抗感を抱いてしまったり、という場によく遭遇します。

たとえば、

  • 痛み止めと湿布と注射とマッサージを信じ込む患者さん
    整形外科での治療は1がメインだと信じて(実際にそのような診療を中心に行なっている医院が多いので…)、どれだけ説明しても鎮痛剤定期処方や注射を無心してくる患者さんは後を絶ちません。そのような患者さんは、どれだけリハビリが大切だと伝えてもわかってくれません。

  • ステロイド注射に対する理解が得られにくい患者さん
    ステロイド注射を提案しても「どうせ一時的ですよね?」とか「どれくらいで効果は切れますか?」と聞かれることはとても多いです。逆に、「ステロイド」という言葉自体に過剰な抵抗を示される方もいます。前述の通り、適切に使用すれば強い治療効果を期待できる薬剤ですし、過度に副作用を怖がる必要もありません。

  • 加齢性変化を過剰に捉えて受け入れられない患者さん
    「腱がすり切れている」「軟骨が減って関節が変形している」「神経の通り道が狭くなって圧迫されている」などの説明をすると、「じゃ、この痛み(しびれ)は一生治らないんですね。」と言われます。でも、多くの場合にそれは間違いです。腱が切れていても関節が変形していても神経が圧迫されていても、なんの症状も不都合もなく暮らしている人が世の中にはたくさんいます。画像検査技術の進歩による弊害でもあると思うのですが、画像上で何かしら症状を説明する原因があると、皆んなそこに理由を求めてしまうんですよね。こういった病態のほとんどは変性変化(要は加齢性の変化)によるものなので、症状が出る何年も前から既にそんな状態だったはずなんです。適切なリハビリをしてコンディションが改善すれば症状が良くなって以前のように困らない状態に戻れる可能性が高くても、ご本人がそれを理解してしっかり自主訓練をしてくれなければ、「やっぱり良くならない…」ということになってしまいます。

  • 手術を盲信する患者さん
    上記に関連して、「腱が切れているなら手術しないと治らない」と思い込んでしまう人も多いです。加齢性変化に対する手術は、概して適切なリハビリを行なっても症状が十分改善しない場合に検討するものであり、もし手術を行うにしても手術自体に過度な期待をしてリハビリをおろそかにすると結局良くならない、ということを根気よく説明し続ける必要があります。

  • 骨粗鬆症治療の重要性を理解してくれない患者さん
    食事や運動習慣の改善だけではなんともならないレベルのかなりひどい骨粗鬆症患者さんに、骨折予防治療の重要性を説明しても「注射」というキーワードに過剰に反応して「ちょっと様子をみます」と治療を開始してくれないケースも少なくないです。

気分を害された方がいたらお詫びします。すみません。

でも、実際に私が外来診療で患者さんにする話の中心はほとんどこれらの啓蒙です。根気よく同じ説明を続けています。理解してくれて頑張ってくれる患者さんは良くなります。

そうでない患者さんは…。
なかなか難しいです。

今回は、
整形外科での診療を分解して、総論的にお伝えしてみました。
後半では、患者さんの反応に関する医師としての困難を述べさせてもらいましたが、また別の機会に、それぞれの治療に関わる医療者側の問題点に関しても語る予定です。ただ、こちらに関しては、なかなか無料公開しにくい内容になる可能性が高いです😅

では、最後まで読んで頂いてありがとうございました❗️

きたかた院長

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