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【詩】ウルトラマリン

【詩】ウルトラマリン

君の横顔が好きだ。
少しだけ厚みのある唇。
綺麗な隆鼻。

眉は少し薄め。
彫りは割と深め。
楚々とした雰囲気。

黒目に反射した光が君の瞳に生を宿す。
薄く差した紅がテラテラと艶めかしい。

卵型の美しい顔と真珠の耳飾りが見事に調和している。
空より鮮やかに染め上げられたターバンで全体が一気に引き締まる。

砕かれたラピスラズリは宝石と呼ばれた頃より鮮やかに彼女を煌めかせていた。

【詩】本当の僕、本当の私

【詩】本当の僕、本当の私

僕の無意識は誰かの常識に侵されていて
僕の価値観は誰かの価値観の借り物で
僕の善意は社会の誰も傷付けないようにどこまでも丸くやすられている

私の信念は誰かの経験に立脚し
私の自尊心は誰かの勇気を後ろ盾にしていて
私の精神は社会の誰とも噛み合わないほど歪な形をしている

本当の僕に
本当の私に
会いたいと願うけれど、もうどこにもいないんじゃないかってたまに思う。

【詩】夕焼け

【詩】夕焼け

冬の夕焼けが1番美しいと思う。
オレンジと青、雲の陰に紫。

空気が澄んでいるから?
光が柔らかいから?

冷たい風が頬を刺す。
橋の上は風が強い。

街灯に光が灯る。
足元に影が伸びる。

そっと背中を押してくれる冬の風。
自由落下と逆さ文字。

地面を僕で塗り潰す。
夕日が地球に付いた染みを照らす。

【詩】うつろ

【詩】うつろ

タールが染み出した水たまり。
雨漏りした天井の染み。

滲み出す美しさ。

空虚な私。
表層を撫でる会話。

醜悪な虚しさ。

自分でほったらかして
腐って落ちた感情。

それを拾い上げて真顔で笑っているのが私だから。

【詩】面影

【詩】面影

部屋に干されたシャツ
壁に掛かったパズル
ぬいぐるみのための椅子

全てに君の面影を見る

明け方のカラス
差し込む陽光
コーヒーの匂い

君が好きだと言った朝の一幕

晴れた空には白い月が残って
私には思い出だけが残った

ベランダで飲むコーヒーが苦いのは
きっと君のせいなんでしょ?

【詩】静寂

【詩】静寂

枯れた花に水をやることが好きだ。
人工呼吸器に繋がれた祖母の隣に座って、定期的に響く機械音を聞きながら本を読むことが好きだ。
空が朱に染まる夕方の空気が好きだ。
湖面に波を立てる風が好きだ。

僕を不安にさせる静寂が嫌いだ。

【詩】壁の向こう側

【詩】壁の向こう側

街を歩けば
闇にぶつかり
闇を歩けば
壁にぶつかる
月が隠れて
壁の亀裂が闇に溶ける
完全な闇。
何もかもここから始まると思わないか?

表紙をめくることが物語の始まりならば、眼前の壁を壊すことは何の始まりなのか
遠きベルリンに
今は亡きジョンレノンに
掴むことの出来ぬ夜明けに
私は壁の向こう側を覗き見る

【詩】玉音

【詩】玉音

もう命を捨てる必要は無いと放送が流れる。
一度捨てた命の使い方を俺たちはわからなかった。
なぜ神は俺たちの前から姿を消したのか。

運命なんてものは簡単に転がっているもので
真実はそれよりはるかに遠い。

完全に麻痺した感覚の中で
俺たちの道徳心はさらに歪んでいった。

存在意義を奪われた後の、奇妙な興奮状態のまま時間だけがいたずらに過ぎていった。

時代が変わることを受け入れられない者、
取り残

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