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架空想日記 2日目

 今日は雨の日だった。そして、恋心を抱いた彼と結ばれた日。

 授業終わり、放課後になれば必ず彼は図書室にいる。図書委員であり、司書の先生とも仲が良いから、図書室が放課後の彼の根城なのだ。私もよく図書室を利用していたし委員では無いけれど、司書の先生とも仲が良かった。だから、彼とよく話すようになり、意識するようになった。まぁ彼と初めて会った日の話は今度にしよう。決して恥ずかしいから、ということはない。たぶん。絶対。

 彼は今日は珍しく図書室には行かなかった。教室の端の自分の席で本を読んでいた。彼が呼んでいた本のタイトルは解らなかった。文庫カバーがしてあった。
 私はというと友達と談笑していた。友人は昨日のドラマの松坂桃李くんがかっこいいと熱く語っていた。それに話を合わせつつ、時折視点を彼の方に向けていた。
 教室には、私と友達と彼しかいなかった。友人は彼のことを気にしている様子は無かったし、彼もまたこちらを気にしてはいなかった。

 彼はそんなに目立った容姿をしているわけではない。男の人にしては長くふんわりとした髪型にスクエアのメガネ。真っ黒の髪とは正反対に肌は白く、目つきは少し鋭い。夏が近いのに断固として長袖を着続けている。見た目は少しS気があるのに話すと明るく、よく笑う人だ。彼が友達と話している姿を見ると終始、ふわっとした笑顔で空気を軽くしていた。
 だからこそ、一人でいるときの真剣さと鋭く人を刺すような空気感を身に纏う彼に私は惹かれた。
 
 さっきも少し言ったが、もう夏が近かった。まだ雨は降っていない曇り空だが暑くてじめじめとする教室。放課後の教室にエアコンがあるわけもなし。少しでも涼しくなるように窓を全開にしていた。

 ガタン。という音と共に彼が席を立った。帰ってしまうかと思ったが、ドアとは逆の窓の方に彼は足を進めた。窓のレールに手を置き彼は深く鼻で息を吸い深呼吸をしていた。
 それにつられるように、私と友達は窓際に近寄った。その時、私は確かに感じて何気なしに言葉にした。

「「雨の匂いがする」」

 彼は私を、私は彼を見た。友達が雨の匂いって何と笑っていたが私の頭には入ってこなかった。
「アスファルトが湿った感じの、雨が降る前の匂い。なんかそんな感じの匂いしない?」
逆に彼が説明しだし、友達と彼が話し出した。私はそんなことよりも全く同じ言葉を、感覚を共有できたことが、心の奥にぎゅうっと響いた。

 その後の帰り道、友達は部活の後輩に呼ばれていき、私は彼と二人で帰ることになった。さっきの感覚がまだ抜けず、ふわふわとした気分のまま二人になってしまった。だから、だからだろう。夢心地のまま放課後の教室で彼に対して言ってしまった。
「君が好き」
 彼は驚いた表情をしたが、すぐに照れながらもいつものふわっとした笑顔をして言った。
「これから俺が言おうと思ったのに」

 帰り道で彼から聞いた話だったが、図書室の仕事が今日は無かったから、私と帰ろうと思い教室にいてくれたらしい。約束もしていないから、私が友達と帰ったら適当なタイミングで帰るつもりだったそうだ。

 あぁ、こうして文字に起こしたら恥ずかしすぎて汗が出てきた。明日からどういう顔をして彼に会えば良いのかな。

でも、早く彼に会いたいな。


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