自分を知らずして人生はより良く生きられない。久住薫が語る「ライフコーチ」の本質
「自分はいまでも頑張ってる。だけど、もう一歩成長したい...」、そう悩む人は意外と多い。
そんな、“さらに上を目指したい”という人の突破口を見つける仕事をしている人がいる。
パーソナルデザイナーの、久住薫(くすみ・かおる)さんだ。彼女のもとには、毎月、多くの人から相談が来る。独立、恋愛、夫婦問題、職場の悩み......相談の種類はさまざま。
一体なぜ、これほど広いジャンルの相談が彼女のもとに寄せられるのか。
今回は前後編の2本でお届け。前編では、「パーソナルデザイナー」という肩書きと、彼女が仕事のベースとする「ライフコーチング」とは何かを掘り下げながら、久住薫さん(以下、カオルさん)の人物像に迫った。
「肩書き」は自分でつくる
——ライフコーチとして活動されてきたカオルさんに伺いたいのですが、「ライフコーチ」とは実際どんなお仕事なのでしょう。
カオルさん:わたしが学んだライフコーチワールド(LCW)での「コーチング」の定義は『コーチングとは、人生を真剣に生きたいクライアントの成長を支援する、コーチとクライアントの総合力で織りなすパートナーシップである』となっています。
よくイメージで勘違いされてしまいますが、何か数値目標を掲げて、その数値を達成するためにどう動くかをサポートするみたいなものじゃなく、“そのゴールにふさわしい自分になる”ための成長を支援することを目的としているんです。
「なりたい理想像がある。だけどなれない......」っていうこと、誰しもありますよね。
多くの場合、その理由は内面の基盤が整っていないからなんです。
みんな他人のことはよく見えても、意外と自分のことは知らない。だから、自信がないとか、勇気がないとか、不安に対処できずにいる。
でもコーチングで、“セッション”と呼ばれる「対話」を繰り返していく中で、そういうものに真正面から目を向けて、「自分が自分のことをどう思っているのか?」を知っていくんです。
「あ、自分ってこういう人間なんだ」「これをやるなら、“自分は”こうするのがベストだな!」とか。
そうやって、“その人にとって”の本当の成長を支援する。それも私が具体的なアドバイスをするのではなく、本人が納得のいく気づきが得られるようにアシストをするのがライフコーチなんです。
久住 薫(くすみ・かおる)パーソナルデザイナー
1987年、新潟県生まれ。2007年、大手カーディーラーに新卒入社。営業部に勤務し優秀営業スタッフ賞を3年連続で受賞。2012年より6年間、採用・研修・企画担当に従事。2018年にライフコーチに出会い、ライフコーチ養成スクール「ライフコーチワールド」にて認定資格を取得。2019年5月に独立。“感覚・感性・感動の「感」を大切にする人を増やす”という意味を込めた「kanstyles」を屋号とし、ライフコーチの活動を開始。2020年3月より肩書きを改め、パーソナルデザイナーとして活動する。
私は2019年5月に会社をやめてから1年間、いわゆる「ライフコーチ」として活動してきたんですが、「ライフコーチ」には「クライアントに提案はするが、アドバイスはしない」とか「セッションはクライアントの時間だからコーチの話はしない」のような、ちゃんとした定義があるんです。
それは相手の可能性を信じているからこ生まれた形ではあるんですが、私が実際にやりたい活動スタイルとは違ったんですよね。
だから今年(2020年)の3月末からは、新たに意味を込めて「パーソナルデザイナー」と名乗ることにしたんです。
——やっていることはライフコーチに近くても、その定義に実際のスタイルが合わなかったわけですね。新たに肩書きとされている、「パーソナルデザイナー」とはどんなお仕事なのでしょう。
カオルさん:文字通りに言うと、「パーソナル=個人」を「デザイン=意匠・設計」する人ですよね。これだとわかりにくいですが、“対話を通して気づきを見出す”意味で名乗っています。「パーソナルデザイナー」は自分でつくった肩書きなんです。
「指導する/される」のような上下関係ではなく、あくまで相談者の方と対等な目線になれるので、私はこのスタイルがすごく好きです。
——なるほど。いずれにしても、何か数値的な目標達成のトレーナー的な役割ではなくて、本人の「内面」と向き合っていくんですね。
カオルさん:そうですね。人には考え方や感情の「癖」があるんですよね。だけど自分では気づけない。
たとえば、同じできごとが起きた時に、何も感じない人がいる一方で、すごく不安になる人もいますよね。どんな時に不安を感じて、どんな時に嬉しいのかは人それぞれ違います。
でも、どんなポイントでどう反応するのかを知っておけば、内面の変化に対応できる。これが生きていく上でとても役に立つんです。
——本当にいざという時って自分を客観的に見れないので、特性を自覚しておくことってたしかに大事なのかもしれませんね...。
カオルさん:そうですね。とはいえ、べつにしなくても生きていけることだと思いませんか? 実際その通りで、自分のことを知らなくたって、生きていくだけならできます。
でも、「自分を知る」ということは何か目の前で選択に迫られた時に、冷静に選べる軸を持つことになるので、人生の安心感も確実に増すんです。
つまり、「より良い人生を歩みたい」人たちにとっては、“あえて”取り組む必要があることなんですよね。本来、誰にとっても必要だと言い切っていいくらいだと思っています。
「私を活かせるのはこれだ」
——コーチングについてもう少し知りたいのですが、カオルさんご自身がコーチングを受けたことは?
カオルさん:もちろんあります。最初は2018年10月から2019年3月までの6ヶ月間。今でも月2回受けてます。初めの半年間の時は会社員だったので、「独立したい」というテーマでコーチングを受け始めました。
そもそも私は、20歳くらいの時から「独立する」って言ってたんですけど、実際に動き始めたのは26歳の時で、そこから資格をいろいろと取りました。エステティシャン、食育インストラクター、薬膳師、アロマセラピーとか。
実際に独立して仕事をしている人ともいっぱい話したんですけど、結局は話しているだけじゃ何も変わらなかったんですよね。まったく動けなかった。当時は、「これがしたい」っていうのが何もなかったんです。
資格はいっぱい取ったけど、「なんか違うな、なんかピンとこないな」と思うばかり。そんなときに、テレビでライフコーチを見つけました。
昔から私は会社でたくさんの人たちから相談を受けていた人間だったので、「私を一番活かせるのこれじゃん!」って、ピンときたんですよね。
そこからは早かった。「ライフコーチで独立することに決めた! よし、やろう!」みたいな感じで、本当にノープランで上司に言いに行きました。
そうしたら「勉強してるのもわかるけど、そんなに甘くねえよ」みたいな感じで、ねじ伏せられちゃって。そこからコーチングを受け始めたんです。
すべてのできごとは心の中の表れ
カオルさん:コーチングのセッションを受け始めた2018年10月から2ヶ月後のことです。「来年の3月に辞めます」と上司に初めて伝えてみました。
そうしたらものすごく怒られて(笑)。「考え直せ!」って言われただけで、まったく取り合ってもらえなかったんですよ。めちゃめちゃ引き止められて辛かったですね。
本当に必死に説明するんだけど全然伝わらない。でも、ゆくゆくわかってきました。
相手に伝わらないのは、自分の心の底から腹落ちしていないからなんです。
私はずっと「相手が理解してくれない」「わかってくれない」と思っていたんですけど、そうじゃない。心からの覚悟も納得もできていなかったために相手に伝わる話ができない「自分」であることが理由だったんです。
全部自分の中に答えがある。
これが、セッションを通してわかっていきました。
それに気づけてから、さらに2ヶ月後に改めて退職の意を伝えました。「5月で辞めます」って。その時は、上司はもう怒りもしなかった。
あんなに怒ってたのに「そっか、もう決めたんだろ?」っていう感じで。これは本当に不思議でしたね。
あのときの私は緊張はしたけど、動揺はまったくしなかった。要するに、堂々と軸をもって説明できる自分に変わったことで、それが伝わって、上司は反対しなかったんです。
——相手も気づくほどの変化だったんですね。
カオルさん:そうなんですよね。私が自分の中に一貫した「芯」を持っていれば、相手は何も言えなくなる。これはうまく言葉では説明できないんですが、体験するしかないと思います。
結局、目の前で起こることは全部自分の心の状態の表れでしかないんです。
一見、関連しないものを“あえて”見る
——コーチングではどんなことを話すんですか?
カオルさん:毎回のセッションで話す内容は、直接的な悩み——私の場合なら「独立」に関すること——だけじゃなくて、その時に気になっていることを話すことがすごく大事です。なぜなら、一見すると関係ないことでも、実は深い部分ではつながっているからです。
たとえば会社で思うことを話したり、家庭での悩みを話したり。私の場合は、「独立するって親に言ったらめちゃくちゃ反対されてやる気を失っています!」とか「こういう上司が嫌です」とか。あ、いまでは元上司も大好きですけどね(笑)。
そういう話をしていく中で、結局、上司や親に反応している“自分自身”を知っていったんです。
・何を言われて嫌だったのか。
・自分のどんな感情が出ていたのか。
・突き詰めていくと、実際は何に対して反応しているのか。
そういう感情の動きにフォーカスすることによって、思考や感情の癖を知る。すると「実際、そんなに悩むことじゃなかったな」みたいな発見があるんですよね。
そんなふうに、日常にはいろいろなヒントが潜んでいて、一見つながっていないように見えることでも、実はすべてつながっています。
テーマと関係ないことを話していたようでも、すべてのセッションが終わる頃には、私は独立するにふさわしいと思える人間になれていたんです。
——なんとなくセッションのイメージが湧いてきました。対話を通して気づきを得ていくんですね。
カオルさん:そうです。嫌なことがあった時は視点が狭まってしまうんですけど、コーチが気になったことや質問を投げかけることで視界がどんどん開けていきます。
私でいえば、結局「独立する」ことは決まっていたわけです。だけど親の反対を受けてモヤモヤしていた。
でもそれは、“親の反対を受けたこと”に要因があったんじゃなくて、結局は「自信のなさ」が親に伝わっていたから、「反対」という形になって返ってきていたんですよね。
相手は写し鏡です。親の言葉に反応している時点で、たぶん一番ビビっていたのが自分だって気づけました。
*後編に続きます。
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取材・執筆:金藤 良秀(かねふじ よしひで)
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