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教師を退職、書道家になった男

いつもありがとう〜

最近ワイシャツを新調したんだけど
お誂え」って読めるかい?

僕は読めなかったんだけど
「おあつらえ」って読むんだってさ。

日本語は難しいけど、
こういう言葉を使えると
何だかかっこいいよね。

▶︎書道

習い事はしていたかい?

僕は書道教室と水泳教室に通っていた。
今思えば書道をやっていてよかったと思う。

字を書く機会は減ったけど、ご祝儀に名前を書く時や配達伝票に宛先を書く時に、字が綺麗なことは大事だなって思うわけ。

通わせてくれた親には感謝だね。

ただ、硯(すずり)を洗うのは毎度めんどくさかった記憶がある。特に冬場とか冷たい水でよく洗ったな。

◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎

僕の友人は書道家だ。
個展を開くほどの人物で、界隈では有名らしい。

書道も個展レベルになると、
もはや「綺麗な字」より芸術感が強くなる。
「文字とは」を考えさせられるところが、ある意味哲学的なところ。

書道について語れるほどの知識はないが、やはりそのようなプロの書道家が書いた作品は力強さを感じる。

彼が書く字もそうだ。

"心を文字で伝える"ことをテーマに
1枚の紙に、一発勝負で書かれた字は
まるで生きているよう。

書道は奥が深い。

▶︎文字で伝える


彼は教師をしていた。
中学で社会の教鞭をとっていた。

父親が書道家で、
地元では名が知れた師範代。

書道のコンクールが開催されると金賞の上に、その先生からの特別賞があるくらい著名な方。

彼も父親の影響で、書道を趣味としていた。
趣味というより英才教育だな。

あの師範の息子さんと言われながら、
幼少期より筆を握っていたという。

大学で書道を専門に学び教員を目指した。
しかし、当時は公募がなく
社会の先生に方向性を変えた。

そんな彼に転機が訪れる。

▶︎継ぐ

父親から書道を継ぐ話があった。

父親も70代後半で、個展に向けた準備や講演会、学校への指導や書道教室を継続することは、そろそろ辞めようと考えていた。

これからは、
自分が好きな書道を静かにやっていきたいと。

著名な師範の息子で実力もある。
これまで支援してくれた方々が引き続き支えてくれるだろうと、息子を説得した。

たしかに、親の名を継げば上手くいくだろう。
しかし、彼の頭の中で

「私の心を書に込めて、世に訴えかけたい」

そういう想いが込み上がってきた。
書を継ぐよりも自分の書を作りたい。

彼は彼としての書道の道(旅)を歩み始めた。
彼の新しい人生がはじまった。

▶︎「書」は国境を越える

書道界は日本文化が深く根付いている。
要は、簡単に上に上がることは難しい。

だからこそ、
師範の名を使った方が楽なのだ。
そうでなければ10-15年は
フリーター生活になる。

しかし、彼が進んだ道は
独立書道家としての道だった。
そして、海外に進出すると決意し、
筆を握って世界を飛び回るこたにした。

社会教師を辞め、彼は旅立った。

最初はヨーロッパを中心に活動、その後インド、アジア諸国、アメリカと各国を転々とした。

活動の中、現地の邦人団体と共に
教育支援などにも携わりながら
彼の旅は続いた。

▶︎文字は心の表れ

とある地域で出会った少年は、
他の子よりも文字が書けなかった。

田舎にある学校で
生徒数も50人に満たない。

彼は乳牛の餌を販売しながら食費を稼ぎ、学校にはたまにしか来れないという状況だった。

その少年に、母国の言葉ではなく
あえて漢字を書いてあげた。

すると少年は、意味がわからなくても
文字の形を面白がって笑った。

これが、文字の素晴らしさと彼は少年に教えた。それから少年は少しずつ文字の勉強をはじめたらしい。

世界にはまだまだ文字を覚えたくても、
社会や家庭の事情で学べる環境でない
そんな子供たちがたくさんいる。

改めて、そのことを認識したと語っていた。


▶︎そして

日本における書道の人口は200万人〜300万人。10年間で50%減少しているらしい。

主な背景は、文字を書く機会が減ったこと。僕が「お誂え」という言葉が読めなかったように、漢字に触れる機会も減っている。

パソコン、スマートフォンで全て完結するからね。つい頼りにしちゃうんだよな。

◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎

2016年、彼は起業した。
日本に帰ってきた彼が作った会社は、
書道を世に広めるための会社だ。

コロナが明けた後も、
インバウンドで外国の方が日本への移住をはじめたことで、書道への関心が高まっているようだ。

これから彼は、
全ての人が、文字を学べる世界を作っていくことを目標に歩んでいくそうだ。

今日も誰かが日常を旅している。

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