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経営改革系ITの業界全体像・キャリアの築き方

こんにちは、きんきんです。

私は21年間IT業界で一貫して経営改革系(経営改革のための企業事務効率化・データ可視化)のITソリューションに関わっています。米系ITサービスベンダー、日系コンサルティング会社を経て、現在は製造小売業の社内ITでマネージャーをやっています。詳細な経歴については以下記事をご参照下さい。

そこでの経験、得られた知見を活かし今回noteの記事を書いてみました。記事の要旨としては「業界の全体像とその中の各社の特徴」「業界各社の特徴を踏まえたキャリア構築方法」です。

■この記事を読んで欲しい人

就職活動で、IT業界、コンサルティング業界を検討している学生の方
 →会社の特徴や就職した場合のキャリア構築イメージを知りたいという人向け。
●現時点で経営改革系IT業界、コンサルティング業界で働いている若手の方
 →この業界で働いているものの自分の会社しか知らず、同業他社の特徴も理解しながら、この先のキャリア構築イメージをもう少し把握したい
●何かしらの理由でこの業界の業界研究や会社の特徴が知りたい

■そもそも経営改革系ITとは?

経営改革系ITというと漠然としていますが、敢えて言葉で定義すると「企業が経営を行う上で必要な経営情報を正確かつスピーディに取得するために、企業内各種業務の効率化・データ可視化を実現するためのITソリューション」となります。世間では別の言葉で「バックオフィス系IT」「基幹業務IT」とも言われることもあります。

実際に関連する業務領域・ITソリューション製品としては以下のようになります。
●業務領域:会計管理、経営管理、購買管理、在庫管理、販売管理、生産管理
●ITソリューション製品例:SAP(S/4、Ariba、Concur)、Oracle(ERP)

他にも日本でいえば勘定奉行、freeeのような中小企業向けのソフトも存在しています。但し「日系中小企業向けITソリューション」となると、また人材マーケット観点では別の業界となりますので、本記事では対象外とさせて頂きます。

■なぜIT業界の中で経営改革系ITに特化するのか?

ひとえにIT業界といっても、その内部の領域により、業界を構成する会社の顔ぶれやそこで働く人材は全く別物になるためです。同じIT業界に行ったとしても、「無印良品のオンラインストア」と「トヨタの会計系決算システム」に関わるのでは、必要なスキル・経験も全く異なります。後述プロフィールの通り私は新卒で入社した会社でまず「経営改革系IT」の領域からキャリアを始めたために、いまだにその領域内でしか転職は難しいのが実態です。

■ 業界全体像(会社の種類)

前置きが長くなりましたが、この記事の本題に入っていきます。この業界は大まかに以下の種類の会社で構成されています。まずはこれをしっかり頭に入れて下さい。

<本業界の会社の種類>
●ソフトウェア製品ベンダー(SAP、Oracleなど)
●総合コンサルティングファーム(デロイト、PwC、EY、クニエなど)
●総合ITサービスベンダー(Accenture、IBM、富士通、日立、NEC、NTTデータなど)
●SIer/IT開発ベンダー(SCSK, TIS, 伊藤忠テクノなど)
●事業会社(クライアント企業:トヨタ、ホンダ、ファーストリテイリングなど)

ここで気づく人がいるかもしれませんが、分類はともかく見る人にとっては「うちの会社は総合ITサービスベンダーでなくコンサルだ!」とか異論を唱える方もいるかと思います。但しこれは私の経験・考えに基づく主観による分類ですから、ここでは恐れ入りますが異論は認めず、そういうものだと思って読み進めて下さい。

[よくある質問への回答]
Q) マッキンゼーやBCGなどいわゆる戦略コンサルファームはここには登場しないのでしょうか?
登場させず本記事の対象外です。もちろんこの業界に絡むことはありますが、やはり戦略コンサルというのはより広い視野でクライアント全体の経営戦略・IT戦略に関わる課題解決をする会社ですから、この記事が対象とする「会計業務改革」「会計ITソリューション導入」といったより具体的な案件には一般的に入りこまず、本記事の対象外とするのが妥当です。

Q) AccentureやIBMはコンサルファームではないのでしょうか?
「どちらの会社も自社をコンサルファームと謳っています」という質問が、特に就活中の学生さんから来ると予想されます。それに対しては私は明確にNo(コンサルファームでない)と回答したいです。もちろん富士通やNECに比べるとコンサルファーム的要素を持ってはいるものの、IT系の要員を多数抱え、課題解決よりはITソリューション実装を重視する、という点を踏まえると「ITサービスベンダー」に分類するのが妥当です。その根拠については次章(会社の種類ごとの特徴)をご参照下さい。

■ 会社の種類ごとの特徴

さて、前項で分類した各会社の種別について、もう少し掘り下げを行っていきます。会社種別ごとの「一般的な」定義は以下の通りです。

●ソフトウェア製品ベンダー(SAP、Oracleなど)
会計業務などバックオフィス業務に必要なITソリューションを具現化するためのソフトウェアを開発・販売

●総合コンサルティングファーム(デロイト、PwC、EY、クニエなど)
経営・業務で発生する各種課題を解決するためのコンサルティングサービスを提供

●総合ITサービスベンダー(Accenture、IBM、富士通、日立、NEC、NTTデータなど)
経営・業務で発生する各種課題を解決するためのITソリューションの導入支援・運用保守サービスを提供

●SIer/IT開発ベンダー(SCSK, TIS, 伊藤忠テクノなど)
ITソリューションの導入・運用保守で発生する開発作業(設定、プログラミングなど)をサービスとして提供

●事業会社(クライアント企業:トヨタ、ホンダ、ファーストリテイリングなど)
本業である事業を営むために必要な会計業務などで発生する課題を解決するために、左記の業務にサービスを依頼するクライアント企業

「一般的な」定義は上記の通りです。ただ、本当に各社の実態はその通りなのでしょうか?いえ、実態は異なります。就職活動中の学生さんが上記を鵜呑みにして会社選びをすると、入社後に「こんなはずじゃなかった」とギャップを感じること間違い無しです。

そこで私が本業界で長年働いてきた経験に基づき、各社の実態は本当はどうなのか、という「ぶっちゃけ」ベースでの特徴を比較表形式で整理してみました。

pdfファイルのパスワード: Back_it_2021

この比較表をご覧になり、本業界内の会社毎の働き方の特徴は掴めたでしょうか?次項からは、その会社種別毎の特徴をベースに、この業界に入る人がどのようにキャリアを構築していくのが良いのかを述べて行きます。

■ 会社種類の特徴を踏まえたキャリア構築

本業界におけるキャリア構築方法ですが、キャリア構築といっても、一般的には長い数十年という社会人人生がある中で、どの時期を対象に語るのか?にもより話は変わっていきます。本項目では「1) 基礎体力育成フェーズ」と「2) 中堅フェーズ」という2つの分けてご説明します。

1) 基礎体力育成フェーズ(新卒入社〜5年程度)

このフェーズでは「コンサルティングファーム」「総合ITサービスベンダー」で経験を積むことをお勧めします。課題解決、会計業務、SAPなどITソリューションについて基礎スキル・知識を座学・実戦で身につけるにはとても良い環境です。

私の場合は、新卒入社で外資系のITサービスベンダーに入社し、そこで会計業務、SAP、プロジェクトマネジメントなどこの業界で活躍するための足腰が徹底的に鍛えられましたこちらの記事をご参照下さい)。私は新卒採用の過程でコンサルファームも受けたものの「地頭力」「コミュニケーション力」といった能力にとても自信が無く、もっと地道にITスキルを身につけることで活躍できそうなITサービスベンダーを就職先として選択しました。その選択が奏功し、着実に自分のペースで必要なスキルを獲得し成長できたと感じています。

ところで、「コンサルティングファーム」と「総合ITサービスベンダー」どちらが良いのか?という点については、ご自身のタイプに寄ると思います。今までの学生生活を通じて「地頭が良い」「コミュ力が高い」などと評されていたタイプの人は「コンサルティングファーム」に適応しやすいです。最初新人は知識も経験も無い中でなかなか仕事はできないものですが、地頭とコミュ力があれば、何もできない新人でも先輩社員に何かと可愛がってもらえ、仕事が振られ成長のチャンスが多いです。

一方で地頭とコミュ力がない人がコンサルファームに行くと何もできずメンタル病むこと必須なので、まずは「総合ITサービスベンダー」に行きましょう。ITでいえばプログラミングやExcelスキル、会計でいえば簿記など、誰でも努力すれば身につけられるスキルを確実に身につければ、地頭やコミュ力がない人でもプロジェクトの現場で即戦力になり先輩社員にかわいがってもらい実戦経験を積むことが可能です。

コンサルファームで活躍するために必要な資質、その逆にコンサルとして活躍しづらい人の特徴についてはこちらの記事もご参照ください。

コンサルファームか総合ITサービスベンダー、どちらかに入って真面目に仕事に取り組みさえすれば、本業界で長期に活躍するために必要な足腰は鍛えられます。ちなみにコンサルファームか総合ITサービスベンダーに入れなかった人は、まず中堅のSIer/開発ベンダーに入りそこでITスキルを鍛え、どこかで総合ITサービスベンダーに転職という方法はアリです。

一方で以下の会社は最初の基礎体力を鍛えるフェーズとしてはお勧めしません
ソフトウェア製品ベンダー
SAPのスキルを身につけるのであればSAP社に入るのが一番良いのではないか?と思いがちですが、実際そうではありません。ソフトウェア開発ベンダーは導入サービスも提供しておりますが、会社として注力しているのは「いかに自社のソフトウェア製品を売るか?」です。製品の導入はコンサルファームや総合ベンダーに任せているため、案外ノウハウに乏しいのが実態だったりします。但し「営業としてソフトウェア製品を販売するスキルを身につけたい」ということを重視するのであれば、それもキャリアの1選択肢ですので、ソフトウェア製品ベンダーを選ぶのは手です。

事業会社
事業会社に新卒入社するというのは、あくまでその会社の主たる事業に興味を持ち、まずはそこにコミットすることが重要です。自動車会社であれば自動車をどう効率的に生産・販売するか、といった本業の事業についてのスキル・経験を身につけることが求められますので、ITでキャリアを築いて生きたいという人が事業会社に入ることはお勧めしません。

2) 中堅フェーズ(新卒入社後、6年目以降)

コンサルファームや総合ITサービスベンダーで基礎体力をつけた後、自分の長期的なキャリア・どう生きたいか?という点を考えた時に考えられる選択肢にはいくつかがあります。

私の場合は総合ITサービスベンダーでの働き方は自分に合っていたものの、「自分の仕事は本当にクライアントや社会のためになっているのだろうか?」という疑問を抱くようになり、コンサルファームに転職したもののそこでは自分に合わずメンタルを病み、そこで最終的に事業会社に転職し充実感を感じられています(こちらの記事をご参照下さい)。中堅フェーズで考えることは人それぞれですが、よくあるキャリアの選択肢について以下の通りいくつか挙げてみますので、ご参考下さい。

今のコンサルファームや総合ITサービスベンダーでの働き方に違和感がない
→そのままコンサルファームや総合ITサービスベンダーでプロモーションし上位グレードを目指す
現在の給与水準やワークスタイルに満足しており、更に自分の仕事の影響力を拡大していきたい、給与を上げたいという人は、そのまま今の会社でより上のグレードを目指して精進することで問題ないかと思われます。

総合ITサービスベンダーで働いているが、ITソリューションありきのサービスに限界を感じる。ITソリューションに依存せず、ITの背景にある業務に踏み込んで課題解決したい
→総合コンサルファームに転職する
私もこのパターンで1社目から2社目に転職しました。真にクライアントの課題を解決しようとすると、ITソリューションだけでなく、もっと業務に踏み込むべきという考え方です。その考え自体は極めて全うなものですが、私自身は「私のプロフィール」で書いたとおりコンサルファームに適応できずメンタルを病みました。ITサービスベンダーとコンサルファームは似ているようで、求められるマインドセットや人材像はかなり異なることから、その違いを認識した上で自分は本当に適応できるのか?をイメージしながら転職を検討すべきです。

ITサービスベンダーとコンサルファームで求められる人材像の違いについては、私が以前書いた以下の記事の中にある「■(余談)なぜ転職先で人間関係のトラブルが多かったか?」にも記載しましたので、宜しければご参照下さい。

外資的なワークスタイルや高い給与水準を維持したまま、もう少し楽に働きたい
→外資ソフトウェア製品ベンダーに転職する
前項の「比較表」に記載の通り、外資ソフトウェアベンダーは以下の特徴を持っています。
「特に市場シェアの高い製品はライセンス料も高額に設定できることから、会社の体質として超高利益率になりやすい。更にIT導入・運用保守など最も労働集約的なサービスに注力していない場合、社員は比較的少ない労働量で製品が生み出す高利益を享受できることから、比較的少ない業務負荷でワークライフバランスも良いというケースが多い。」

というわけで、自分が必要とされる製品のスキル・経験を持ち、かつうまくその製品ベンダーの社風や働き方に適応できるのであれば、コンサルファームやITベンダーと比べ比較的楽に、かつ高い給与水準を維持することが可能です。こちらも個人の価値観によるキャリアとしてはアリだと考えます。

●外部ベンダーという立場でなく、より深く事業経営の中に入り込んで、自分のスキルを活かして社会貢献したい。もしくは海外赴任をしてみたい。
→事業会社へ転職する
コンサルファームやITベンダーのような外部の立場でクライアント企業に関わってきて、イマイチ仕事の充実感を得られなかったという人は、ぜひ事業会社に転職することをお勧めします。ご自身が培ったスキルや経験により、事業会社のどの部門に転職するかは異なりますが(IT、経理財務、経営企画など)、自分の経験・スキルをもって直接自社の事業の成長に貢献できるというのは非常にやり甲斐を感じられるものです。

私はこのパターンで事業会社のIT部門に転職しました。コンサルファームで外部パートナーとしてクライアントの事業成長に関わることに限界を感じたこと、上司との人間関係でメンタルを病んだことがきっかけですが、今は前述のようなやり甲斐を多いに感じられ満足しております。

また私自身は2社目で念願の海外赴任を経験できたため当てはまらないのですが、会社特徴の比較表に書いたとおり、外資のコンサルファームやITベンダーではなかなか海外赴任の機会がないため、海外赴任を希望されている方には事業会社はチャンスが多くお薦めです。

一つ注意点としては、特に事業会社の中でもIT部門については、会社内でのプレゼンスや地位が弱い場合があり、その場合は思うように会社の事業に貢献できている実感が持てません。伝統的な日系企業のIT部門(いわゆる「情報システム部門」)は、2000年代以降のIT外注化傾向ゆえに、会社の事業・業務や自社のITシステムに対する理解度が低下し、外部ベンダーの管理が仕事の中心となってしまったことで、会社内での役割が低下して他部門に信頼されていないことも多いです。そのようなIT部門で働いても転職の目的は果たせませんので、ネット上の様々な情報源にあたったり、採用プロセスでその会社のできるだけ多くの人に話を聞くとかすることで、そのようなイマイチなIT部門に入ってしまわないように注意して下さい。

ちなみに私の場合は、1社目のITサービスベンダー時代の同僚が転職先の事業会社IT部門で働いていたこともあり、応募前に話を聞くことでよく状況を理解しながら応募しました(その会社は非常にIT部門の他部門からの信頼度も高く頼られているとのことがよくわかりました)。

■最後に

一度、基礎体力育成フェーズで業界で働くのに必要なスキル・経験を積んでしまえば、後は自分がどういう価値観を持っているか、どういうライフスタイルを送りたいか?によりこの業界には様々な選択肢があり実際にその中から自分の選びたい選択肢を選ぶことができます。

就職活動の際には、様々な会社がありどこに行けば良いのか全くイメージが沸かないかと思いますが、本記事で業界の全体像や会社の特徴を掴んだ上で、基礎体力育成するのに良い会社を是非選んでみて下さい

私は今までこの業界でキャリアや仕事の目的について疑問を持ちながら働いてきましたが、もし同様の悩みを持っている方がいれば是非参考にして頂きたいという一心で今回この記事を書いてみました。この記事が少しでもお役に立てるのであれば私としても嬉しいです。もしご不明な点や他に知りたい点などありましたら、noteにリンクしてあるtwitter (@kinkin2000) にご連絡下さい。

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