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「人工呼吸器関連肺炎ではグラム染色で広域抗菌薬を安全に減らせる」

TONOZUKAです。


人工呼吸器関連肺炎ではグラム染色で広域抗菌薬を安全に減らせる

以下引用

大阪急性期・総合医療センターの吉村旬平氏らは、人工呼吸器関連肺炎(VAP)患者に対して、グラム染色の結果に基づいて薬剤を選択した場合と、ガイドラインに基づいて広域抗菌薬治療を開始した場合のアウトカムを調べるランダム化比較試験を行い、グラム染色に基づく抗菌薬治療の成績はガイドラインに劣らず、広域抗菌薬の使用量を減らすことができたと報告した。結果は2022年4月8日のJAMA Network Open誌電子版に掲載された。

 米国感染症学会/胸部学会のVAPに対する2016年のガイドラインは、緑膿菌とメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)をカバーする抗菌薬を経験的に投与することを推奨している。しかし、広域抗菌薬の過剰な使用は多剤耐性菌の出現を加速させている可能性が高く、広域抗菌薬からターゲットを絞った抗菌薬治療に切り替えていくのが望ましい。

 気道標本に対するグラム染色は、簡便で安価な検査法として世界中で用いられている。グラム染色を実施すればは、起炎菌に関する情報を速やかに得られるため、広域抗菌薬の過剰な使用を減らせる可能性がある。しかし、ICUで治療を受けているVAP患者にも、安全を損なうことなく広域抗菌薬の使用が減らせるかどうかは明らかではなかった。そこで著者らは、VAP患者を対象として、グラム染色に基づいて抗菌薬を選択した場合と、ガイドラインに基づいて選択した場合の治療成績を比較することにした。

 オープンラベルのランダム割り付け非劣性試験GRACE-VAPは、2018年4月1日から2020年5月31日に、日本の三次医療機関12施設のICUで実施された。組み入れ対象は、人工呼吸器による管理を開始してから48時間以上が経過していた15歳以上のVAP患者で、modified Clinical Pulmonary Infection Score(mCPIS;スコア幅は0~10で、高スコアほどVAPである可能性が高まる)が5以上だった患者とした。抗菌薬アレルギーを有する患者、妊婦、心不全や無気肺の患者、24時間超にわたって既に抗菌薬を投与されていた患者、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者などは除外した。

 条件を満たした患者は1対1の割合で、グラム染色所見に基づく抗菌薬療法、または米国感染症学会/胸部学会のVAPに対する2016年のガイドラインに基づく抗菌薬療法にランダムに割り付けた。

 グラム染色群の患者は、気管内吸引痰を採取してグラム染色を行った。標本採取のための気管支肺胞洗浄は行わないことにした。グラム陽性レンサ球菌と/またはグラム陽性桿菌のみが検出された場合は、抗緑膿菌活性を持たないβラクタム系抗菌薬を選択した。房状のグラム陽性球菌が検出されたがグラム陰性桿菌は見られなかった場合は、抗MRSA活性のある抗菌薬を選んだ。グラム陰性桿菌が検出されたが房状のグラム陽性球菌は認められなかった場合には、抗緑膿菌活性のある抗菌薬を投与した。房状のグラム陽性球菌とグラム陰性桿菌の両方が検出された場合は、抗MRSA活性のある抗菌薬と抗緑膿菌活性のある抗菌薬を併用した。グラム染色で、2つ以上のカテゴリーの菌が見つかった場合には、最も広域の抗菌薬を単剤で用いた。グラム染色で菌体を確認できなかった場合は、抗MRSA活性のある抗菌薬と抗緑膿菌活性のある抗菌薬を併用した。

 ガイドライン群には、抗MRSA活性のある抗菌薬と抗緑膿菌活性のある抗菌薬を併用した。どちらのグループでも、初期治療では抗緑膿菌活性のある異なる分類群の抗菌薬を2種類以上併用しないこととした。全ての参加施設で検出された緑膿菌の80~90%が、抗緑膿菌活性を有するβラクタム系抗菌薬に対する感受性を示しており、多剤耐性グラム陰性桿菌の検出率は低かった(10%未満)。

治療薬のエスカレーションとデエスカレーションは呼吸器標本から分離された微生物に基づいて実施した。投与量は個々の患者の状態に応じて、各施設の研究者が調整した。抗菌薬は7日以上連続使用し、使用中止は主治医の判断で行うとした。

 主要評価項目は臨床反応率とした。臨床反応ありは、14日以内に抗菌薬治療が完了し、ベースラインに比べ胸部X線画像が改善、または増悪が無く、肺炎の症状や徴候が改善し、肺炎による抗菌薬治療の再開なし、と規定した。過去の研究データを参考に、両群の反応率を67.8%と仮定して、サンプルサイズを決め、非劣性のマージンは20%に設定した。

 副次評価項目は、28日後までの死亡率、ICU以外で過ごした日数、人工呼吸器離脱日数、抗緑膿菌活性を有する抗菌薬と抗MRSA薬の併用治療を開始した患者の割合、デエスカレーション率、抗菌薬の使用日数、有害事象などに設定した。臨床評価は毎日行った。臨床反応の評価は、治療終了後7日目に行った。
 条件を満たした206人をグラム染色群103人とガイドライン群103人にランダムに割り付けた。被験者の年齢は中央値で69歳(四分位範囲54~78歳)、68.4%が男性患者だった。ICU入院から割り付けまでの日数は中央値で4日(四分位範囲4~6日)だった。気管内の吸引標本から最も多く検出されたのは黄色ブドウ球菌103人(50%)で、続いてクレブシエラ属のグラム陰性桿菌34人(16.5%)とインフルエンザ菌20人(9.7%)が多かった。

 臨床反応は、グラム染色群の79人(76.7%)とガイドライン群の74人(71.8%)に認められた。リスク差は0.05(95%信頼区間-0.07から0.17)でグラム染色群の反応率は非劣性だった。28日目までの累積死亡率は、グラム染色群が14人(13.6%)、ガイドライン群が18人(17.5%)だった。死亡のハザード比は0.74(0.37-1.48)で、両群の差は有意ではなかった。

 グラム染色群では、ガイドライン群に比べ、抗緑膿菌活性を有する抗菌薬の使用は30.1%(21.5-39.9%)、抗MRSA薬の使用は38.8%(29.4-48.9%)少なかった。

 グラム染色の黄色ブドウ球菌検出における感度は83.5%、特異度は75.7%、グラム陰性菌検出の感度は83.0%、特異度は60.7%だった。抗菌薬療法開始時点の起炎菌カバー率は、グラム染色群が86.4%、ガイドライン群は92.2%で、差は有意ではなかった。

 培養の結果に基づいてエスカレーション療法が実施された患者は、グラム染色群の7人(6.8%)とガイドライン群の1人(1.0%)だった。デエスカレーションは67人(65.0%)と79人(76.7%)で実施されていた。

 サブグループ解析でも、グラム染色群とガイドライン群の臨床反応に有意差はなかったが、外傷による脳損傷を受けた患者群のみ100%と61.5%で、リスク差0.38(0.12-0.65)とグラム染色群の方が有意に反応率が高かった。

 有害事象は、グラム染色群に69件、ガイドライン群に79件発生した。最も多く見られたのは、下痢(26.2%と36.9%)、腎障害(16.5%と18.4%)と血小板減少症(15.6%と10.7%)だった。下痢を経験した患者の中で、C. difficile陽性だったのは、それぞれ1人(1.0%)と3人(2.9%)だった。

 これらの結果から著者らは、ICUに入院したVAP患者に対して、グラム染色に基づく抗菌薬選択治療は、ガイドラインに基づく治療と比べ成績に遜色はないが、広域抗菌薬の使用量を減らすことができたと結論している。そのため、グラム染色はICUにおける多剤耐性菌問題を軽減する可能性があると指摘している。この研究は丸茂救急医学研究振興基金の支援を受けている。

 原題は「Effect of Gram Stain-Guided Initial Antibiotic Therapy on Clinical Response in Patients With Ventilator-Associated Pneumonia The GRACE-VAP Randomized Clinical Trial」、概要はJAMA Network Open誌のウェブサイトで閲覧できる。

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