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作家は人の本質を描く~人間観察、人は合理的な考えで動かない~「ハヤブサ消防団」 

➀今回のお話の主人公の職業は「作家」ということで、作家の本音、思い、日常生活、その様子が見えてくる表現が多く、それをおもしろく思いました。
 きっと、

実際に作家である池井戸潤さんの本音が隠れているのだろうと思いました。

 例えば、次の通りです。(ハヤブサ消防団 本文より)
 
・ミステリ作家として人の死をいくつか書いてきたが、本物の死に生々しさは小説の比ではない。軽々しく口にするのは許されないのだ。
・「簡単な」といわれても、誰が見ても破綻の無いストーリー作りと言うのは意外に難しいものだ。簡単に見えるからと言って簡単にできるストーリーなど、世の中に存在しない。

・普段から物語を作りつけない者が簡単にできるほど、創作は単純ではない。人が作ったものをあれこれ言うのと、自分が作るのとでは大違いなのだ。

・作家は文章を書くのが仕事だと思われているが、それだけではない。作家にとって一番の仕事は、人の本質を見極める事だ。

・人間観察を旨とする作家人生をかけても断言できる。


  そして、あらためて作家というのは、表現者と同時に観察者でもあるのだなあと思いました。
 実際、編集者の方の話によると、作家の方とちょっとした食事の時に、急に黙り込む先生が多いのだとか。
 それは、気分を害してと言うわけではなく、急に目つきが鋭くなり、場にいる方の話に聞き耳を立てていたり、周り人の様子を見ていたりという、別の顔を見せるそうです。
 文字ではない、「経験からのインプット」ということでしょうか。

 また、

特に小説家は、おもしろい話を書くというより「人間を描くこと」とも言われます。

 実際、作家の乃南アサさんは、

「作品が目に触れるようになったときにいろいろな括りが付けられるのであって、自分ではミステリーを書いているという意識はない。私は『人間』を書いていきたい。」

と授賞式の記者会見で語りました。
 読者を始め、世間が「ジャンル分け」をするのであって、作家さん自身は、自分の中に表現したい何ものかがあって、それを自分の物語世界に表し、なおかつ、その中で「人間と何ぞや」というものを描いていくのだなあと思いました。
 
②人は、合理的な考えで動きません。
 特に、非合理な、どうしてそんなことをするのか?とはたから見ると思える事でも行動できてしまいます。

 頭で考えてと言うより、感情によって動きます。
 エビデンスが大事と言われますが、可能性が低くても挑戦する人はいくらでもいます。

 逆もまた然り。

 普通はできないよなと言うようなことでも、やりとげられる、奇跡なようなことも起こせます。

③「救い」が話全体に流れる、関連するキーワードかなと思いました。

 登場人物の一人がこんなことを言っています。(ハヤブサ消防団本文より)
 
・誰だって絶望したりする瞬間はあるでしょうし、いろんなことで虚無感に浸ることもあると思うんです。

誰にも相談できないし、誰の助けも得られない。そんな時、すっと手を差し伸べ、救いを与えてくれる。教団の信者が優しい言葉をかけて、あなたには神の子としての価値があると温かく迎え入れてくれる。だから、ハマるんです。


・自己正当化。

辛い事、嫌なことがあったら、それは自分じゃなくそういう目に遭わせた相手、ひいては世の中に問題がある。その問題を排除することで、自分は常に正しく、平穏でいられる。

~言い換えれば、すべて他人のせいってことです。
 
・古くからある宗教が良くて、新興宗教だから悪いわけではありません。
 

 カルト教団、陰謀論なんかが流行る現代において、考えさせられる言葉でした。
 

 この「ハヤブサ消防団」は、2023年の夏にドラマで放送もされました。ドラマと小説では、設定こそ同じですが、登場人物や犯人など、随分と変わっているところもたくさんありました。

 しかし、池井戸潤さんの作品魅力の一つである、互いの主張をぶつけ合い、相手を論破する、あるいは、自分の正当性を証明するところ部分は至る所に生きているなと思いました。
 テレビドラマの「半沢直樹」や「下町ロケット」では、大きなテーブルを囲んで、2つのグループに分かれ、「対決」「対峙」する演出になっていて、堺雅人さんや阿部寛さんが、噛まずにあの長い台詞を、すらすらと、そして、迫力をもって、相手にぶつけていきます。思わず、見入ってしまいました。
 現実世界で同じことをすれば、特に相手との人間関係がまずくなるので、言葉も柔らかくなりますが、「ドラマ」として、論理的に、相手を言い負かす「戦い」に、スカッとする思いをもちました。
 
 そして、今回の物語でいえば、主人公の作家の三馬さんやハヤブサ消防団が教団と戦い、ある意味「町を救ったヒーロー」となっていくところも、気持ちが盛り上がりました。

 また、消防団について、理解も深まりました。
 実際、自分の近所にも消防団が存在していますし、たまに、学校グランドなどで、夕方から夜にかけて訓練をしている姿も見かけます。
 参加している人は、普段は自分の仕事をして、その夜、訓練に来ています。
 
 消防署(消防士)と消防団の違いも、そして、その存在の重要性も分かっていませんでしたが、この本によって、その意味も分かりました。
 特に田舎などでは、消防車が駆けつけるまでにかなりの時間が必要です。となれば、自分達の地区の火事は自分たちの手で消す、自分たちで守るという組織を作っていかないと立ち行かないということが良く理解できました。

消防団は、地域のコミュニティの「核」なんだなあと心底思えました。地域を支えてくれている人の存在を身近に感じられる作品でもありました。

  話のあらすじは次の通りです。

・ミステリ作家vs連続放火犯。のどかな集落を揺るがす闘い!
東京での暮らしに見切りをつけ、亡き父の故郷であるハヤブサ地区に移り住んだミステリ作家の三馬太郎。地元の人の誘いで居酒屋を訪れた太郎は、消防団に勧誘される。迷った末に入団を決意した太郎だったが、やがてのどかな集落でひそかに進行していた事件の存在を知る――。連続放火事件に隠された真実とは?

 田舎ののんびりした生活の裏側で、「闇」が近づき町を覆っていく陰謀が渦巻いていたことが分かっていくという、スリラー、ミステリーでした。
 宗教、消防団、信仰心、孤独、洗脳、放火、傷ついた心、過疎化・・・。
 話のキーワードにつながるのは「救い(う)」かなあと改めて思いました。
 
最後に主人公の言葉です。

家が燃えたんじゃない。人生の一部が燃えたんですよ。
自分たちの町は、自分達で守らないといけない。そうするべきなんです。

 改めて、消防団の存在を心強く思いました。
 
 ここまで読んでいただき、ありがとうございます
皆様の心にのこる一言・学びがあれば幸いです

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