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短編小説「異邦人」②2022・5・15

二〇二二年五月十五日


 「ちょっと待ったああ!!」女が叫びなら男の方に駆け寄っていく。男はもう少しで都に降り得そうだったのに、と肩を下ろす。

「何すか?何すか?後ちょっとだったのに。」

「ごめん。やっぱビルで死んでくれへんかな?君は確かに私の管轄内で死のうとしてくれた。それはありがとう。だけどな、風!風の事考えてへんかった。君が飛び降りたのはあっち側やけど、風に流されてこっち側に落下死する事だってあるやんか!な?そうなったらやっぱりまずい。」

「いやです。無理です。」

「何でやねん!」

「ここで死にたいんですって。」

「はあ?死に場所なんかどこでもいいやろ?」

「無理です。」

「お願いやんか。早く帰りたいねん。君も死に急いでるならわかるよな?この気持ち!」

 女は橋にかかったままの男の腕をしっかりと掴んで離さない。男もまた必死に端から剥がされまいと抵抗する。

「無理ですよ!ここで死にたいんです!」

「なんでや、あっちでもええやろ?」

「ここがいいんです!」

「死んだらわからんて!」女の言葉を遮って男は言う。

「ていうか!ここでしか死ねないんです!」

「そんな人、おるわけがない!」

「もうそろそろ分かってくださいよ!」


 男は女の手を払う。女は反動で少しふらつく。


「…。…というと?」

「もう死んでます。」


「…?」


「既に飛び降り自殺してます。お化けです。幽霊です。」

「…え。」女は男から少し離れる。

「はい。」


「ちょっと…。見えすぎじゃない?」

「モロですね。はい。」

「…。」女は男の全身をマジマジと見つめる。

「いやいやいや!ないない。流石に無理があるわ!それは。」

 男の顔はピクリとも動かずただ困惑する女を追いかける。女は後退りをする。腰が引けている。男の顔はずっと真っ直ぐに女を見る、ただそれだけだ。

「地縛霊です。すみませんね。驚かしちゃって。ということで、僕はあのビルに行くことは出来ません。地縛霊なんで。」

「マジか。私って霊感強いねや。」

「そ、そうですね。ここまで強い人は見たことがなかったです。触れてましたからね、腕。」

 自分の手を嬉しそうに、不思議そうに眺める女。

「てことで。」そう言って男は勢いよく橋の上に乗る。


「ねえねえ!!幽霊って痛み感じるん!」女は男を最も簡単に地上に引き戻す。男は強く引っ張られた腕に痛みを感じながら、地面に尻餅をつく。そしてすぐにまた橋から身を乗り出そうとする。女の方が早く男の腕を引っ張る。

「多分あんまり感じないんじゃないですか!」

「ふーん。あ!閻魔大王ってほんとにおんの?教えてや!」死のうとする男。引きずり戻す女。

「閻魔様はいますよ!意外とイケメンです!」

「幽霊って本当に塩効くん?それってさつまりNaclが効いてるってこと?え!じゃあさ、じゃあさ!」

「そろそろ死んでもいいですか?」

「(さっきの続き)じゃあさ、じゃあさ!ラーメンの汁かけても攻撃になるってこと?だってあれ塩分の量すごいでしょ?」

「いい加減死んでもいいですか?死にたいんですけど!あー死ぬはずの時刻なんですけど!死にますよ?」女は男を平然と掴みながら話を続ける。

「豚骨ラーメンとさ、味噌ラーメンやったらさ、やっぱ豚骨ラーメンの方が効くよね?意外と塩ラーメンに塩分入ってなさそうちゃう?そうなるとやっぱ豚骨ラーメンが一番効くんんか。いや、意外と醤油ラーメンやったりして。」

「離してくださいって!幽霊ですよ!呪いますよ!もー死なせてくださいよー。」


 大学生二人組が女と男の小競り合いを見つける。そのうちの一人が明らかに男に向かって叫ぶ。

「おーーーい!智也じゃねえか!久しぶり!お前こんなとこで何やってんだよ。警察のお世話になってんのか?おう?」



 男はものすごく萎縮してこう呟いた。




「お、おつか、お疲れ様です…。」


続く。

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