ドイツ一人旅_銀杏_06_02【海外旅行】
1999年冬 6日目 ミュンヘン~パッサウ
ミュンヘンを出発した列車はパッサウに向かっていた。
高層ビルが並んでいた車窓からの景色は低い建物へと替わり、やがて畑が広がる牧歌的な風景に替わっていた。飽きず眺めていると通路を挟んだ席に座っていた老婦人から声をかけられた。
「ヤーパン?(日本人?)」
「ヤー(そうです)」
今度は読んでいた本を指差した。
「ゲーテ」
どうやらゲーテの詩集らしい。老婦人はページをめくるとある詩を指差した。
「ギンコゥ(Ginkgo)」
詩の一小節を音読すると黙って見つめ返してきた。あなたも読んでということだろうか?
黙っていると『ほら早く復唱して』といった顔で促してくる。しかたなく、僕は老婦人に続いて音読した。老婦人は満足そうに頷き、次の一小節に続いた。
(ほとんど眠ていないので、そっとしておいてくれませんか)
とは言えず復唱を繰り返した。結局、パッサウまでの約2時間、老婦人に付き合うことになった…
寝不足でぼうっとしながらも、列車内で地元の人と会話をするなんてまるで『世界の車窓から』みたいだなと思い、ちょっと楽しい気分でもあった。
帰国後、『Ginkgo』を調べてみると『銀杏の葉』という詩だった。2枚の葉が1枚につながって見える銀杏の葉を男女の愛の象徴に例えたみたいだ。
銀杏は東洋から欧州に伝わったようで、東洋から来た僕にその詩を贈ってくれたと思うと嬉しくなった。
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