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騎士団長生かし

吉沢明歩の欲情温泉旅行淫猥の旅一泊二日、が大好きだ。
もうかなり前の作品だが、現在もエース級に観てしまいます。



というわけで日帰りで温泉に行ってきた。

特に行く理由はなかったが、最近ストレスが非常に溜まりやすく、それを解消する上で一番の方法は温泉に浸かることであるという持論を持っているからだ。

滋養強壮。これはバカにならない。

なんとか近所の健康ランドで騙し騙しストレスを解消してきたが、いよいよそれも効果がきれたのでやむなく本物の温泉地に行くことにしたのだ。

場所は伊豆。東京駅から特急で2時間程かかることもあり、行き帰りの車内では久々に駅弁に舌鼓をうつ。

少し前に岡田義徳が長期休暇をとって駅弁を食べながら全国を旅するドラマを観てからというもの、駅弁を食べるということにも非常に意義があるように感じている。

食べ終えると、数少ない荷物の中から村上春樹の騎士団長殺し上巻を出し、読み始めた。


「どうにもなんだか僕にはよくわからなくて。最初いきなり顔のない男がでてきたと思ったらやっぱりよくわからない理論で主人公が不倫したり離婚したり高速道路を当て所なく走ったりで。なんだかウンザリして読むのをやめてしまいました」

「それはもしかしたら、キミと村上春樹の相性が良くないのかもね。騎士団長殺しは、彼の作品の中では読みやすいほうだし、何よりウンザリもしにくい」

そう言われて相手がハルキストであるということにはじめて気付き、慌てて訂正しようと思ったがどうせハルキストに何言っても穿られるだけでしょうと諦め、それ以来私は騎士団長殺しを読んでいなかった。


久々に読むと、何やら免色という男性が現れ、「私は色を免れている」と自己紹介する。

それを主人公が不倫相手の40代の小柄な人妻に話すと、人妻が『たとえば白とか?黒とか?』ときく。

主人公は「白も黒も立派な色だ。色から免れることはできない」と言う。

いやいや、これよ。ザ・村上春樹みたいなくだりだよこれは。と感じ、また疲れてしまい本を読むのをやめて外の景色を見ることにした。


そもそも私は村上春樹どうこうでなく、本を読むことにむいていない。

昔から徹底的に文学系だった私は、当時の青さもあってか、周りの人間が自分より劣るであろう人に「本は読んどいたほうがいいよ」とアドバイスするのを聞き続けているうちに、なんだかそれは一種のマルチ商法の勧誘の入口トークであるかのように思え、逆に自分は「別に本なんか読まなくてもいいよ。テレビみなよそれより」と言うようになった。

そうしていくうちに自分も、本を読むことが嫌いになった。

ガールズバーで女性と話すことに悦楽を見出す私としては、本を読んでない、よりもTikTokも Instagramもみたことがない、のほうがよっぽど学が無いようにすら感じる。


しばらく窓の外をみていると、知り合いの人妻から『明日は中目黒に17時で大丈夫?』とLINEがきた。

「大丈夫ですよー」と返信すると『特にどっか重点的にやってほしいところがある?』とまた返信がくる。

彼女は昨年の11月から中目黒でエステ店をオープンした。

日曜日はとにかく暇なので、一度エステを受けにきてほしいと以前から誘いを受けており、それが明日なのである。

「うーん。鼠蹊部ですね」

『はいはい』

「あと肩の調子が悪いです」

『整骨院じゃないけどマッサージしてあげるよ』


17時か。面倒だ。今日はこのまま伊豆に一泊して明日そのまま中目黒に行こうか。

そんなことを考えながら携帯の画面を切り、窓の外に目をやりながら突然気付いた。


あれ?

いまの俺、めちゃくちゃ村上春樹風じゃね?

あれだけボロクソ言っておきながら、めちゃくちゃ影響されてました。

さすが村上春樹。さすが世界。



結局なんやかんや適当な温泉旅館に一泊し、14時過ぎくらいまでその辺をダラダラ観光し、特急に乗り東京へ帰ってきた。

以前も記したが私はモテキという久保ミツロウの漫画が本当に大好きであり、作中序盤でそれまで意識しなかった中柴いつかと温泉旅館に一泊し、フラレながらも帰りの特急でしつこくキスを迫って3回くらいした、みたいなくだりがとにかくお気に入りだった。

もう15年くらい前の作品だが、私はいまだに温泉ときくたびに中柴いつかを探し求めてしまう。

金曜日の夕方、ひとり黙々と大量の郵送物の仕分けをしていると『手伝いますよ』と総務の井本さんが話しかけてきてくれた。


「井本さん知ってます?こないだBUMPのライブチケットの金額調べてたんですよ。そしたらなんと13000円もしてましたよ」

『ええ?ほんとですか?行く気なくなりますね』

「その後エルレのライブチケット代調べたんですけどこれまたびっくりしました。いくらだと思います?」

『BUMPが13000円なら15000円とかですか?』

「なんと6000円です」

『ええ!安っ!なんでそうなっちゃうんですか?』


そうしてひとしきり盛り上がりながら仕分けをしていると、いきなり話題がなくなり、会話のエアポケットが発生し、沈黙の時間となってしまった。


"明日僕、日帰りに伊豆でも行こうかと思うんですよー。よかったら井元さんも一緒にどうです?"


言えるわけがない。なんて生々しい。

伊豆=温泉=SEXだ。

つまり日帰りに伊豆でも行きませんか?はもうサクっとSEXしませんかと言っているようなものだ。

そんなこと言えるわけがない。

けれども1人で缶ビールを飲みながら駅弁を食べている現在、断られてでもいいからそれくらいの勇気を出してもよかったなと少しだけ後悔をしてしまった。


16時半前には東京駅に列車は到着し、私はそこであらかたの旅道具をゴミ箱に捨て、身軽な格好となり中目黒のエステにむかった。


前述の通り、エステ店をオープンした知り合いの人妻から日曜日は暇だから施術を受けにきてほしいと頼まれたからだ。

17時過ぎには中目黒に着き、小綺麗な雑居ビルの7階へ上がる。

インターホンを押すと『いらっしゃいー。今日全然お客さんこないから早くこないか待ってたよ』と人妻が出迎えてくれた。


「伊豆に1人旅してきたんだ。これよかったら。お土産」

そう言って伊豆高原駅で購入した海の幸の詰め合わせと地ビールをプレゼントした。


『これナマモノだね。ありがたいけどさすがにこれを家には持って帰れないよ』

「ああ…そうか。ごめんなさい。あんまり考えてなかったです」

『お腹すいてる?』

「うん。少し」

『じゃあいまから一緒に食べちゃおうか』

そう言うと彼女は入口を施錠し、『オーナー特権』と微笑みながら待合室の受付用テーブルを片付け、大きめの布巾を敷き、事務所の中から割り箸と紙皿と紙コップをだしてきた。

『さすがにお酒はいま飲めないな。持ち帰りなよ』

「そうする」

すぐに変わりにアルカリ性の硬水のペットボトルが出てきた。

『怪しいでしょ?うちのおすすめの水』


そう言われて恐る恐るペットボトルに口をつけると、意外とまろやかで飲みやすく、癖になった。

ひとしきりお土産を食べ終えると彼女が片付けを始めたので、「手伝いますよ」とくっつくように彼女の後ろに回る。

その流れのまま私たちはSEXをした。

『あまり溢さないでね』と言い、例のアルカリ性の硬水を彼女は口移しで私に飲ませた。私たちはその後もアルカリ性硬水を口に少量含みながら愛撫をし、楽しんだ。

施術用のベッドは所謂診察台ベッドのため、高さがあるし人間2人が乗れるだけのスペースがなく、そこに彼女の手をつかけて後ろからしたり交互に腰掛けて性器を舐め合ったりした。

うまくベッドを活用したとは言いがたいプレイであったが、それでもそれを主戦場としているセラピストの両腕をつかせ、突っ伏させた光景を真後ろから見るのは、なんだかまるで欲望カテゴリーの夢が一つ叶ったかのようで、大いに私を興奮させた。


『策士だったね』

事後少し経ってから彼女は、私の頭をヘッドマッサージすながら顔を覗かせて言った。

「何が?」

『あんな豪華なお土産、しかもナマモノとか日持ちしないものを結構な量渡されたらさ、当然短時間で1人で食べきるの無理だから一緒に食べない?ってなるよね』

「あーそうか。いや気が利かなくて」

『私は結婚してるからまず持ち帰るのが無理だからそれを帰宅する前までに食べなきゃいけないし、独身の女の子だったら"じゃあ私の家で食べよ一緒に"ってなるかもしれないし』

「そんなうまくいきます?」

『元の関係性にもよるけどねー。あとどれだけお酒飲んでるかにも』

「じゃあデートの日は朝3時半頃におきて、始発で漁場に行って、朝市で新鮮な魚介買って、その後相手にしこたま酒飲ませて、SEXをするってことですよね?疲れてそれどころじゃないんですが…」

『まあそれだけの労力かけるほどSEXすることに価値あるかって言われたら微妙だよね』


しかしそうか。光が見えた。

びっくりするくらい大きくてぴちぴちな魚を買って、井元さんを誘えば、紆余曲折の果てに付き合えるかもしれないな…。

そんなことを考えながら帰り支度をし、私は彼女に15000円を払った。

おみ別エス込みイチゴ…(お土産代別エステ代込みで15000円)


「これってなんか風営法ひっかかってるんじゃないっすか?」

『ならお金貰うのやめようか?』

「いやいや、そういうわけには…」

『キミのそういうところ、良いよね』


最近私は頭痛がひどい。

もともと偏頭痛持ちなのだが、昨今は事象に関係なく頭痛が起こり、それが長く続くときもある。

市販薬でごまかしてはいるが、ひどい時は嘔吐もしてしまい、治る気配がない。


『うーん。硬いね。なんかね、頭を揉むとこんにゃくみたいにブヨブヨで柔らかい人がいるの。それが頭健康的にはかなりやばい状態。この硬さはブヨブヨになる手前な感じだよ。病院は一回行ったほうがいいと思う』

彼女は施術しながらそう言った。

苦手なんだよなー病院。

あなたは実際めちゃくちゃ病気です!と確定を出されてしまう恐怖が病院にはある。

もし重い病気だったらなんて考えると、到底行くことはできない。

でもいま死んだら、なんか佳人薄命っぽくてちょっとかむこよくていいかも。




んなわけないわ。まだ死ねん。

頭痛外来に行こうと思っています。

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