JW232 全て妄想
【開化天皇編】エピソード17 全て妄想
第九代天皇、開化天皇(かいかてんのう)の御世。
紀元前130年、皇紀531年(開化天皇28)1月5日、御間城入彦五十瓊殖尊(みまきいりひこいにえ・のみこと)(以下、ミマキ)が日嗣皇子(ひつぎみこ)となった。
それから数日後のこと・・・。
ミマキが住まう、日嗣皇子の屋敷に、弟の彦坐王(ひこいます・のきみ)(以下、イマス)が来訪していた。
ミマキ「よう参った。されど、なにゆえ、我(わ)が屋敷を訪れたのじゃ? 『記紀(きき)』にも『先代旧事本紀(せんだいくじほんぎ)』にも、このようなことは書かれておらぬぞ?」
イマス「それでも、兄上に申さねばならぬことが有り、罷(まか)り越しましたる次第。」
ミマキ「も・・・もしや!? 剣術の鍛錬(たんれん)をせよ! と申すのでは有るまいな? わしは、嫌じゃぞ! 芹彦(せりひこ)伯父上や、タケ伯父上に扱(しご)かれたいとは思わぬっ!」
イマス「そのようなことを申すために来たのではござらぬ。」
ミマキ「では、何用で参ったのじゃ?」
イマス「先日、大王(おおきみ)の前で、妃と子供たちを披露(ひろう)なされましたな?」
ミマキ「う・・・うむ。その通りじゃ。それが?」
イマス「兄上は、それで、よろしいのですか!?」
ミマキ「よ・・・良いのか・・・とは、どういうことじゃ?」
イマス「兄上の妃たちを見て、兄上の好みが、よぉぉく分かりもうした。」
ミマキ「わしの好み?」
イマス「兄上の好みを鑑(かんが)みた時、最も好みに合致(がっち)するのは、大彦(おおひこ)伯父上の姫君、御間城姫(みまきひめ)こと『みぃちゃん』ではありませぬかっ! 『みぃちゃん』に歌を贈らずして、それで、良いのですか?!」
ミマキ「ま・・・待て! 作者の妄想ではないかっ!」
イマス「妄想でも、言わせていただきますぞ! 『みぃちゃん』を妃にするつもりはないのですか?!」
ミマキ「そ・・・それは、無理な話じゃ。」
イマス「なにゆえにござりまする?」
ミマキ「汝(なれ)はオミナ(女)の心が分からぬようじゃから、申しておくが、『みぃちゃん』は、わしのことが嫌いなのじゃ。」
イマス「は?」
ミマキ「子供の頃から、わしを睨(にら)んでくるのじゃ。ずっと、あのことを怨(うら)んでおるのであろう。あの・・・ほれ、わしが、川に落ちたことがあったであろう?」
イマス「子供の頃に、川に落ちたことがありましたな・・・。それが?」
ミマキ「あのとき、わしは慌てて、『みぃちゃん』の手を掴(つか)んでしもうた。それがゆえ、『みぃちゃん』も川に落ちてしまったであろう? あれ以来、『みぃちゃん』は、わしを睨んでくるようになったのじゃ。」
イマス「そ・・・それこそ、作者の妄想ではありませぬかっ!」
ミマキ「ま・・・まあ、そういうわけで、『みぃちゃん』は好みの中の好みじゃが、歌を贈るなど、全くもって無理という話なのじゃ。」
イマス「兄上は、まことに鈍感にござりまするなぁ。」
ミマキ「ん? どういうことじゃ?」
イマス「よいですか、兄上? 『みぃちゃん』は、兄上のことを慕うておられるのです。睨んでいるのではなく、兄上を見つめておるのです。」
ミマキ「そ・・・そのような・・・。あろうはずもない・・・。」
イマス「かつて、聞いたことがありまする。『みぃちゃん』は、川に落ちた時、溺れてしまったそうで・・・。それを懸命に助けたのが、兄上にござりまする! あの時、『みぃちゃん』は、心が安らかになったと、兄上は命の恩人であると、そう申しておられましたぞ!」
ミマキ「なっ! そ・・・それは、まことか!?」
イマス「今からでも、遅くはありませぬっ! 歌を贈りなされっ!」
ミマキ「そ・・・そうか・・・。そうであったか・・・。よ・・・よし! 善は急げじゃ! 贈るぞ! イマス! わしは贈るぞ!」
イマス「良き報せを待っておりまするぞ。」
こうして、百パーセント、作者の妄想が語られたのであったが、イマスは、これに満足して帰路についたのであった。
向かった先は、イマスの妃、沙本之大闇見戸売(さほのおおくらみとめ)(以下、クララ)の屋敷であった。
当時は、通い婚なのである。
クララ「あら、イマス様・・・。剣術のお帰りにあらしゃいますか?」
イマス「うむ。今日もたっぷりと扱(しご)かれたぞ。」
クララ「と・・・ところで・・・。大変申し上げにくいことにあらしゃいますが・・・。」
イマス「如何(いかが)した?」
クララ「また、伯父上殿が来ておられるのです。」
イマス「伯父上・・・。和珥彦国姥津(わに・の・ひこくにははつ)こと、ニーハン伯父上か?」
クララ「そうです。」
イマス「またまた、変なことを吹き込みに来られたのか?」
不愉快な表情を隠しもせず、イマスが奥に入っていくと、ニーハンが、イマスの息子、狭穂彦王(さほひこ・のきみ)と語らっている姿が目に飛び込んできた。
ニーハン「それゆえ、汝(いまし)が、まことの日嗣皇子ぞ。汝の父上こそ、まことの大王となられるべき御方なのじゃ。」
狭穂彦「大伯父上! それでは、我(われ)こそが、次の大王なのですね?」
ニーハン「その通り! 今の日嗣皇子は偽物。いずれ、神罰が下るであろうなぁ。」
イマス「伯父上! 勝手なことを申されては困りまするっ!」
ニーハン「おお! 甥っ子殿! 来ておられましたか!」
イマス「子供の前で、有らぬことを申されては困りまする。」
ニーハン「有らぬこととは、何事か・・・。拙者(せっしゃ)は、まことを申しているまで・・・。」
イマス「息子が信じてしまうではありませぬか!」
ニーハン「狭穂彦は、良い子じゃ。ちゃんと、拙者の言うことを聞いてくれる。」
困り果てるイマス。
どうなってしまうのであろうか・・・。
次回につづく
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