JW318 赤子の名は
【東方見聞編】エピソード1 赤子の名は
第十代天皇、崇神天皇(すじんてんのう)の御世。
ここで、時は遡(さかのぼ)る。
すなわち、紀元前88年、皇紀573年(崇神天皇10)10月22日・・・。
高志国(こし・のくに:北陸方面)に向かうため、大彦(おおひこ)は支度(したく)に勤(いそ)しんでいた。
大彦「丹波平定編が、かなり濃厚な内容だったんだな。ちょっと羨(うらや)ましかったんだな。」
ここで、副将として従うこととなった、崇神天皇の皇子、大入杵(おおいりき)(以下、リキ)が苦言を呈(てい)してきた。
リキ「大伯父! 何を言うてるんです! 他の者と比べても、しゃぁないと思いまっせ。」
大彦「それは、そうなんだな。でも、それがしたちには、あそこまでの物語が無いと思うんだな。」
リキ「せやから、そないなこと、気にせんでもええやないですか?! やらんとあかんことをやればええんです。」
するとそこに、葛城宮戸彦(かずらき・の・みやとひこ)(以下、みやさん)がやって来た。
みやさん「我(われ)も、お供することになったのでござるよ。」
大彦「ん? 汝(いまし)が同行したなんて、どこにも書かれてないんだな。」
みやさん「いわゆる、作者の陰謀にござるよ。合いの手が多い方が、書きやすいとか、なんとか・・・。」
リキ「まあ、ええんやないですか。」
すると、更にもう一人の人物が駆け込んで来た。
和珥彦国葺(わに・の・ひこくにふく)(以下、くにお)である。
くにお「大彦様! 拙者(せっしゃ)も連れていってくだされっ。」
大彦「ん? どうしてなのかな?」
くにお「彦坐王(ひこいます・のきみ)こと『イマス』様に同行すること能(あた)わず、無念に思っていたところ、作者より、格別の御恩情(ごおんじょう)を賜(たまわ)り・・・。」
大彦「もう、こうなったら、一人増えても問題ないと思うんだな。そういうことで、許すんだな。」
リキ「まあ、ええんやないですか。」
くにお「かたじけのうござるっ。」
こうして、一行が北陸方面に向かおうとしていたところ、東海方面に向かう、大彦の息子、武渟川別(たけぬなかわわけ)(以下、カーケ)の一行と遭遇した。
大彦「おお! あれは、それがしの息子なんだな。」
カーケ「父上! それがしたちも出立したんだぜっ。」
当然、そこには「カーケ」の息子にして、大彦の孫である、武川別(たけかわわけ)(以下、ジュニア)もいる。
ジュニア「おじいさまっ。行って参りまするっ。」
大彦「うんうん・・・。風邪などに罹(かか)らぬよう、気を付けて欲しいんだな。」
ジュニア「分かっておりまする。」
リキ「せやけど、他にも付いて行く者が居(お)るみたいですなぁ。誰が、合いの手になったんや?」
カーケ「よくぞ聞いてくれたんだぜ! 同行するのは、こちらの二人だぜっ。」
その声に合わせて、二人の人物が飛び出して来た。
大伴豊日(おおとも・のとよひ)と、久米彦久米宇志(くめ・の・ひこくめうし)(以下、うし)である。
豊日「作者の陰謀で『おい』も、行くことになったんやじ。」
うし「超・緊張するっす!」
大彦「二人とも、息子と孫のこと、よろしく頼みまする・・・なんだな。」
豊日「そんげな物言い、やめて欲しいっちゃが。当たり前のことやじっ。」
うし「そうっすよ! ほとんど出番が無かったんで、こう見えて、超・嬉しいんすよ!」
ジュニア「おじいさまも、お気を付けてっ。」
大彦「うむ。遥か向こうの東国で、落ち合いたいんだな。」
カーケ「左様にござりまするな・・・だぜ。お気を付けてっ。」
こうして、二人の将軍は、互いの任地に赴いたのであった。
さて、大彦たちはと言うと・・・。
大彦「菟田(うだ)の墨坂(すみさか)に通りかかるところなんだな。」
みやさん「二千年後の奈良県宇陀市(うだし)の榛原萩原(はいばら・はぎはら)にござるよ。」
リキ「ん? せやけど、なんで、こっちから?」
くにお「どういうことにござりまするか?」
リキ「最初に出陣した折は、和珥坂(わにさか)から向かってたんや。今回は、違うんやなぁ。」
大彦「和珥坂は、二千年後の奈良県天理市和爾町(てんりし・わにちょう)なんだな。」
くにお「エピソード284にござりまするな・・・。あれは、武埴安彦(たけはにやすひこ)様の謀反を抑(おさ)えんとして、あえて、そちらから向かったのでは?」
大彦「そういうことにして欲しいんだな。」
リキ「ん? なんや?! どっから聞こえてくるんや!?」
大彦「ど・・・どうしたのかな?」
リキ「赤子(あかご)の泣く声が・・・。どこや?」
みやさん「あっ! あそこに、嬰児(えいじ)が捨てられているのでござるよ!」
大彦「おお! こんなところに・・・。男の子なんだな・・・。」
くにお「疫(やく)がゆえ、育てることが出来ず、捨てられてしもうたのか・・・。」
リキ「疫が収まったとはいえ、民(おおみたから)の暮らしは、楽になってないんやなぁ。」
大彦「このままにしておくわけには、いかないんだな。」
リキ「大伯父! 神々が、わてらを導いたんやっ。わてらで、育てましょ!」
みやさん「これから遠征に向かうのでござるよ? 育てられないと思うのでござるよ。」
くにお「どこかの邑(むら)にでも、預(あず)けられては?」
大彦「いや・・・。『リキ』の言う通り、これは神意(しんい)だと思うんだな。そういうことで、それがしたちが面倒を見るべきだと思うんだな。」
みやさん「そこまで申されるなら、お止めしないのでござるよ。」
くにお「して、名は何と、名付けまする?」
大彦「男の子を得た・・・。得彦(えひこ)が良いと思うんだな。」
リキ「のちに、宿禰(すくね)となり、難波氏(なにわ・し)の祖となるんやで!」
こうして、大彦一行の旅は始まった。
新たな仲間を加えて・・・。
つづく
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