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「生野菜のサラダ」という幻想が生み出す、社会のムダについて。

生野菜を食べるなんていう、たかだかこの数十年の流行り(ブーム)さえなくなれば、農業や流通のあらゆる課題が解決するのよね、という話。

生野菜のサラダが健康に良い?
まずコレね。極めて効率が悪い。野菜の栄養やエネルギーなどが一番吸収されない食べ方なのは明らかだ。

ではナゼ、生野菜のサラダがこんなにも広がったのか?それは逆説的だけど、肉食や魚食が広まったから、だ。

炭水化物はもとより、脂質や蛋白質が過多な食生活が広がってきたことを背景に、(あえて人にとっては消化の悪い)植物繊維を摂りましょう、排泄を促進しましょう、って話で盛り上がったのが1980年代。言うなれば「お通じブーム」ね。ハンバーガーにピクルスやソテード・オニオンだけじゃなく、生野菜(レタスなどの葉物野菜)が増え始めたのもこの頃※。

※日本もだいぶ遅れて、ピンクの小粒コー○ックや、ファイブ○ニとか、お通じ対策とか植物繊維でお腹キレイを謳う商品が沢山出た時代。

それ以前から、ヒッピーや自然信奉的な人の中には天然モノや生野菜しか食べないような人はいたが、ごく少数だった。しかし、肥満や成人病(現在の、生活習慣病)が社会問題化するにつれ、
野菜を食べている人は痩せている→ダイエット、便通、代謝に良い→栄養バランス保つのに必要だ→生野菜は健康や長寿に良い(日本の生食を誇大解釈して海外で流行ったエセマクロビもここ)→抗酸化作用があって生野菜は美容に不可欠、と、ホップ・ステップ・ジャンプ並みにあらぬ方向に飛躍した。

これ、まさに「トンデモ」で。

葉物中心の生野菜のサラダを食べることは、栄養バランスが良いんじゃない。せっかくの栄養なんてほぼ捨てている(ムダ)に近い。肉や穀類をメインで食べるようになった社会で、野菜は便通促進の掃除用具か、食べ過ぎ防止のクッション(またはボリューム感の演出)か、せいぜい腸内細菌のエサ程度に使われているに過ぎない。

もったいない。

そもそも、人はナマの植物の繊維(細胞壁ね。セルロースやキチン質)をまともに消化&吸収できない。胃酸で溶けはするものの、やはりヤギや草食動物のように繊維を消化し、高いエネルギーを吸収する能力はない。キノコや葉物野菜が人にとってほぼカロリーゼロなのもそれが理由だ。でも、加熱して細胞壁をしっかり壊せば、腸内細菌だけでなく人間もビタミン群、アミノ酸などが摂れる。

そして、根菜や豆はもちろん、葉物や果菜類にも糖質がちゃんとある。それらは加熱することでより吸収されやすくなるし、緩やかに血糖値も上がって満足感がある。加熱した野菜や豆だけで、本当に穀類要らずの生活ができるのだ。

野菜の栄養をバランスよく吸収できる食べ方は、ナマではなく「加熱」が基本。さらに「切る」や「潰す(する)」などで表面積を大きくして吸収効率を上げること。

できれば、生野菜を加熱調理するだけでなく、乾物(日射)、ピクルス(酸)、塩漬け(浸透圧)、発酵食品(菌)などで細胞壁をちゃんと破壊したり、栄養を分解や凝縮したり、補ったりすることで「食品化」されたものが良い。加熱や加工したらビタミンが壊れる!と騒ぐ人はいるが、それこそナマの葉っぱをせっせと食べるくらいなら、フルーツを補助的に摂るほうがはるかに効率的だ。

栄養学の世界や、医学(消化吸収)の世界や、文化人類学の世界はもっと連携して、「常識になりつつある、実はトンデモ」を撲滅するか、新しい発見を発信して欲しい。今のところ、料理人が体感的に知っていることや、脈々と受け継がれている生活の知恵の方が遥かに優れてる

この数十年間、「勘違い需要」が強まる一方だ。
科学と迷信のせめぎ合いが世の常だとしても、あまりに迷信が強すぎはしないか?

迷信→需要に引きずられ、なんでもかんでも「サラダ○○」という生で食べられるようなソフト野菜ばかりを作り、"鮮度が命"と過剰な冷蔵物流コストをかけて都会に運び、倉庫も売り場も冷房ガンガンつけて、余ったり傷んだりしたらすぐ捨てる。

こんなムダな社会をいつまで続けるのだろう?

挙げ句に、ナマで食べる機会が増えるから、なおさら農薬使うな、虫食いもイヤだ、となる。さらに、生でも感じるほどの甘みを求めたり、生で見栄える色味を上げろと求めるくせに、遺伝子組み換えや(組み換えではない)品種改良については不自然でイヤだとも言う始末。

ムチャ言うなよ。

生野菜独特の歯応えが好きだとか、ドレッシングなどの濃い調味料と合わせて食べるのが美味しい、という方も沢山いらっしゃるだろう。生食が好きなことが悪いわけではない。

ただ、これほど生野菜偏重ではなく、加熱や破砕、乾物や漬物などを食べる社会だったなら、こんなに農業者や流通が、農法や出荷規格、鮮度保持や物流コストに苦しむことはなかっただろう。言うまでもなく、乾物や漬物の方がはるかに日持ちもし、流通ロスもない。当然、災害対策や食料(流通)危機にも強い。

僕ももう、農業と流通に関わって10年になった。その間、あまり一般生活者の嗜好には言及してこなかったんだけど。

考えれば考えるほど、生野菜を食べるカルチャーを進めるより、加熱調理や一次加工品の利用が中心のカルチャーに戻せれば、農業や食の流通の多くの課題が片付くなぁ、と思っている。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜
あとがきに代えて。
興味のある方は是非、モロッコ料理を研究してもらいたい。野菜の食べ方の「模範解答」が、この夏に訪れたモロッコにもあるように思うのだ。僕も最近、勉強中。

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インキュベーター(事業を創る&支援する人)。ライフワークは #プラネタリーグッド な社会づくり。農畜水産・食料分野が専門。慶應SFC研究所 上席所員/農林水産省生物多様性戦略 検討委員など。いきものカンパニーなど2社の代表。グッドデザイン金賞など。

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