菊池遼

画家|博士(造形)

菊池遼

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最近の記事

平野泰子「hue and cry.」アートかビーフンか白厨

2024.4.14 アートかビーフンか白厨で「hue and cry.」を見ました。そこで展示されていた平野泰子さんの作品が興味深かったです。 作品を拝見した時の第一印象は、「写真っぽく見えるけどなんだろうこれ?」でした。というのも、この絵画の特徴である独特なグラデーションが、「フラッシュを焚いて撮った写真」の備えるグラデーションと似ている質を持っているように感じられたからです。 例えば、次の画像は、上が平野さんの作品、下が適当にフラッシュを焚いて撮った写真です。このグ

    • 高木優希「第72回東京藝術大学 卒業・修了作品展」東京藝術大学

      2024.2.2 高木優希さんの作品が面白かったです。 他人の部屋の写真をもとに模型を作って、それを撮った写真を描くという、やや入り組んだプロセスで生成された絵画とのことです。 「写真をもとに描かれた絵画」の備える独自の質感は絵描きからすれば一目瞭然ですが、その上で、この独自のプロセスを逆算させる(あるいは、違和感を覚えさせた上でステートメントまで誘導させる)ところまで描き切っている手腕が、まず卓越していると感じさせられました。 また、一見したところ、極めて写実的な絵で

      • 母袋俊也「空の絵〈Himmel Bild〉のさらに上方へ」GALLERY TAGA 2

        2024.3.19 我が恩師、母袋俊也の「空の絵〈Himmel Bild〉のさらに上方へ」を見た。二階建てのギャラリー空間を活かした、インスタレーション性の強い展示だった。 展覧会タイトルにも含まれている空の絵こと〈Himmel Bild〉は、展示空間の上方に掛けられる原則で制作された絵画シリーズ。その原則に則って、一階の上方に絵画が掛けられている。 それらを眺めつつ、階段を登って2階へ向う。 2階に着くと、床からギリギリ浮いた位置に掛けられた〈Himmel Bild〉

        • 清川漠「触感と反射」FOAM CONTEMPORARY

          2024.3.13 清川漠さんの「触感と反射」を見ました。アクリル板と塗料によって作られた作品とのことですが、「長時間露光によって得られた像」のような見え方を獲得しているのが興味深かったです。アクリルマウントの写真と並べたらどう見えるのか気になりました(解像度の問題とかが際立つのかもしれません)。 「境界線」をテーマに制作されているとのことでしたが、この独自の技法がどのようにテーマの表現と繋がっているのかについては言及がみあたらなかったので、ぜひその点についていつかお話伺

        平野泰子「hue and cry.」アートかビーフンか白厨

          須貝旭「類推の湖」RED AND BLUE GALLERY

          2024.2.29 須貝旭さんの「類推の湖」をRED AND BLUE GALLERYで見ました。銀箔と感光剤を用いることで、経年変化をあえて積極的に引き起こすことを意図した絵画作品が展示されていました。 描かれている架空の湖というモチーフについてや、修復についてなど、色々な論点がありそうな展示・作品だなと思いましたが、個人的には、絵画における「イメージ」という言葉について考えさせられました。 もはや日本語の日常語となったこの「イメージ」という言葉ですが、その割に意味は

          須貝旭「類推の湖」RED AND BLUE GALLERY

          黒木結「地球に線を引く」櫻木画廊

          2024.2.26 櫻木画廊で黒木結さんの「地球に線を引く」(飯盛希さんキュレーション)を見ました。 ガザとイスラエルの死者数とほぼ同枚数のポストカードがギャラリーの床いっぱいに並べられているという作品です。ギャラリーの中には入れずに、窓からギャラリーの中を鑑賞するという形式の展示でした。 キャプションによると、ポストカードは23枚ほど重ねられて置かれているらしく、表面からは見えない部分がかなりあるようです。そのことは、窓越しにしかギャラリーの中を見ることができない展示形

          黒木結「地球に線を引く」櫻木画廊

          末永史尚「軽い絵」マキファインアーツ

          2024.2.18 我が師匠、末永史尚さんの個展『軽い絵』を見てきました。(マキファインアーツ) 色々と興味深い点はありましたが、個人的には、ステートメントに載っていた「控えめに抽象的なイメージ」という言葉に特に反応しました。 私はこの言葉から、末永さんが2015年にキュレーションした『控えめな抽象』という展示を思い起こしました。 そこで、その展示のステートメントを久しぶりに読んでみたのですが、そこには次のようなことが書かれていました。 「『抽象』とは、一般に理解さ

          末永史尚「軽い絵」マキファインアーツ

          半田颯哉「public void re-anthropocentrism()」LAG

          2024.1.27 半田颯哉さんの「public void re-anthropocentrism()」を見ました。 最近の流行に「脱人間中心主義」というトピックがあると思いますが、そうしたトピックに対して警鐘を鳴らす意図を持った展示と理解しました。 脱人間中心主義的な美術にくくり得る作品が採用しがちな手法として「人間以外の存在が生成したものを用いる」というのがあると思いますが、実際のところ、それを選んで展示しているのは作家なわけで、そこには「生成における主体性の放棄」に

          半田颯哉「public void re-anthropocentrism()」LAG

          門倉太久斗「スピードレクイエム 」Gallery10

          2023.12.30 Gallery10で開催されている門倉太久斗さんの「スピードレクイエム 」がとても良かったです。 門倉さんは「技術の進歩などによって機能的に意味が失われたものをいかに肯定することができるか」という主題に取り組んでいるのかなと理解しました。端的に、機能的に意味が失われたとしてもそこに美を見出すことはできるわけで、そうしたかたちでものごとを肯定していく態度が好きだなと思いました。 先に「ものごと」と書いた部分は、より具体的には今回の展示では「男性の身体

          門倉太久斗「スピードレクイエム 」Gallery10

          MOYAN「周縁の身体」氷川参道ギャラリー

          2023.10.12 MOYANさんの個展「周縁の身体」がとても良かったです。特に入り口すぐの大作を興味深く拝見しました。 画面は二枚のパネルに分割されていて、左のパネルはMOYANさん特有のリアリスティックな描写で構成されていますが、右側のパネルはキャンバス地がそのまま残された部分が多く、また、絵具が乗っている部分も地塗りがされていないため、暗く沈んだ色合いになっています。 そうした左右のパネルの特徴から、鑑賞者はまず、左側の描き込まれた方のパネルに目線が向かいます。

          MOYAN「周縁の身体」氷川参道ギャラリー

          山縣瑠衣「Measure your pixel」TAV GALLERY

          2023.9.16 山縣瑠衣さんの個展「Measure your pixel」をTAV GALLERYで見ました。現代の地図(Googleマップ)から、「新しい風景画」を組み立てる、みたいなモチベーションがコアにある作家なのかなと理解しました。 なので、今回の個展で発表された作品は、現代の地図(Googleマップ)の山縣さんによる解釈と、そこから制作された「風景画」という、二系統に分けられるのかなと思いました。 個人的には、現代の地図の解釈が示された映像が特に興味深かっ

          山縣瑠衣「Measure your pixel」TAV GALLERY

          川原茜、菊池遼「Let me see your…」NEWoMan横浜

          2023.9.12 いま参加させていただいているNEWoMan横浜の展覧会では、はじめてアクリル額を使用した展示を行っているのだが、それが作品とマッチしていてとても良いなと思っている。それで、その良さはどこからくるのか考えてみたのだが、「距離が可視化される」からではないかと思った。 〈void〉の作品は鑑賞距離によって見え方を変えるので、「距離」がとても重要なシリーズ。ただし、「距離」ってそれ自体としては見ることのできない、ある種の不可視なものなのだと思う(横に並んだ物と

          川原茜、菊池遼「Let me see your…」NEWoMan横浜

          鈴木操「fortunes」TAV GALLERY

          2023.8.26 昨日は鈴木操さんの個展「fortunes」をTAV GALLERYで見てきました。 初見の印象としては、とにかく「謎の物体」といった感じで、面白いなと思いつつ、どう見てよいのかよく分からなかったのですが、キュレーターの飯盛さんのお話を聞いてたらちょっとずつ分かってきました。 鈴木さんの作品は色々な要素が複雑に絡み合っているけど、いくつかある軸のひとつとして、「伝統的な彫刻というものを解体して、新しい彫刻の概念を打ち立てる」みたいなモチベーションがあるの

          鈴木操「fortunes」TAV GALLERY