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須貝旭「類推の湖」RED AND BLUE GALLERY

2024.2.29

須貝旭さんの「類推の湖」をRED AND BLUE GALLERYで見ました。銀箔と感光剤を用いることで、経年変化をあえて積極的に引き起こすことを意図した絵画作品が展示されていました。

描かれている架空の湖というモチーフについてや、修復についてなど、色々な論点がありそうな展示・作品だなと思いましたが、個人的には、絵画における「イメージ」という言葉について考えさせられました。

もはや日本語の日常語となったこの「イメージ」という言葉ですが、その割に意味はけっこう多義的で、その内実が都度で変化するというような、あんがい厄介な言葉だという気がしています。そして、この「イメージ」という言葉は、絵画を考える際に非常に頻繁に登場する言葉でもあります。

そうした「イメージ」という言葉ですが、須貝さんは銀箔の酸化による色の変化によって生じる現象を「イメージが変化する」と表現していて、この「イメージ」という言葉の使い方が、個人的には独特な感じがして、興味を引かれたのでした。

というのも、例えば、選挙ポスターの色あせによる見た目の変化などは、「イメージが変化した」とは表現しないような気がしたからです。なぜその変化をイメージの変化と表現しないような気がしたのか、それについてはいままで考えたことがなかったので、とても不思議に感じました。

では、そうした選挙ポスターの色あせによる見た目の変化は、自分だったらどう表現するのか。そう考えてみたら、「イメージの現れ方の変化」かなと思いました。これは、我ながら変な言葉遣いだなと思います。現れとは別に、イメージがそのものとして存在していることが前提の表現となっているからです。

こうした変な言葉遣いとなってしまった原因について考えてみたのですが、シンプルに、選挙ポスターは「写真」だからかなと思いました。バルトを引用するまでもなく、写真は被写体の存在と不可分の媒体です。つまり、シャッターを切って生成されたイメージには、それに対応する被写体が存在している。

なので、写真におけるイメージは、媒体が不透明化(色あせや傷がつくなど)しても、それは単に現れが変化しただけで、イメージはそれ自体で存在しているように感じるのかな、と思いました。だから、選挙ポスターの色あせを自分は、「イメージの現れ方の変化」と表現するのかなと考えました。

と、このように選挙ポスターの色あせについて考えてみてから、須貝さんの絵画に戻ってみると、須貝さんの絵画のイメージには──というよりも、絵画のイメージ一般には原理的に──写真のような仕方で対応する「被写体」が存在していません。

なので、以上のような思索を持って、絵画においては「現れ」が即ち「イメージ」なのかなと仮説を立てました。このことはこれまであまり考えたことがなかったので、まだ仮説の段階で、自分でもまだよく分かってないのですが、須貝さんの展示を見て、このようなことを考えたのでした。

ところで、須貝さん自身の言葉を引いてみると、次のような表現を見つけました。

「銀箔の上に感光剤(アーギロタイプ)を用いて焼き付けたイメージは、時間とともに見た目を変えていく」
(今回の展示のステートメント)

「素材として用いた銀箔の経年変化によって、絵画の中に表現したイメージ自体をも変化させることで、「時間を可視化する」絵画が可能となるのではないか」
(博論の序論)

このふたつの引用の「イメージ」の言葉遣いには、これまでの思索を踏まえると、大きな違いがあるように思われます。イメージの「見た目」が変化しているのか、イメージ「自体」が変化しているのかの揺らぎがあるからです。

イメージの「見え方」と「在り方」。須貝さんの作品の解釈には、この区別についてどう考えるのか(そもそも区別をするのか、しないのかということも含めて)が、大切になってくるのかなと、ぼんやりと思ったのでした。

あとは、絵画といえども、例えば、ニスの黄変による見え方の変化は、「イメージの変化」よりも「イメージの見え方の変化」な気がして、これについて考えてみることも、須貝さんの作品の解釈に貢献するのかなと思いました。

このニスの黄変は、絵画の描画層の変化ではなくて、保護層の変化なので、「イメージの現れの変化」なのかなと思いました。となると、絵画におけるイメージは、描画層と不可分なのかな、とか、考えました。

これは、写真におけるイメージが、被写体と不可分なのと比較すると、面白い事態だなと思いました。媒体によって、イメージと結びついているものが変わってくるのかなと、これまた須貝さんの作品について考えていく中で、自分の中に新たな仮説が立ちました。

と、これまで色々考えてきつつも、これは単なる感想なので結論はないのですが、「イメージ」という言葉について色々と思索を深めさせてもらえて、とても興味深い展示・作品だったなと思いました。

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