企画展「21.5世紀の地域デザイン」▶ブックリスト1 A:地域の新しいチャレンジ
本企画展で展示する全50冊の書籍は企画展チームの3人が選書し、7/12開催のプレイベント「〈21.5世紀の地域〉は今:企画展に向けて」においてトークセッションの形でご紹介しました。
当日の内容を再構成し、本企画展ブックリストとして全3回でお届けします。
〈選書者〉
髙宮知数(株式会社ファイブ・ミニッツ)
三尾幸司(一般社団法人社会デザイン・ビジネスラボ)
中村陽一(立教大学名誉教授、HIRAKU IKEBUKURO 01 SOCIAL DESIGN LIBRARY ファウンダー、株式会社ブルーブラックカンパニー)
※プレイベント当日のキーノートスピーチおよび自己紹介
→https://note.com/kikakuten_hiraku/n/nd6a64a6ffa45
《凡例》 ■:総論 ◎:多地域 ★:海外 〈地域名〉 【選書者】
[前]:前期 [後]:後期 [通]:通期
1.ヤン ゲール『人間の街:公共空間のデザイン』鹿島出版会、 2014年 【髙宮】★[通]
今日は演劇だけではなくて、もう私などよりはるかに都市計画とか建築の大先輩がいらしているので、私などががヤン・ゲールの話をするのがおこがましいというか恥ずかしいのですが、皆さんはいわゆる都市計画と聞くと、専門家が行政と一緒になって、再開発により巨大な高層ビルが出来上がっていく、すごい金額のお金も動く、というようなものをまず想像されると思います。
もちろん、そういったものも依然として続いているのですが、大昔、1970 年ぐらいに歩行者天国というものが日本でもはじまり、しばらく実施されていました。銀座などで日曜日だけは車道を全部止めてということが行われ、今も一部で復活していますけれども、そういう取り組みがありますよね。もともとそれを提唱したのは、私が知ってる限りで言うとローレンス・ハルプリンさんというアメリカのランドスケープデザイナー、都市計画をやられていた方で、市民のワークショップなどを行いながら出てきた一つのアプローチです。
そういった意味で、都市計画を専門とされる方は、やはり市民がどうすればもっと生き生きと暮らせるような街になるのだろうかということを絶えず考えています。その代表的な 1人がこのヤン・ゲールさんという方です。
“City for People”(本書の原題) というのはそういった分野ではすごく著名な本です。彼はデンマークの出身ですが、実際に私もコペンハーゲンに行ってみてびっくりしたのは、デザインとか暮らしやすさという面が実によくできているな、と。後から知ったのは、このヤン・ゲールさんが「人が主体のヒューマンスケールで街を作っていく」ということを提唱され、その流れを受けて実現されたということです。
2.福岡孝則・遠藤秀平・槻橋修『Livable City(住みやすい都市)をつくる - Creating Livable Cities』マルモ出版、2017年 【髙宮】★[後]
1と同じように、リバブル、つまり住みやすい都市をある指標によってランキングする活動を通じて、日本でそれを実現するにはどうしたらいいだろうかというテーマの本です。著者のお三方は執筆時、みな神戸大の先生でしたが、メルボルンへ行ってフィールドをリサーチしたりしながら、日本も何とかリバブルシティを生めないだろうかということで、いろんな事例を含めて研究された本です。
3.小林和夫 編『住みやすい町の条件』晶文社、1990年 【髙宮】〈台東区・世田谷区(東京都)〉[前]
この本はちょうど今日いらしている劇作家/演出家の佐藤信(さとう・まこと)さんからプレゼントされて、私も読んですごく面白かった一冊ですが。もう随分前に出たもので、まだ世田谷パブリックシアターができたり、あるいは「谷根千」などが今みたいな人気になる前、下町と山手の街のあり方がいろいろと考えられてた1990 年に、いろんな方の原稿とシンポジウムなどをまとめられたものです。
信さんも参加されたシンポジウムの再録の他に、本当に下町の女将さん会みたいな人たちから、世田谷や台東区の区長さんとか、いろんな人の話が出ていて、ちょっと時代的には懐かしさを感じる部分もありますけれども、やはりこの頃考えられたり、問題提起されたことが、まあなかなかできたこととできていないことがあるなということを時々読み返しながら思うものです。
4.シゴカイボン編集委員会『シゴカイボン 』 BankART1929、 2009年 【髙宮】〈横浜市(神奈川県)〉[前]
次は一転して、ちょっと若い建築家たちがやっていた試みを紹介した本です。実はもう今は壊されてチェーンのビジネスホテルになってしまったのですが、古いレトロビルが馬車道にありました。元は、その前に馬車道の辺りの 2 つのビルに、主として東京で事務所を構えていた建築家ですとかアーティストが破格の値段という家賃の安さにつられて、何十組か事務所を移したんですね。そこはもともと亡くなった森さんが六本木に続いて再開発するつもりで用地を買い始めていて、それで再開発する前にしばらく若いアーティストとか建築家に住んでもらってということでやったんです。
ところが、そこがもう借りられなくなった後に移転したのがこのビルで、ここの中に入っていたその建築家たちが逆にここを拠点にしていろいろな活動をしていて、読んでもらうとすごく楽しいのがすぐ分かるのですが、簡単に言うとずっと学園祭をやっているようなノリで、みんなで建築家とかまちづくりの話を、アーティストも入っていますからワイワイやりながら、年に 2 回ぐらいは本当に学園祭みたいに一般の人もそこに遊びに行けるような、そんな活動をしていた拠点の活動記録のような本ですね。
5.Open A +公共R不動産 編『テンポラリーアーキテクチャー:仮設建築と社会実験 』学芸出版社、2020年 【髙宮】◎[前]
次の本は、この間「プロフェッショナル 仕事の流儀」にも出ていたのですが、建築家でもあり、R不動産のディレクターもされている、馬場正尊(ばば・まさたか)さんがという方は、いわゆる従来の不動産とかまちづくり開発とはちょっと違う流れを作った建築家です。いま50代半ばだと思いますが、その方がもっと仮設建築で社会実験をやりながら街を変えていったらどうだろうということで、非常に大胆なアイディアを含めていろんな仮設建築の事例が出ています。
これは先ほど触れた『リバブル・シティ』の本などに出てくる槻橋修さんなどが一生懸命取り組まれているタクティカルアバニズム(長期的戦略に基づいた仮設的実践)ですとか、新しい今のまちづくりの流れを実践するひとつのアイデア集みたいな本として出されましたものですね。
6.影山裕樹『ローカルメディアのつくりかた:人と地域をつなぐ編集・デザイン・流通 』学芸出版社、2016年 【髙宮】◎[前]
ここまでは建築・都市計画関連の本が続いたのですが、地域を考えるときに忘れてならないのがローカルメディアです。インターネットが初めて普及した頃、僕らはなんとなく、これで世界中誰とでもつながるんだ、もう近くの人だろうと遠くの人だろうと、とにかくつながりたい人とはつながれるんだと一瞬思ってしまったわけですけれども、実際そうならなかったわけですよね。逆に SNSなどでもつながる人が限られていて、その中で同じ意見の人だけが増幅し合うという状態になってしまっています。
逆にローカルなメディアは、例えば地方の新聞なども含めて非常に経営が苦しくなっています。地方の出版社なども同様です。けれども、やはりローカルな地域のデザインを考えたり、暮らしを考えたりしていく時には、ローカルに密着したメディアがなくてはいけないだろうと思います。この本はそれを実践的に作られた方が「ローカルメディアってこういうふうに作っていったら、素人が始めてもなんとかうまくいくよ」という入門的なガイド本であり、実践記録のような本です。
7.エリック・クリネンバーグ『集まる場所が必要だ:孤立を防ぎ、暮らしを守る「開かれた場」の社会学』英治出版、2021年 【三尾】★[後]
これは新しいものを建てるというよりは、社会インフラでいうと図書館などの公共施設をうまく活用している事例の本です。孤独になっている方が高齢者の方が図書館で自分の存在価値を見つけるお話であったり、自分が置かれた環境の中では居心地が悪い子どもを受け入れてくれる警察署であったり、そういうパブリックな場が集まる場所としてちゃんと開かれているというお話がいろいろあり、私にとっては面白かったです。なかなか日本ではこういう取り組みがやれる自治体とそうではないところもあったりするので、その辺は非常に面白いかなと思いました。
8.嶋田洋平『ほしい暮らしは自分でつくる:ぼくらのリノベーションまちづくり』日経BP、2015年 【三尾】〈北九州市(福岡県)&豊島区(東京都)〉[後]
今リノベーションスクールというのが行政の中では全国的に流行っているというか、結構いろんな地域でやられていまして、それを立ち上げた方の本です。そこでは、空き家とか空き店舗をどのように活用するかといったことを地元の熱い人たちが侃々諤々議論して、そこでこんなことをやったらいいじゃないかと、ピッチというかプレゼン大会をやったりしています。
私も地方でお仕事をしている時に、実際にリノベーションをされた人のお話を聞くと、やはりリノベーションスクールが開催されていて、店舗を新しくするまでのアイディアを出すところまではこのリノベーションスクールが結構サポートしていたらしいのですが、その後のお金をつけるところ、補助金をつけるみたいなところは自治体が戦略的に展開しているようです。もちろん、何店舗かはうまくいって新しい取り組みが生まれたりはしているのですが、やはり街全体が生まれ変わるかというと、なかなかそこまでたどり着くのは難しいというエリアもあります。やはり、こうした動きをもっともっと盛り上げられるような仕組みも必要になるのではないかなと思っています。
9.海老原城一・中村彰二朗『Smart City5.0:持続可能な共助型都市経営の姿』インプレス、2023年 【三尾】〈会津若松市(福島県)〉[前]
「スマートシティ 5.0」 というのはかなりデジタルなお話で、これはアクセンチュアという会社さんが会津若松でずっとやられている取り組みです。デジタルを使っていろんなアプリケーションを町の人とか市民と一緒に作り上げているモデルになってます。デジタルを地方で実装していくと、どうしてもなじめない方々も出てくると思うのですが、そこもしっかりと説明をしながら地道に取り組んでおられるという話が出ています。
10.山口周 『クリティカル・ビジネス・パラダイム:社会運動とビジネスの交わるところ』プレジデント社、2024年 【三尾】■[後]
次は最近出た山口周さんの本です。ソーシャルビジネスとは違う「社会運動」とビジネスの交わるところが書かれていまして、今までなかなか整理しにくかったところが整理された本で面白いので挙げさせてもらいました。
どんなところが面白かったのかというと、社会運動っていわゆるマジョリティな人たちからすると、ともすれば反発されるようなもので、声を荒げて言われているときは上手くいっていないわけです。ところが、なんとなく軌道に乗り始めると、ばーっとマジョリティの方に持っていかれるみたいな形になり、ビジネスとしては大きな種を生み出すものになる、と。一方で、デザイン思考みたいなのも一時期流行りましたけれども、なぜデザイン思考が最近上手くいかないかといったことも書かれています。新しいビジネスを考える上で、昔からやられている社会運動が、今ビジネスとして成り立っているのはなぜなのかといったことが書かれていて、頭の整理をするには非常に面白い本でした。
11.川口伸明『2060 未来創造の白地図 :人類史上最高にエキサイティングな冒険が始まる』技術評論社、2020年 【三尾】★[後]
私はデータを見るのが結構好きなので、いくつかデータ系の本も選びました。その1つ目がこちらですが、地図と言いながら本当にいろんなテーマ、たとえばヘルスケアであるとかインフラであるとか、それらが 2060 年までにこういう技術が実現してこう変化するのではないかといった未来予想図が書かれているので、新しいこれからのまちづくりやビジネスを考えていく上で非常に参考になるのかなと思っています。
2060 年と言いながら、書かれているのは近未来のことが中心で、やはり 30 年、 40 年以降のことは想像しにくいのかなとも思いました。実は同じ著者と出版社で 『2080 年への未来地図』という本も出ていて、こちらは未読なのですが、2080 年でどこまで書かれているのかを楽しみに、そちらも読もうかなと思っています。
12.日本経済新聞社地域報道センター 編『データで読む地域再生 「強い県・強い市町村」の秘密を探る』日本経済新聞出版、2022年 【三尾】■[通]
これは都道府県ごとのいろんなデータが載っていて面白い本です。iDeCo 加入率、未婚率、 10 代投票率とかいろんなデータがあって、その県ごとにどういうところに強みがあるかが分かりやすく書かれています。これも続編(『新データで読む地域再生 「人が集まる県・市町村」はどこが違うのか』日本経済新聞出版、2024)が出ており、そちらもまた興味深いテーマがあったりするので、こうしたデータで地域の特徴を見るのは面白いです。
13.河合雅司『未来の地図帳:人口減少日本で各地に起きること (講談社現代新書) 』講談社、2019年 【三尾】■[通]
『未来の年表:人口減少日本でこれから起きること (講談社現代新書)』(河合雅司 著)という一時すごく売れた本がありますが、それの地図帳という形です。どの県でどういう人口移動があるかといったところが細かく書かれています。東北だったら仙台とか、九州だったら福岡といった地方都市が、1 回人口を吸収し、そこは人口増加率が伸びているのですけど、その後そこから東京に出て行っているといった具合です。結局、人口が増えている地方都市があるといっても、地方の人口を吸収しているだけだったりもするわけです。そういう人の動きがある中で、どういうふうにまちづくりをしていくのかを考えるには、データに関する本は非常に面白いのかなと思っています。
14.中村陽一・高宮知数・五十嵐太郎・槻橋修『21.5世紀の社会と空間のデザイン―変容するビルディングタイプ』誠文堂新光社、2022年 【中村】◎[通]
髙宮さんも編者としてご一緒いただいた本です。リストにはこれの1つ前の本が載っていますが、第2作の方を挙げてあります。これは大和ハウスさんと組んで、立教大学の社会デザイン研究所として寄付講座を開催したのですが、その成果本として2冊出したうちの 2 冊目の方です。この中では、佐藤信さんと伊藤豊雄さんの特別対談というのも入れさせていただきました。
ビルディングタイプというのは建物、構造物の機能を分類する学として、建築分野で発達した学と聞いていますが、最近は構造物だけではなくて、公園とか様々な新しい街の中の機能というところにも考え方が及んでいるということです。個人的には、この共同研究、寄付講座を通じて社会のデザインを考えるときに空間のデザインというところと相互乗り入れをすることが非常に大事だなということが実感としてわかった本です。
15.石山恒貴『地域とゆるくつながろう!:サードプレイスと関係人口の時代』 静岡新聞社、2019年 【中村】◎[前]
いわゆるサードプレイス論、それから関係人口論でもある本です。著者の石山さんは法政の大学院の先生で、私もお付き合いがある方です。このタイトル通り、サードプレイスというのは血縁や地縁でガチッと強く結ばれたつながりではなく、ゆるやかにつながろうというものですね。「ウィークタイ(弱い紐帯)」という言葉がありますが、まさにそれです。
帯には「サードプレイスの分類」について書かれていますが、これを見ますとこの本が言おうとしていることが一発でわかると思います。
16.高松平藏『ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか:質を高めるメカニズム』学芸出版社、2016年 【中村】★[後]
これは少し前に出た本ではありますが、私も大変興味深く読んだ本です。当時10万人当時のエアランゲンという地方都市が全国平均の 2 倍の GDP という経済力を発揮しつつ小さく賢く進化し続ける街だということで、何でそういうことが可能なのかをドイツ在住のジャーナリストである著者が分析をされています。もちろん、日本にすぐそのまま持ってくることは難しいにしても、いろんなヒントが詰まっています。
17.東大社研・玄田有史・宇野重規 編『希望学1 希望を語る』東京大学出版会、2009年 【中村】■[後]
東大の社研、社会科学研究所が出された本です。著者の玄田さんはもともとは労働問題を研究されていた方ですが、希望学によって広く注目されるようになりました。このシリーズは全 4 巻で、2009年の4月から7月にかけて刊行されたものです。つまり東日本大震災より前に出されたのですが、非常に大きな災害とか、私が冒頭で申し上げたような地方・地域のいろんな問題を踏まえたときに、どのように希望を語ることができるのかを見たものです。
それぞれの巻のテーマがあるのですが、岩手県釜石市を事例としてフィールドワークをされていることもあって、例えば第 3 巻では釜石から見た地域社会の未来とか、釜石の歴史と産業を語るものとか、そういう切り取り方をされています。玄田さんと、それぞれの巻によって加わる編者が違っていて、「村上龍推薦」などと帯についてもいますね。ちょっと分厚い研究書ですけれども、ぜひご覧いただければと思います。
18.内山節『内山節のローカリズム原論:新しい共同体をデザインする』 農山漁村文化協会、2012年 【中村】■[前]
私も一昨年まで在籍をしておりました立教大学の 21世紀社会デザイン研究科、今年から 21世紀が取れて社会デザイン研究科になりましたが、そこで内山さんが授業として行われたものをまとめたものです。
ご存知の方も多いと思いますが、内山節さんは私の学生時代からすでに活躍されていた方で、よもや将来同僚になるとは思いませんでしたが、内山さんはもともと都市の問題だけではなくて、都市と農村とか、まさにローカリズムと言われる部分から新しい共同体という議論をずっとして来られました。立教の中でも、そこからの社会デザイン論として展開され、私も非常に勉強になりました。
19.藤山浩『田園回帰1%戦略:地元に人と仕事を取り戻す (シリーズ田園回帰)』農山漁村文化協会、2015年 【中村】◎[前]
これは農山漁村文化協会という、長い歴史を持つ団体が版元です。まさに名前の通り、農山漁村と地域の問題をつなげて、ずっと分析して来られたところですが、このシリーズは全8巻で、手元には 第1 巻と 第2 巻があります。第1 巻は「地元に人と仕事を取り戻す」、第 2 巻は「人口減少に立ち向かう市町村」、まさに今回のこの企画展でも正面から取り上げようとするテーマにチャレンジしたものとして、さすが農文協という中身になっています。
20.今井照 『地方自治講義(ちくま新書)』筑摩書房、2017年 【中村】■[前]
私たちが地域について考えるとき、地方自治あるいは地方自治体の問題というのは避けて通れないのですが、現場のリアルに即した適切な入門書がなかなかない中で、この新書は非常にベーシックなところをうまく捕まえることのできる本です。「自治体を使いこなす」という帯の文句がありますけれども、そういう観点から非常に面白いと思います。
21.室田信一・石神圭子・竹端寛 編『コミュニティ・オーガナイジングの理論と実践:領域横断的に読み解く』有斐閣、2023年 【中村】■[前]
去年出た本ですが、コミュニティ・オーガナイジングの議論はこの数年、日本でもだいぶされるようになりました。もともとは、例えばアメリカにおける公民権運動、キング牧師で有名でしたけれども、あれはまさにコミュニティ・オーガナイジングなんですね。簡単に言うと、虐げられている人たちの方が数が多いのになぜ世の中変わらないのか、それは虐げられている人たちが分断されているからだ、と。ですから、その分断を解消してつながりをつくり上げていこうという、極めて具体的でリアルなある種の社会運動論であり、市民運動論でもある議論です。
最近は少しそれがおしゃれな感じになりまして、日本でもコミュニティ・オーガナイジング・ジャパンというNPO法人ができたりして、まちづくりや地域づくりの新しい手法みたいに捉えられていますが、実はいろんな流派があります。そのいろんな流派をうまく整理してまとめた本で、研究書ではありますが、コミュニティ・オーガナイジングをちゃんと考えようとしたら、この本が一番、今日本語で読めるものとしては役に立つというふうに思って推薦しました。
22.笹尾和宏『PUBLIC HACK:私的に自由にまちを使う』学芸出版社、2019年 【中村】◎[後]
「公共空間の過度な活性化で、まちは窮屈になっていない?」この問いを起点に、ルールに縛られた公共空間を解きほぐし、公民連携の新たな課題に取り組むアクティビティとマネジメントを集めた実践集です。公共空間の活用が進むのはいいが、効率化・収益化を追求するあまり、ルールに縛られ、商業空間化し、かえってまちを窮屈にしているのではないか。そうした問題意識に発し、個人の側からの視点での活動によって、まちをもっと寛容な空間にしていく「作法」を追究しています。賛否両論が出そうな事例も含め、思考実験の書といえます。
23.三浦展・藤村龍至 編著『3・11後の建築と社会デザイン (平凡社新書)』平凡社、2011年 【中村】■[通]
東日本大震災の半年後ぐらいにシンポジウムとして行われたものの記録です。タイトル通り建築分野の方と、私のような社会デザインという分野の人間が集まって議論を重ねたものです。シンポジウムの記録なので、まとまった読み物ではないのですが、震災後の記憶もまだ生々しい中、各界の関係者が集ったものとしては、わりと手軽に読めるものとして、いまだに価値のある本ではないかな、と。自分も関わってるので手前味噌ではありますが、そう思っております。
24.荒川雅志 著、日本スパ振興協会 編著『ウェルネスツーリズム:サードプレイスへの旅』フレグランスジャーナル社、2017年 【中村】■[後]
ウェルネスツーリズムというのは、ちょっと耳新しいテーマかなと思います。ツーリズムといってもいろんな種類がありますが、著者である荒川さん、そして荒川さんも関わっている NPO 日本スパ振興協会が着目しているのは、サードプレイスです。ウェルネス、ウェルビーイングという言葉ともつながりつつ、私たちの暮らしや人生における健康とツーリズムというものを結びつけ、それが具体的に展開される場としてサードプレイスをとらえています。沖縄の事例も出てきます。
25.彌重功『愛着のある家、物語のある暮らし:住み続けたい、住み継ぎたい家の探求 (人と住まい文庫) 』西山夘三記念すまい・まちづくり文庫、2023年 【中村】■[後]
先ほど大和ハウスさんのお話をしましたが、こちらはライバル会社の積水ハウスさんの社員でもある彌重さんという方の書かれたブックレットです。ハウスメーカーにもいろんな企業としての特色の違いがあり、積水さんは個人の住宅、住まいに対する愛着や、そこでの物語ということを非常に重視して展開されてきたところです。
※B:〈本〉をめぐる新しい文化(№26-№32)
→ブックリスト2 https://note.com/kikakuten_hiraku/n/nec08a507cbb8
※C:新しい地域文化の息吹
→ブックリスト3 https://note.com/kikakuten_hiraku/n/nbdb587da8195